第31話 大当たり!!
「はッ…!?」
クラウンが目覚めると、そこは病室だった。隣には、笑みを浮かべるグリムの姿があった。
「…僕は……」
「2時間37分42秒17も寝てましたよ!」
「……数えてたの…?…怖いなぁ……」
ベッドに座ると、クラウンの腹に痛みが走った。
「いッ…つ…」
「昨日の事、覚えてませんか?」
「………確か…黒死鳥と……仕合を…」
「…ええ、そうですよ。クラウンは黒死鳥と、仕合をしたのです」
そしてグリムは、昨日の事を話し始めた。
◆
「…………死神…此れは避けられるか…?」
「………」
居合いの構えを取った黒死鳥を、クラウンはニタニタと笑っていた。
「死ッ!!」
「無駄ですよ…?」
2人が斬りかかる速度は、ほぼ同時だった。
「……ッ!!」
刃の無い刀が、クラウンの腹にめり込んでいた。クラウンの剣も、黒死鳥の左肩にめり込んでいる。
「あ…ぐぅ……」
「……ッ…」
そして、クラウンがその場に倒れると、黒死鳥はクラウンをジッと見ていた。
「……死神…までは至っていなかったか……」
「…クラウン……凄いスピードで強くなってますね…」
黒死鳥はグリムの方を向くと、刀を突き付けながら言った。
「次は……グリム殿…貴殿と手合わせを……」
「いえ、もう無理ですよ?」
「……な……………ッ!?」
すると、黒死鳥はその場に跪いた。左手の力が入らず、感覚が無かった。
「…そんな状態では……僕と戦えませんねぇ……」
「……演者クラウンか……くッ…見事也……ッ」
「相討ち…ですね!」
「……………某も…まだ未熟也…」
そしてフラフラと立ち上がると、黒死鳥はグリムに背を向けて言った。
「…演者クラウンとの仕合は引き分け……今度はクラウンを倒し…貴殿に挑ませてもらう……」
「楽しみに待ってますよぉ〜!」
ゆっくりと歩きながら、黒死鳥は去っていった。
◆
「……引き分け…」
クラウンは、自分の手を見ながら言った。
「…まだ……完璧に死神を演じる事は……」
するとグリムが、クラウンの手を持ち、優しい声で励ました。
「それでも、3分の1は演じられていましたよ!」
「……グリム君…」
「あの黒死鳥との仕合も、引き分けに持ち込むし!…凄いじゃないですか!」
そして、剣を渡すとグリムは囁いた。
「……だから、そんなに落ち込まないでください」
「…ありがとう」
剣を受け取り、クラウンはベッドから降りた。外に出ると、そこはいつもの宿だった。
「え……ここまで運んでくれたの…?」
「はい!僕!力持ち!」
「……ごめんね、世話かけて…」
「いえいえ!」
その時、ソフィアがチラシを持ちながら、歩いてきた。
「おっ!…もう怪我は大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで」
「そうか、それは良かった」
「そのチラシなんです?」
グリムが尋ねると、ソフィアは「これか」と言って、2人に手渡した。
「なんでも、近くの商店街で、クジ引きをやってるらしいんだ」
「ほぉ〜!」
チラシを見ると、商店街のとある店で、1000G以上の商品を買った客は、クジ引きができるという旨の事が書かれていた。
「俺は…ハズレだったからこの……スライムゼリーだったけどな…」
「スライムゼリー……」
「まぁ、上手いからいいけどよ」
スライムゼリー、子供に人気の安い菓子。水色のスライムで、いちご味。
「クラウン!やってみましょうよ!」
「いいけど……今って戦争中だよね…」
「まぁまぁ!どうせ一等の旅行なんて、当たらないんだしさ!」
「大当たり〜!一等の聖魔剣山の旅行券を贈呈〜!!」
クジ引きをした結果、クラウンは大当たりだった。
「いやいやいや!!あり得ねーだろ!!」
「やりましたね!クラウン!」
「……でも…喜んでいいのかな……今、戦争してる最中だから行けないでしょ…」
「…クラウン、最近お前はよく働いてるから、休暇を与えようと思っていたんだ」
「……え」
レインにそのことを話すと、レインはいつも通り落ち着いた雰囲気で言った。
「その休暇で、旅行に行けばどうだ?」
「……こんな上手い話…あるわけない……僕、死ぬのかな」
4人まで行ける事が分かり、クラウンは周りの人を誘った。
「…すまないクラウン。用事があるのだ」
イリスは用事があり、行けなかった。
「その日は、前線の指揮をせねばならない」
レインは、前線の指揮をしなければならない為、行けない。
「すまぬ、4人の王も前線で戦っておるのだ。余も、対策を考えなければならぬ……」
王達も誘うが、ダメだった。
「その日は丁度、魔王に頼み事されててな」
エリーも諜報任務の為、行けない。その結果……。
「いやぁ〜!…まさかみんな行けないとはな!」
4人まで行ける旅行はクラウン、グリム、ブラッドが行くこととなった。
「ブラッドは全然、重要な任務を任されませんからねぇ〜!」
「ぅおい!…それを言うな…!」
「けど、どうしようか……」
あと1人、誘う人をクラウンが考えていると、レインがやってきた。
「クラウン」
「レインさん!」
「……俺の…まぁ…友達なんだが……コイツはどうだ…?」
レインは帽子と仮面をした、顔の見えない者を連れてきた。
「…誰ですか?」
「……レ…レイヴン……」
「1人余ってるのなら、コイツを連れていってほしい」
「…まぁ、いいんじゃないですかぁ?」
「そうだね……あっ…初めまして…レイヴンさん…」
レイヴンは、クラウンに差し出された手を、ゆっくり握って握手した。




