第23話 風呂
「うぅ……」
「どうしたブラッド」
「……悪夢を見た」
城の中で、ブラッドは今にも死にそうな顔で、レインに言った。
「そういえば今日、1人の傭兵が公認騎士団になったらしいぞ?」
「はぁ?…1人の騎士団ってなんだよ」
「いきなり、公認騎士団にしてくれって言ってきたらしいぜ」
それを聞いて、ブラッドは鼻で笑った。
「そんなの門前払いだろ」
「いや、それが公認騎士団である『ワドラー騎士団』の騎士達と50対1で試合して、勝ったらしい。それで、王が気に入って、特例でOKだと」
「……バケモンだな…名前は?」
すると、目の前から鼻歌を歌いながら、フラフラと歩く少年がいた。
「噂をすれば何とやら、あの少年がそうだ。名前はグリム」
「なにー?…あんなガキがか?」
ブラッドは、少年に近づいて、話しかけた。
「よぉ、お前が特例で公認騎士団になった、グリムってガキか?」
「そうですよぉ?…あなたは……って、え?」
「…お……おおおおお…お前は…ッ!!」
◆
「……チッ…今でも夢に出てくるんだぜ!?」
「まぁまぁ…昔の事ですし〜…もういいじゃないですかぁ〜!」
「くっつくな!離れろ!!」
何やかんやありつつも、銭湯で湯に浸かり、くつろぐ3人。ブラッドは、グリムとグリムの髪をくくるレインに言った。
「…戦争かぁ……」
「……しかも、相手は魔物の大群と異界者だ」
異界者。異界から来た生物の隠語で、騎士達が使う事が多い。ナローンとは、古代レッドイン語で『人の夢』という意味だ。
「…僕は楽しみですけどねぇ〜」
「お前、ホントにイカれてるわ」
湯に浸かり、グリムは目を輝かせながら言った。
「グ〜リ〜ム〜く〜ん!!」
「お〜!…クラウン〜!」
真っ赤な顔をしたクラウンが、浴場の中へ入ってくる。
「イリスと話せましたか〜?」
「ああ…おかげさまでね……!」
ニヤニヤと笑みを浮かべるグリムを睨みながら、クラウンは湯船に浸かる。
「そういえばクラウン、お前の胸のソレ……神職印だよな」
「……あぁ、はい。多分イスカルだと思います…」
職業スキルには『下位』、『上位』、『最上位』、『神位』の四つの位がある。下位が一番下、カムイが一番上であり、この位が高い程、良い職業スキルだと言われている。
そして、神職印とは、職業スキルが最上位以上の者にのみ、発現する印である。身体のどこにできるかは、個人差がある。
「…【演者】って……多分下位の職業スキルだよな……なのに何で、イスカルが発現してんだ?」
「……僕にも分かりません…」
「しかもイスカルは本来、色を持って発現する。【闇騎士】の俺は紫色…【龍騎士】のブラッドは緑色だが……お前のは…白色だ……」
クラウンのイスカルを、レインとブラッドは興味深そうに見つめる。
「……まぁ、能力の内容もおかしい程ヤバいし、突然変異か何かだろ……うん…」
「突然変異て……」
「そういえば、グリムも変なイスカルあったよな?」
ブラッドが、グリムを見ながら言った。
「コイツのイスカルも、だいぶイカれてるんだぜ?」
「そんな事言わないでくださいよぉ〜!」
「そうなんですか?」
「見せてやれよ、減るもんじゃねぇし」
そう言われ、グリムはイスカルを見せた。グリムのイスカルは舌にあり、真っ黒だった。
「な?…コイツ舌にある上に、黒なんだよ」
「でも無職ですよね?…何故イスカルが…」
「それもそうなんだがよ、コイツ、背中にもあんだわ」
クラウンがグリムの背中を見ると、背中にも形は違うが黒色のイスカルがあった。
「無職なのにイスカルを、しかも2つ持ってんだよコイツ」
「ど…どういう事ですか…!?」
「……職業を2つ持ってると、俺は考えている。一つ目は無職、もう一つは分からないが」
レインがそう言うと、グリムは不敵な笑みを浮かべて言った。
「さぁ〜…どうでしょうかねぇ〜」
「確かに、それならグリム君が無職でありながら、めちゃくちゃ強いのも説明がつく……」
「それに、昔いたんだよ。2つ職業スキルを持っていた者が……」
「え?…そうなんですか?」
「ああ、確か今の王様達の盟友で、今は行方不明になった男だ」
「そんな人がいたんですねぇ〜」
そんな話をしていると、グリムがおもむろに立ち上がり、近くにあった桶を、何もない空間に投げつけた。パコンッという音とともに、空間からゴブリンが出現する。
「魔物…!?」
「クソが…ッ!」
「ゴブリンでしたか」
クラウンが、ゴブリンの顎を素早く蹴り上げた。ゴブリンは白目を剥いて、その場に倒れる。
「ナイスですクラウン!」
「……ゴブリンか…魔物の中でも危険度が低いが…魔法を操るヤツが、稀にいると聞いていたが…」
「とりあえず拘束しようぜ!」




