第21話 因縁
「ハインド様……それ以上飲まれては……」
「誰に命令しておる!」
ハインドはウエイトレスに叫び、酒瓶から直に酒を飲む。
「……どいつもコイツも…私を馬鹿にしおって…」
“見たか?ハインドのあの無様な姿”
“娘に抱えられて……恥ずかしくないのか?”
“本当にあの、ライトバーン殿のご子息なのか?”
“娘のイリス嬢は、ライトバーン殿の生き写しかと思うほどの騎士だというのに……”
「…クソッ!!」
ウエイトレスを押し除け、宿のレストランから出ると、目の前にイリスとクラウンがいる事に気付く。
「……イリス…クラウン…ッ!!」
「こんにちわぁ!」
「…ッ!?」
2人の元へ行こうとしたハインドの目の前に、グリムが立ちはだかった。
「何だ貴様!?」
「すこーし、僕とお話ししましょ?」
そう言って、襟を掴んで路地に投げ飛ばした。
「うごぇ…ッ!?」
路地の壁に激突し、ハインドは苦しそうに声を出す。
「……クラウンは許したみたいですけど、僕はまだ許してませんよ?」
「…何をだ……何のこと…」
「………あ?」
するとグリムは、三つ編みを解いた。グリムの髪がバサッと下りた姿を見て、ハインドは気付いたのか、俯きながら言った。
「…サリーの……家族か…」
「弟ですよ」
そして、ハインドの目の前でしゃがむと、グリムは質問した。
「……黒い騎士にクラウンを襲われた、本当の理由は?」
「…………………」
「質問してんだけど」
ハインドの顔を掴み、グリムは睨む。ハインドは、怯えながら答えた。
「…騎士に襲わせたのは、我が家に無能がいる事がバレないようにする為だ。病死にするつもりだった」
「……けど、死ななかった」
「あの時、死んでいれば……私がクラウンを追放した事が公に出る事は無かった……クラウンめ…アイツが生きていたせいで、私の評判は……」
“アイツ、実の息子を追放とか言って追い出したらしいぜ?”
“クズだな”
“懐刀としての、権力で揉み消してんだよ……”
“その権力を手にしてるのは、娘のおかげなのによ”
「……自業自得ですね」
「…貴様の姉が……余計な事をするからだ!!」
グリムは、立ち上がって殴ろうとしてきたハインドの首を掴んで、思い切り壁に叩きつけた。
「おげ…ッ…」
「………苦しませて殺すつもりだった」
手を離し、グッタリとするハインドへ言った。
「…だけど、今のお前を見てたら……あまりにも、哀れすぎて、そんな気は無くなった…」
「………………」
「お前みたいなカスでも、美味しそうに感じるから、姉さんはこの身体が嫌いだったのかもね」
そして、髪の毛を掴むとグリムは低い声で言った。
「これからずっと、周りの目から怯えて苦しみながら暮らすんだな」
「…あ…あぅ…」
「次また、変なことしたら、マジで殺すから」
そう言い残し、グリムは血だらけのハインドの前から、姿を消した。ハインドの目には、憎悪が宿っていた。
「すみませ〜ん!ウエイトレスさ〜ん!」
「あっ、どうされました?」
「ハインドさんが向こうの路地で、自分で自分の頭を壁に打ち付けていたんですぅ!」
「…ハインド様…だから飲み過ぎだと言ったのに…」
それを聞いて、ウエイトレスは急いで路地へ向かった。それを見て、グリムは笑みを浮かべ消えていった。
◆
「姉さん……」
「クラウン……」
クラウンとイリスは、宿の前で向かい合う。
「……本当は、面と向かって話すつもりは無かった。だが、吸血鬼の少年が言った」
“クラウン、あなたのことは恨んでないそうですよぉ〜!”
「…グリム君か……」
「……お前の友か、その者にそう言われて、お前と話す機会を作らせてもらった」
そして、イリスはクラウンの前に一歩前進すると、申し訳なさそうに言った。
「…………苦しい思いをさせて、すまない…ッ」
「……姉さんは悪くないよ」
「…見て見ぬふりをした……」
「あれはしょうがないよ、姉さんは剣聖としての立場があるし……逆の立場でも、僕は姉さんと同じようにすると思うから…」
イリスはそれを聞いて、夜空を見ながらクラウンへ言った。
「少し…歩こうか」
「…うん」
夜空の下で、2人は歩きながら話した。
「……お前の劇…見たよ」
「えっ…ホントに?」
「ああ、お前が剣聖の役で出ている劇を見た。素晴らしい太刀筋だったよ」
「…ありがとう……戦争が始まっても、演劇は定期的にやるらしいから、見に来てよ」
「……そうだな…」
2人はかつてのように、楽しく壇上しながら街を歩く。
「…安心したよ……姉さん、変わってないみたいで」
「……お前も、昔と同じで真っ直ぐな目をしているな」
すると突然、イリスはクラウンを抱き寄せると頭を撫でた。
「よしよし、よく頑張ってるな、クラウン」
「ね…ねね…姉さん!?」
「……嫌だったか…?」
イリスは少し離れ、悲しそうな目をして言った。
「い…いや、そういう訳じゃないけど……姉さん、そんな事しないタイプだよね!?」
「……それも、吸血鬼の少年に言われたのだ」
“あと、クラウンはあなたの事を、恋しがってたので、よしよしすると喜ぶと思いますよ〜!”
「もーーッグリム君!!」




