第19話 父上
「…やぁ!グリム君!」
「クラウン〜!」
魔王の王と、人の王が会う日、世界五カ国の高名な騎士達が、死者の森から少し離れた廃村に集まっていた。
「……いやぁ〜…みんな強そうだなぁ……」
「はい!…みんな美味しそうです♡」
「グリム君?」
すると騎士達を集め、ハイルロッドが言った。
「騎士達よ、此度は集まってもらえて何よりだ……ゴホン…今回集まってもらったのは、魔物が作った国、そこへ人の王として出向く為だ」
「……………」
「だが、相手は人に非ず…………戦争になるやもしれん………貴公らに、その覚悟はあるか…?」
ハイルロッドが自分の騎士達へそう尋ねると、騎士達は覇気をまとった声で叫んだ。
「…フッ……聞くまでもなかったか………では!…2時間後に出発する!…各々準備しておけ!!」
「……魔物の軍団と戦争になるかもしれねぇのに…あの士気……やっぱハイルロッド王の人望エグいな」
すると、クラウンは見知った顔がある事に気付く。
「おい、クラウン。どうした?」
「…………ッ!!」
クラウンは、怒りを目に宿して、その人物達の元へ歩いていった。
「……父上」
「……………クラウン…か…?」
鎧を装備しているハインドは、クラウンの顔を見ると鋭い目付きで言った。
「…生きていたとはな……」
そして、クラウンの肩を掴むと、ハインドは優しい声で言った。
「……お前には、すまないと思っている」
「………………」
「だが、それもお前の為だったのだ」
「…は……?」
ハインドは、ゆっくりと説明し始めた。
「お前は、私の刺客から生き残り、その強き目を、強靭な心を手にした。それが狙いだったのだ」
「……サリーの死もか…」
「フン、あの使用人の死は予想外だったが……まぁいい、クラウン。こちらに戻ってこい。剣聖の子として、迎え入れよう」
手を出しながらハインドは言った。それを見て、クラウンは思い切りハインドを蹴り飛ばした。
「うごぁ!?」
「おいおい!何だ!?」
「…こ……何を…ッ!?」
「……サリーは、僕が寝ている時に毛布をかけてくれた」
尻餅をつくハインドへ、うわ言のようにクラウンは呟く。
「サリーは、僕を寝かしつける為に絵本を読んでくれた。サリーは!僕が好き嫌いしたら一生懸命、僕でも食べられるような料理を作ってくれた!サリーは!!………お前みたいなカスに…殺されたのか……」
「くッ……この愚息め…ッ!」
すると、劇団員達がクラウンの元まで走ってきた。そして、ナイフを取り出すクラウンへ、レインが言う。
「……クラウン」
「…レインさん……」
クラウンは、涙を流しながらレインの方を見た。
「その男を殺すのか」
「………………」
「……『サリーがそれを望むのか!?』…なんて……そんな事は言わない」
レインは、クラウンの方へ歩きながら、続けて言う。
「だが、お前がこの場でこの男を殺しても、お前は殺人で捕まるだけだ。俺達も、色々な手続きで厄介な事になる」
「……けど…ッ」
「何も変わらない、ここで、この男を殺そうが、殺さまいが。しかし、お前の気持ちが晴れるのなら、殺せばいい。当然の権利だ」
ナイフを持ち、少しの沈黙の後に、クラウンはナイフを振り下ろした。ナイフは、ハインドの顔の真横に突き刺さる。
「……コイツは、これでも剣聖です。少しは戦力になる。生かしておいて方がいい」
「…そうだな」
そして、レインはクラウンの頭をポンと叩くと言った。
「………これで良かったと思うぜ」
「……はい」
ナイフを戻したクラウンを見て、ハインドは叫んだ。
「クラウン!」
「……何ですか?」
「私の元へ戻ってこい!!…望む物はなんでもやる!」
「じゃあ、サリーをくれますか?」
「………ッ!!…使用人など、誰でもよかろう!!」
ため息を吐いて、クラウンはハインドへ言った。
「……父さん、あなたが僕にくれたものは、何も無かった。だけど、とても大事な事を学ばせてくれたよ」
「…………なに…?」
「それは、悪意。人の奥底に潜み、人を残虐にする悪意だ。無知だった僕に、それを教えてくれたのだけは感謝してるよ…………じゃあね、父さん」
「…待て!…クラウン!……クラウン!!…お前はその者達に、演者の力を利用されているだけだ!!…クラウン!!」
そう言い残して、クラウンは立ち去っていく。
「……父上」
「イリス…ッ」
綺麗だが、棘のある声で兜を被った女騎士が言った。
「…あやつの事は忘れろと…父上は仰っていたが」
「……状況が変わったのだ……クソ……まさか【演者】があのような力を……ッ」
『…利用しようとしているのは貴様だろう、屑め』
「…クラウン……なんとしてでも私の元へ…ッ!」
重い腰を上げて立ち上がり、ハインドはクラウンが見えなくなるまで、睨んでいた。その目にはクラウンではなく、職業スキル【演者】しか見えていなかった。




