表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/146

第14話 しあわせ

「……これからどうしよう」

「…戦うんだよ」

「え…?」


サリーは、街の路地に座りながら言った。


「もう、奪われる側に戻らない為に、戦うんだ」

「……戦う…」


それから時が経ち、数年後。サリーとグリムの姿は、戦場にあった。


「フッ…!」

「ぐあッ!」


数人の兵士を斬ったサリーの元へ、四方八方から、さらに多くの兵士が襲いかかってくる。


「姉さん!」

「うごッ…!?」


グリムが大鎌で、その大人数の兵士をまとめて切り刻んだ。


「助かったよグリム!」

「数が多いなぁ……」


多くの兵士が、サリーとグリムの元へ突っ込んでくる。すると、馬に乗った騎士達が現れ、敵の兵士達へ叫んだ。


「砦は落とし、大将は捕らえたぞ!!…帝国よ!、退くが良い!!」

「…チッ!……退却だ!!」


それを聞いて、敵の兵士達は撤退していく。それを見て、2人は安堵した。


「ふぅ……」

「助かったよ」

「…よく2人だけで持ち堪えたな……」

「他の傭兵仲間は死んじまったからな」


周りを見ると、傭兵と兵士の死体が溢れていた。


「さすがだな。職業が魔法騎士なだけある」

「らしいね、まぁ、弟は無職だけどな」

「ど〜もで〜す剣聖さ〜ん」


剣聖は馬から降りると、2人の前に立って兜を脱いだ。


「ほぅ、その歳で…それも無職でありながら………見事也、少年」

「えへへ……」

「しかし、何故逃げなかった?……傭兵は金で雇われた連中…騎士と違い、命が第一なハズだろう?」


その問いに、サリーは少しの沈黙のあと答えた。


「……私達は吸血鬼だ。痛みは感じても、バラバラにされない限り死ぬ事はないから…命が大事とは思わないね」

「…痛みに対する……恐怖はないのか…?」

「そんなの、ガキの頃に捨てたよ」


それを聞いて、剣聖は少し考える素振りを見せたあと、2人に言った。


「お主ら、ワシの家の使用人にならんか?」

「は…?」

「……見たところ、元奴隷だとお見受けする」

「ああ」


剣聖は、空を見ながら2人へ悟ったように話した。


「ワシの孫が産まれる予定でな。孫は、ワシが甘やかし過ぎた息子や、見栄張りな息子の嫁ではなく、人の痛みを知る人物にこそ、育ててほしいのだ」

「……………」

「……明日、答えを聞こう」


その晩、宿で2人は話し合う。


「あの剣聖の使用人になれば、戦わずに暮らすことができる。いいじゃないか」

「……でも、戦場にいれば、美味しい血を飲む事ができるよ」

「別に、私は血なんて必要最低限あればいい」

「姉さんは知らないんだよ、血の美味さを……それに…」


グリムは立ち上がって、サリーに言った。


「僕の居場所は、戦場(あの場所)だけだ」

「グリム!」

「姉さん」


険しい顔をするサリーへ、グリムは顔を近付けて言った。


「姉さんは、僕の分まで、幸せになるといい。僕は、もう、手遅れなんだ」

「…え…?」


グリムの手を見ると、痙攣を起こしたかのように震えている。


「……少し前からかな…人を殺して…血を啜っていないと…こうなるんだ…」

「アンタ……」

「……僕は、人を傷付けないと生きていけないんだよ」


その時、サリーはグリムを抱きしめた。


「そんな事ない!、絶対、絶対に私達2人は幸せになれる!もう戦う必要はないんだ!」

「……そうかもね」


しかしグリムは、サリーを優しく自分から離した。


「傭兵仲間や騎士達は、僕に人斬りの天才だと、人を殺す才能があると言った…………僕は生まれついての死神だったんだよ」

「……違う」

「僕達を(なぶ)ったあの男を蹴って、苦しんでいる姿を見て、僕は興奮した。ガラウィンド帝国との戦争の時も、敵を斬るのに快楽を覚えた」

「やめろ!」


サリーがグリムの言葉を口を挟むと、グリムは何か悟っているような顔で言った。


「僕が、死神として生まれなければ、2人で幸せになれたんだろうなぁ」

「……………う…うぅ……」


すると、その場でサリーは泣き崩れた。


「私が…傭兵になろうなんて……言わなければ良かったんだ…ッ!」

「姉さんは悪くないよ。悪いのは…僕だから……」

「うっ…うぅ……」

「……幸せになってね、僕はもう、行くよ」


そしてサリーの涙を拭くと、グリムはサリーを抱きしめて、涙を浮かべながら言った。


「…………死神として生まれてきてごめんね……ッ…」





「…………………」


その話を、クラウンは静かに聞いていた。するとグリムはその場に止まり、真っ黒いビー玉のような目で言った。


「……望まない才能を持つほど苦痛な事はありませんよ」

「あっ……その…僕…………ごめん」

「?…何で謝るんです?…怒ってないのに……」


するとグリムは、いつも通りおちゃらけた様子で、クラウンへ言った。


「けど、これで演じやすくなったんじゃかいですかぁ?」

「え?」

「レインが言ってました!…クラウンが僕を演じられるようになれば、クラウンは最強になれるって!」

「あー……そういえば…」


“強くなりたいのなら、死神を演じられるようになれ”


「……今はいいよ」

「およ?…何故ですぅ?」

「強くなる必要は無いから」

「む〜、それは残念ですぅ〜……僕を演じられる様になったクラウンと、戦ってみたかったのにぃ〜……」

「はは………僕は君とは戦いたくないよ……」















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ