第14話 しあわせ
「……これからどうしよう」
「…戦うんだよ」
「え…?」
サリーは、街の路地に座りながら言った。
「もう、奪われる側に戻らない為に、戦うんだ」
「……戦う…」
それから時が経ち、数年後。サリーとグリムの姿は、戦場にあった。
「フッ…!」
「ぐあッ!」
数人の兵士を斬ったサリーの元へ、四方八方から、さらに多くの兵士が襲いかかってくる。
「姉さん!」
「うごッ…!?」
グリムが大鎌で、その大人数の兵士をまとめて切り刻んだ。
「助かったよグリム!」
「数が多いなぁ……」
多くの兵士が、サリーとグリムの元へ突っ込んでくる。すると、馬に乗った騎士達が現れ、敵の兵士達へ叫んだ。
「砦は落とし、大将は捕らえたぞ!!…帝国よ!、退くが良い!!」
「…チッ!……退却だ!!」
それを聞いて、敵の兵士達は撤退していく。それを見て、2人は安堵した。
「ふぅ……」
「助かったよ」
「…よく2人だけで持ち堪えたな……」
「他の傭兵仲間は死んじまったからな」
周りを見ると、傭兵と兵士の死体が溢れていた。
「さすがだな。職業が魔法騎士なだけある」
「らしいね、まぁ、弟は無職だけどな」
「ど〜もで〜す剣聖さ〜ん」
剣聖は馬から降りると、2人の前に立って兜を脱いだ。
「ほぅ、その歳で…それも無職でありながら………見事也、少年」
「えへへ……」
「しかし、何故逃げなかった?……傭兵は金で雇われた連中…騎士と違い、命が第一なハズだろう?」
その問いに、サリーは少しの沈黙のあと答えた。
「……私達は吸血鬼だ。痛みは感じても、バラバラにされない限り死ぬ事はないから…命が大事とは思わないね」
「…痛みに対する……恐怖はないのか…?」
「そんなの、ガキの頃に捨てたよ」
それを聞いて、剣聖は少し考える素振りを見せたあと、2人に言った。
「お主ら、ワシの家の使用人にならんか?」
「は…?」
「……見たところ、元奴隷だとお見受けする」
「ああ」
剣聖は、空を見ながら2人へ悟ったように話した。
「ワシの孫が産まれる予定でな。孫は、ワシが甘やかし過ぎた息子や、見栄張りな息子の嫁ではなく、人の痛みを知る人物にこそ、育ててほしいのだ」
「……………」
「……明日、答えを聞こう」
その晩、宿で2人は話し合う。
「あの剣聖の使用人になれば、戦わずに暮らすことができる。いいじゃないか」
「……でも、戦場にいれば、美味しい血を飲む事ができるよ」
「別に、私は血なんて必要最低限あればいい」
「姉さんは知らないんだよ、血の美味さを……それに…」
グリムは立ち上がって、サリーに言った。
「僕の居場所は、戦場だけだ」
「グリム!」
「姉さん」
険しい顔をするサリーへ、グリムは顔を近付けて言った。
「姉さんは、僕の分まで、幸せになるといい。僕は、もう、手遅れなんだ」
「…え…?」
グリムの手を見ると、痙攣を起こしたかのように震えている。
「……少し前からかな…人を殺して…血を啜っていないと…こうなるんだ…」
「アンタ……」
「……僕は、人を傷付けないと生きていけないんだよ」
その時、サリーはグリムを抱きしめた。
「そんな事ない!、絶対、絶対に私達2人は幸せになれる!もう戦う必要はないんだ!」
「……そうかもね」
しかしグリムは、サリーを優しく自分から離した。
「傭兵仲間や騎士達は、僕に人斬りの天才だと、人を殺す才能があると言った…………僕は生まれついての死神だったんだよ」
「……違う」
「僕達を嬲ったあの男を蹴って、苦しんでいる姿を見て、僕は興奮した。ガラウィンド帝国との戦争の時も、敵を斬るのに快楽を覚えた」
「やめろ!」
サリーがグリムの言葉を口を挟むと、グリムは何か悟っているような顔で言った。
「僕が、死神として生まれなければ、2人で幸せになれたんだろうなぁ」
「……………う…うぅ……」
すると、その場でサリーは泣き崩れた。
「私が…傭兵になろうなんて……言わなければ良かったんだ…ッ!」
「姉さんは悪くないよ。悪いのは…僕だから……」
「うっ…うぅ……」
「……幸せになってね、僕はもう、行くよ」
そしてサリーの涙を拭くと、グリムはサリーを抱きしめて、涙を浮かべながら言った。
「…………死神として生まれてきてごめんね……ッ…」
◆
「…………………」
その話を、クラウンは静かに聞いていた。するとグリムはその場に止まり、真っ黒いビー玉のような目で言った。
「……望まない才能を持つほど苦痛な事はありませんよ」
「あっ……その…僕…………ごめん」
「?…何で謝るんです?…怒ってないのに……」
するとグリムは、いつも通りおちゃらけた様子で、クラウンへ言った。
「けど、これで演じやすくなったんじゃかいですかぁ?」
「え?」
「レインが言ってました!…クラウンが僕を演じられるようになれば、クラウンは最強になれるって!」
「あー……そういえば…」
“強くなりたいのなら、死神を演じられるようになれ”
「……今はいいよ」
「およ?…何故ですぅ?」
「強くなる必要は無いから」
「む〜、それは残念ですぅ〜……僕を演じられる様になったクラウンと、戦ってみたかったのにぃ〜……」
「はは………僕は君とは戦いたくないよ……」




