第13話 死神の過去
「グリム君……すごいね…」
「これが美味しいんですよ!」
街の商店街で、タワーのように積み重なったアイスを食べるグリムと、クラウンが歩いていた。
「……ところでクラウン〜」
「どうしたの?」
「…姉さんは、どんな感じでしたぁ?」
その問いに対して、クラウンは少しの沈黙のあと、答えた。
「…………うーん…そうだなぁ……とても静かで優しかったよ…!……だからあの日のサリーを見た時…ビックリした……」
「アハハ!……姉さん必死に本来の自分を隠してたんですねぇ〜!」
そして話が弾み、クラウンはグリムへ目を輝かせて言った。
「けど凄いよねグリム君は……僕と少ししか歳が変わらないのに強いから………」
「そうですかねぇ〜…!」
「うん!……戦いの天才だよ!」
すると、幸せそうに歩く親子を見たグリムが、アイスのコーンを食べて言った。
「……昔々、とある少年と、その姉がいました」
「…え?」
「少年とその姉が生まれたのは、薄暗い牢屋の中。母親は少年を産んだ時点で死んでいました」
グリムはそのまま、ゆっくりと語り始めた。
「姉弟の母は奴隷で、新たな吸血鬼を産ませる為に無理矢理、孕まされていたのです」
◆
「もういいんじゃねぇか?」
「だな」
薄暗い牢の中、2人の男がサリーとグリムを見て話している。そして、牢を開けると2人を引っ張り出した。
「な…なに…」
「クッ……離せよ!!」
「うるせぇ!魔物が!!」
抵抗するサリーを、男の1人が思い切り蹴る。
「姉さん!」
「がッ…か……ッ」
「クソガキが……」
「おい、大事な商品だ。気を付けろ」
しばらく引きずられ、明るい場所へ出ると2人は、正座させられて拘束された。そして、目の前のカーテンが開くと、いやらしい笑みを浮かべた男や女が、豪華な椅子に腰掛けている。
「おぉ〜!…素晴らしい!」
「あれは吸血鬼か?」
「しっかり餌を与えた上物の吸血鬼です!」
そこは、金持ちが集まる、奴隷売買のオークション会場だった。先程の男が、俯いているサリーの頭を掴み、全員へ見せつけた。
「……姉の方は少し凶暴ですが、皆様好みに調教してあげてください」
「おー、いいね」
「姉に対して、弟は大人しいので、嗜虐心がくすぐられますよ」
「あら、あの子可愛いわね」
「では最初は姉の方から、開始価格は1000万Gです!」
金持ち達が、一斉に入札を始める。そして、3000万Gまで釣り上がった時、肥えた男が大きな声で叫んだ。
「8000万G出す!その兄妹2人とも貰おう」
「おぉ、8000万Gという提示額が出ました!……誰か入札されますか?」
「…クッソ……欲しかったんだがなぁ…」
「8000は…無理だなぁ……」
静かになった会場を見て、男達は言った。
「では、この兄妹はあの紳士の方に差し上げます!」
「次は没落の貴族の娘です!」
そうして、兄妹はとある金持ちによって買い取られた。そこからは、地獄の日々だった。
「グヘッ……さーて、どっちで遊ぼうかね〜…」
「私がグリムの分まで、アンタの相手になる。だから、コイツには手を出すな」
「…ほーう………いいだろう」
度重なる暴行に、サリーは耐えた。
「……姉さん…」
「…私は大丈夫……」
毎日、傷を作ってくるサリーを、グリムは心配していた。そんなある日、サリーが目覚めると、グリムが鼻を啜る音が聞こえた。グリムは、ぐったりして横たわっている。
「…うっ…ぐす……ッ…」
「……グリム…?」
「ほほほ、目覚めたかな?」
「…アンタ……グリムに何をした……」
すると、男はオークション会場で見せた時と同じ、いやらしい笑みを浮かべながら答えた。
「お前の弟……女にも勝るほどの名器だったぞ…?」
「……このゲス野郎ォォ!!」
牢屋の鉄格子に突っ込み、頭から血を流しながらサリーは叫んだ。
「一つ言っておこう。私が無理矢理したわけではないぞ?」
「…は……?」
「弟の方から言ってきたのだ」
「う…そ……」
サリーは、グリムの方を見た。グリムは、力無く起き上がると、涙を浮かべながらも笑顔で、サリーへ言った。
「僕は、男の子だから…ッ!……姉さんを…守らないと…!」
「グリム……アンタ…」
「泣かせるねぇ……姉弟愛ってやつか…」
そして、男は牢を開け、2人に近付いてくる。
「それじゃあ、今日は姉弟揃って遊ぼうか」
「え…」
「なんかしたくなっちゃったよ」
気味の悪い笑みを浮かべ、ジリジリと歩いてくる。
「僕が相手になるよ!だから姉さんは!」
「いや!私が!」
「そういやらしく誘うな……2人とも相手してあげるから…」
その瞬間、グリムは思い切り男の股間を蹴り上げた。
「おほォォ!?」
「グリム!」
「姉さん!逃げよう!!」
「こ…のガキ!」
サリーとグリムは、牢屋の隣にある手錠の鍵を取り、屋敷から逃げ出した。
「アンタ…臆病かと思ったけど……結構やるじゃん」
「……ずっと思ってたんだ…いつか油断して、逃げるスキをくれるって…」
そして、2人は夜の闇の中へ消えていった。




