第1話 追放
「クラウン様、今日がスキル鑑定の日ですね」
「そうだね……」
クラウンは、自身を担当するメイドであるサリーに、力無く言った。ハイルーン・クラウン、ハイルーン家の長男で、上に姉を持つ。
「どんなスキルなんだろう……」
馬車に揺られながら、クラウンは外の平原を眺めていた。
「ハイルーン家の血筋なのですから、きっと優秀なスキルですよ」
ハイルーン家は代々、スリーク王国王家の懐刀として活躍していた。クラウンの姉は職業スキル【剣聖】を引き当て、剣聖として名を轟かせている。
職業スキルとは、いわば才能で、【剣聖】なら剣の腕に優れた剣聖に、【賢者】なら魔法に優れた賢者になれる。この職業スキルの鑑定で、どんな職に就けるかが決まると言っても過言ではないのだ。
「そろそろ着きますよ」
「……あぁ」
職業スキルで【騎士】を引き当てた者が、魔法使いになろうとしても不可能だ。なので騎士になった者は、いくら魔法を練習しても伸び代は無い。
「……よし…行こうか…」
クラウンは少し緊張しながらも、いつも通り姿勢正しく歩き、職業スキル鑑定所へと向かっていった。鑑定所に着くと、大きなクリスタルと、神官らしき初老の男性がいた。
「次の方……」
「はい…!」
「おや、ハイルーン家の坊ちゃんですか」
「僕の鑑定してください!」
神官は頷き、クラウンは神官の前に立つ。神官は、クラウンの肩、頭、胸に触れた。そして、少しの沈黙の後、ゆっくりと答えた。
「ふむ…………貴方の職業スキルは……【演者】です」
「……演者…?」
「はい……」
「待ってください!…演者って……」
サリーが、神官へと詰め寄る。神官は、少し困惑しながら答えた。
「…劇をする人…ですかね…………演者はどの職業スキルでもできます……なので職業スキルとして出てくるのはおかしいですね……」
「………そんな…」
クラウンとサリーが、何も言えないまま馬車へ戻ろうとすると、神官がクラウンへ言った。
「……クラウン坊ちゃん…職業スキルは生まれついての才能……その才能にハズレはありません……上手く使えば必ず…花ひらくはずです…」
「……………そうですか……」
そして、一切の会話も無く家に戻り、メイドがクラウンの父ハインドに先程のことを伝えた。
「…なんだと?」
「……クラウン様は…【演者】と判断されました……」
「…………………」
ハインドはクラウンに迫ると、突然足を引っ掛けた。それにより、クラウンはしりもちをつく。
「………剣聖なら…こんなものには引っかからない……引っかかったとしても…すぐに体勢を戻せる……」
「父さん……」
「クラウン、魔法を出そうとしてみろ」
「…え……」
「なんでもいい。火の玉でも、光の剣でも、とにかく想像して、具現化させてみろ」
クラウンは言われた通り、魔法を想像するが、何も起こらない。それを見て、ハインドのクラウンを見る目が変わった。
「……この様子だと…剣も使えないだろうな……そして…魔法も使えない…」
「…と…父さん……」
「演者……演技しかできない演者……」
段々と顔に怒りが現れたハインドは、クラウンへ言った。
「…………面汚しめが」
「ハ…ハインド様!!」
ハインドはそう吐き捨て、ロビーにクラウンを置いたまま、部屋に戻っていった。
「………父さん…」
そしてその夜、ハイルーン家は一家揃って話し合いを始めた。
「……まぁ…そんな事が…」
「フン…我が弟が……演者とはな」
クラウンの姉イリスが、クラウンをジッと見つめる。
「ハイルーン家の子が演者など……恥だ」
「……ごめんなさい…ごめんなさい…」
ハインドはため息を吐いて、クラウンへ言った。
「追放だ、お前みたいなものは、この家に必要ない」
「そんな……」
「そうね、それがいいわ」
「…早く去れ……お前の顔を見るのも嫌なんだ」
すると扉が力強く開き、サリーが部屋に入ってきた。
「……それはあんまりじゃありませんか?」
「使用人風情が、文句があるのか?」
「自身の息子が、望んでいた才能ではなかったから追放なんて、あまりにも酷いと思います」
声高らかに、一歩も引かずサリーは言い返した。そんなサリーへ、ハインドは吐き捨てた。
「もういい、お前も出て行け。使用人など幾らでもいる」
「サリー…もういいよ……このままだと君まで……」
「分かりました」
サリーはカチューシャを投げ捨て、ハインドへと言い放った。
「こんな腐りきった奴等だとは思わなかった」
「フン…拾ってやった恩も忘れ、昔のように犬に成り下がるか」
「クラウンの為なら、喜んで犬に戻るさ。行くよ、クラウン」
「え……サリー…?」
困惑するクラウンを引っ張り、サリーとクラウンはハイルーン家から去っていった。
「フン……愚か者共が…」
「イリス、もうあんな奴の事なんて忘れなさい」
「………………ああ」
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