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僕は今日死にます

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【やってしまった。

 俺の人生は今日詰んだ。

 

 話は5分前に遡るが、その前に俺の現状を振り返ろう。

 名前は佐々木佑ささきたすく。25歳独身、ニート。

 俺を説明するのならばこれだけで十分だろう。

 就職に失敗した俺は大学卒業後、特に働きもせずに実家でぐうたらと過ごしていた。

 両親からの圧力は凄いが俺は自分の本当にしたいことを探すための休憩期間だと考え、何も行動せずにいた。

 両親も自分の息子は可愛いと思っているのか、本当のところでは踏み込んだことは聞かずに過ごしている。


 そんな俺だが、唯一他人に自慢できることがあるとするのならば学習意欲だ。

 この世の物事を全て知りたい、クイズ番組を見ただけでそんな風に考えた少年期より俺は勉強に没頭した。

 高校も大学も都内で一番偏差値が高いと言われる名門に入ることが出来た。

 しかし、ろくに友人を作ろうともしなかった俺はこれまでの人生で常に一人で生きてきた。

 そのため人との関わり方が普通の人間よりもよくわからないまま成長してしまったのだ。

 そのせいもあってか、就職では面接で自分を出すことができないまま何処にも内定をもらうことは出来ず、高学歴なのに働かないニートになってしまったのだ。

 

 以上が俺のプロフィール兼経歴だ。

 さて、話は五分前に遡る。

自分の道を見つけるために俺は、日々本を読むことにしている。

 親父の書斎に読み切れないほどの本が存在していることも現状の俺にマッチしていた。

 今日は、世界の神秘と思わしき場所や物を集めた本『まだ見ぬこの世の神秘』を拝借しようかと思い、親父の書斎に忍び込んだところまでは良かった。

 予想外の出来事は、俺が親父の書斎に入り手を伸ばし、本を取ろうとしたその時であった。

 つま先立ちで手を伸ばしていた俺のバランスが思わぬ拍子に崩れ、その場で転んでしまった。

 本を掴んだのと同時に転んだが、掴んでいた本を転んだ時に前方に飛ばしてしまい、その本の行く先には親父が大事にしていた高価な壺があった。

 本を手放した瞬間から覚悟していたが、案の定、本と壺は衝突し壺は床に叩きつけられた。

 当然、割れ物である壺には耐えられる衝撃ではなく、大きな音と共に壺は割れてしまった。


 そんなことで人生は詰まないと思っている外野もいるかもしれないが、俺の現状をよく考えてくれ。

 ろくに働きもせず親に飯を食わしてもらっているドラ息子が自分の大切にしている壺を勝手に忍び込んで割ったとなったらどうだろうか?

 答えは決まっている。

 なので、この遺書を残します。

 父さん、母さん。今まで僕を育ててくれてありがとうございました。

 来世でまた会いましょう。

 佐々木佑】


 遺書を書き終えた佑は首を吊るためにホームセンターで綱を買い、廃墟に向かった。

 廃墟と言えばボロくて使用されていない工場などを思い描くかもしれないが、佑が向かった工場は今でも使用されている普通の会社だった。

 絶望で周りが見えていなかった佑はそんな場所に正面から入った。

 偶然にもその日はその会社が休みで、彼は誰に気付かれることなく工場に入ることが出来た。

 

 「よく考えたら、俺の人生ろくなことなかったな。強いて言うならもう少し旨いものでも食いながら死にたかったなぁ」


 そんな佑の独り言に答えるようにどこからともなく声がした。


「じゃあ食べればええやん」


 人っ子一人いない工場で声が聞こえた佑は驚きながら辺りに人がいないか確認したが、どこにも人どころか鼠一匹もいなかった。

 

「僕は何処にもおらんで。君の頭に直接語り掛けとるからな」


 通常ならば到底理解できる状況ではないが、死の前に珍しい体験をしたのだと佑は心を躍らせながら答えた。


「どこにそんな旨いものがあるって言うんだよ!」

「今やったら特別に何でも出したるやんけ」

「じゃあ、キャビアとフォアグラとトリュフが山盛り入ってるどんぶりでも出してみろよ」

「ええよ。ほい」


 声の主の返答と共に三大珍味がたくさん入っているどんぶりが出てきた。


「たらふく食えや」


 声の主の一言よりも先に佑はどんぶりをむさぼった。


「ええ食いっぷりや。そんなに腹減っとったんか?」


 現在夕方の18時。

朝から何も食べてなかった空腹の佑は声の主の質問を無視しながらどんぶりを食べた。


数分後、どんぶりを食べ終わった佑に声の主はさらに問うた。


「どうや?腹いっぱいなったか?」

「おう。ありがとう」

「ええぞ気にせんでも。それよりお前の事教えてくれや」

「なんで?」

「え、ただ単に気になるからやけど?あかんか?」


 どうせこれから死ぬんだからわけのわからない声に自分の事を教えてもどうでもいいと、佑はこれまでの自分の人生を振り返るように語った。


―――――――――――――


「え、それで死のうと思ったん?」

「え、はい。そうですけど?」


 声の主は呆れたように佑に諭した。


「自分な、そんなことで死んでどうすんねん。自分よりも苦しい状況の奴なんかいっぱい恩で?」

「そうですけど、なんかもう疲れました」


その言葉を聞いて声の主は怒りをあらわにした。


「あほか!自分まだなんもしてへんやんけ!疲れたとかぬかすなら他にやること色々あるやろが!」

「はぁ」

「大体な!自分が現状に苦労してるのは自分のせいやろが!死んで周りを悲しましてどないすんねん!」

「そう言われましても…」


いつの間にか敬語になっている佑だったが、それほど反省の色が見えない佑に対して声の主は一つの提案をした。


「よっしゃわかった。じゃあ自分に選ばしたるわ」

「何をですか?」

「自分の現状を変えへんまま死ぬのか、それとも俺についてきて自分を変えるのかどっちや!」

「えー、急にそんなこと言われましても…」

「人生はいつでも急や。はよ選べ」


少し考えた後、佑は声の主に質問を投げかけた。


「あの、もしかして何ですけど…僕の自殺を止めようとしてくれてます?」

「アホぬかすな。俺は別にお前に興味はないけど、お前が自分を変えるために手助けしたろうとしとるだけや!」

「ホントですか?」

「ホンマや。ほんでどうすんねん。あと10秒以内に決めなもう俺は行くからな」


声の主に催促されて、あとがなくなった佑はどうせ死ぬなら色んな可能性を探してから死ぬことにしよう、それからでも遅くはないと決めた。


「分かりました。あなたについていくことにします」

「よお言うた!よっしゃ、そうとなったらすぐ行くで」

「行くってどこに行くんですか?」

「決まっとるがな。わしの世界や」

「は?」

「ええから目瞑れ!」

「は、はい」


 佑は言われるがままに目を瞑った。


今後ともお付き合いの方よろしくお願いします。

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