追放①
「お前もういいわ、クビ。」
突然呼び出された酒場の席での突然のクビ宣告に頭が真っ白になった。何かの冗談だと思った。リーダーのハンスはこういう質の悪い冗談をよく言うから。いつもうるさい酒場の喧噪が遠くなっていく。
「う……嘘ですよね……?」
今日のダンジョン攻略も特に足を引っ張っていなかった。ハンスの攻略速度について行けたし、回復のタイミングもミスしていない。
「お前さぁ~ほんとノリ悪いよね。リータやマイが楽しいこと言ったりしてんのにさぁ~いっつもああしろこうしろ言うからいつも白けてんの。分かる?分からないか、堅物のアリルにはwまぁお前と会うのは今日までだし、どうでもいいか!ほら帰った帰った~♪」
ハンスは酔っているのか軽い口調で私のことをクビにした理由を述べていく。意味が分からない。真っ白になった頭がさらに混乱していって何も考えられない。
「私が……いなくなったらどうするんですか……パーティーのお金を管理しているのは私ですよ……。それに回復術士の私が抜けたらパーティーが崩れますよ……。」
「うるせぇな!そんなもんリータがしてくれるだろ!それに回復術士もお前の代わりなんて沢山いるわ!!ほんとお前と話すとイライラするな!俺は帰る!!ここはお前が払えよ!!」
そう言うとハンスは酒場を出て行っていた。
私は彼を呼び止められずにただ座ったまま、酒場を出て行く彼の背中を見送ってしまった。
酒場の喧噪はいまだ遠いまま。
◇ ◇ ◇
「おい……嬢ちゃん……嬢ちゃん!もう閉店だ。ずっとここに居られると掃除の邪魔なんだよ!さっさと代金払って出てってくれ!」
怒鳴り声が響いて我に返る。どれくらいの間ここにいたんだろう?気付いたら周りに他の客は居なかった。さっきまでの喧噪はすでになく、近くには酒場のマスターがいつものしかめっ面でいた。
「……すいません。すぐに出て行きます……。」
私は代金の銀貨2枚をテーブルに置き、ふらつく足取りで出て行こうとする。
「おい嬢ちゃん!代金が多いぞ!」
「えっ……!それでぴったりですよ……!?」
「うっせえ!俺が多いと言ったら多いんだよ!分かったら受け取って帰れ!」
そう言うとマスターは私に銀貨を1枚投げ渡して掃除を始めてしまった。
そんなに弱って見えたのだろうか、今の私は。
マスターの荒っぽい優しさが身に染みて、涙が出て来る。
「ありがとう……ございます……!」
そう言って私は酒場を出た。既に日は沈み闇夜が広がっている。少し冷えた風が私の亜麻色の髪を揺らしていく。
「明日またハンスと話そう、きっと……今日のは酒の席での悪い冗談だ。うん、そうに違いない。」
私の独り言に反応するかのように、冷たい風が少し強く吹き抜けていった。
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