転生
断絶していた意識が、はっきりとした形で戻った。
ここ…
どこだ…
天国か、地獄か。
ふと、自分の手を見やる。
…。
妙に皺が、増えている。
自分の手か?これは?
いや…
それ以前になぜ、僕は見知らぬ部屋のベッドに寝ている?
僕は死んだはずだ。
現世なのかここは?
トラックにバイクごと撥ねられて、生還したというのか!?
しかもこの全身の違和感は何だ?
自分の体ではないような…。
疑念と、言い知れぬ恐怖に、おもわず僕は声を上げてしまった。
「誰かいますか!?」
一人の若者が、ノックの上部屋に入ってきた。
妙な敬礼。
え?軍服を着てる青年!?てか病院じゃないのかここは。
「総統閣下、どうかなされましたか!?」
ドイツ語だ。なんとか聞き取れる…。大学時代ドイツ語を履修していたし、当時同じ語学クラスに留学生でかわいい子がいたので下心丸出しで練習させてもらったことがあるから…。
それにしても…。
マイン・フューラー?
何を言ってるんだ?
うろ覚えのドイツ語を絞り出す。
「あの、ここはどこですか?」
僕が発した問いに、若い兵士?はひどく困惑した表情を浮かべた。
「ひ、秘書官殿を呼んでまいります」
若者と入れ替わりに、ずんぐりした男が入ってきた。
ずいぶん高位の人間らしい服装だ。
「総統閣下、如何なされましたか?」
先刻と同じ質問。
僕はさらに踏み込んだ質問で返した。
「ここはどこですか?そして、先ほどから私を誰だと思ってらっしゃるんですか?」
男は一瞬苦笑を浮かべたが、すぐに真顔に戻る。
まるで自分は忠誠を試されているのだ、というような表情であった。
「ここは総統大本営ヴォルフスシャンツェ。そしてあなた様は偉大なるドイツ帝国の指導者
アドルフ・ヒトラー総統閣下です。」
!!!!!
僕は枕元に有った手鏡をのぞき込む。
歴史本やネット画像のみで見たことのある、ちょび髭の中年男の顔がそこに在った。