ジルトの仕事・~始まり~
「さーて!どっち行こーかなぁ♪」
ある1つの世界に降り立ったジルトは辺りを見渡し歩み出す方向を決めようとしていた
「おっし!決めた!右に行こー!」
腕を大きく振って東に歩き出し生い茂る森へと向かった。
その静かな森には陽の光が入り込み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。風が吹くと木々の葉同士が擦れたような音だけがした。
そのとき、ビィィィッという幻想的な森には不釣り合いな音が手元から響いた。
「ぅおっと!なんだ!?なんだ!?」
服のポケットから取り出した物はレールベルクから渡されたバランサー計器であった。
「うわぁ・・・こりゃあすごいバランスの崩れ方だなぁ~いかにここに転生された奴がゴミかよく分かるよぉ~まぁそいつが青ざめて絶望する姿を想像するとゾクゾクするけどねぇ♪」
満面の笑みでそう呟くジルトはバランサー計器をポケットにしまい再び歩み始めた。
「てかこっからどう抜ければ街に行き着くんだろ?そもそもその街に対象者がいるのかなぁ?地図かなんか手に入ればしらみ潰しに街を移動すんのもいいけどね」
キョロキョロ辺りを見渡しながら、このまま直進していけばいいのか迷いながらも足を止めず歩を進める。
しばらく進んだとき、きゃああという悲鳴が微かに聞こえた。
「ん?誰か叫んだよな?んー・・・ここで何かしら手を貸すと余計バランスを崩すことになるんだよなぁ~まぁでも行ってみるだけ行ってみるかぁ」
そう決めたジルトは足に力を込め、悲鳴が聞こえた方向に走り出した。ジルトの本気の速さは人間が瞬きをする間に地球を2周するほどの速さであるため力を抜く必要がある。
「ほーん・・・あいつだ!」
瞬時に悲鳴をあげた人間の元にたどり着き、木の上に乗ったジルトが見下ろした先には魔獣に襲われている1人の女性がいた。
「ハァハァ・・・どうしよう・・・こんなところで死ぬなんてイヤ!誰か!助けて!!」
涙を流しながら懇願する女性は両手を胸の前で組み、祈るような形で座り込んでいた。どうやら足が折れているらしい。
「神様・・・神様・・・!」
目を瞑り必死で祈っている女性を頭をかきながら困ったような表情で見下ろしているジルト
「ん~・・・この世界の神はバランス調整も考えられないアホでろくな存在じゃないからなぁ~助けてはくんないと思うよ~」
ジルトは腕を組んでどうしようか考えようとしたが、魔獣はそんな時間を与えるほど優しくは無かった。
女性に脇目も振らず飛びかかる魔獣
1つ息を吐き、ジルトは木の上から魔獣に飛びかかった。
一瞬。ほんの一瞬魔獣がジルトの存在に気づき目を向けたが姿を捉える前に意識を断ち切られた。
魔獣の巨大な体は下半身のみ残り、上半身は跡形もなく消滅し、崩れ落ちた。
崩れ落ちたとその音と衝撃で女性は瞑っていた目を開き、唖然とした表情で目の前のジルトの後ろ姿を見つめていた。
「よっわ!この程度かぁ・・・まぁ想定内だけどねぇ」
ガックリと肩を落とすジルトを涙目で見つめていた女性がやっとの思いで言葉を発した。
「あ・・・あの・・・ありがとうございます・・・」
「ん?あーまぁ気にしなくていいよ。あ、それとこの世界の神なんてろくな奴じゃないから助けなんて求めるだけ無駄だよ」
ジルトは前を向いたままそう口にした。
「んじゃあね!俺もう行くから!」
歩き出そうとするジルトに女性が叫んだ
「ま!待ってください!」
「あーお礼とかなんとかなんて要らないから」
「あ、もちろん私のできることでしたらなんでも致します!でもその前に・・・あの・・・足を折ってしまいまして・・・その・・・不躾なお願いで申し訳ないのですが街まで運んで頂けると助かります・・・」
「お!街の場所分かるの?」
「あ、はい・・・」
「おっけ!ナイス!んじゃ行こっか!!」
「え?きゃ!」
軽々と女性を持ち上げたジルトは女性を見つめて尋ねた。
「どっち?」
「あ・・・えっとここから左を真っ直ぐ行っていただければ着きます・・・」
顔を真っ赤にしながらそう答えた女性に従い、ジルトは左方向に走り出した。