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花の巫女姫  作者: 七海 夕梨
巫女姫はゲームだと信じたい
6/24

 五片:麓の村で

(なんだろう……。なんかずっと見られている気がする)


 あれから麓の村へから宿屋に向かう途中、花梨は何度か村人たちと目があった。その視線一つ一つがなんというか気持ちが悪い。夏行が花梨の手を引き、助六が花梨を隠すように歩いてはくれるが、違和感はぬぐえない。


(やっぱり美少女だから目立つのかなぁ──と思いたいけど、おじさんが変な事言うから違う意味で考えちゃうよ)


 

 村に入る前、夏行は花梨にとんでもない事を言ってきた。


 「某の()のふりをしろ。あと声を一切出すな」


 なんでよ? と理解できぬまま、助六に制服の上から着せてもらった直垂(ひたたれ)を着、村に入れば言わんとする事が花梨にもわかった。


 (男ばっかり)


 日が傾く時刻の為、野外を控えるにしても、街道をすれ違う人だけでなく、板葺きの家々から出入りする人まで男しかいないのは異様だ。年齢層も高く、若くても40-50代かそこらでほとんどが年配者ばかり。衣服を扱う店のようなところも通ったが、並んでいたのは男物ばかりだ。女物は見当たらない。


(もしかして女性が少ない……というか、いない?)


 そんなところで足が見える服を着て歩いたらどうなるか、考えただけで花梨は身震いした。夏行のいう野獣の餌とはそういう意味だったのだ。


(こんな逆ハーレムってある? 視線が気持ち悪いし怖いよ。変態とかいたらどうしよう? なにかいいアイテムないかなぁ。そうだ、ヤシャ!! おじさんが八つ裂きがどうのって言ってたし! でもどこで手に入れるんだろう?)


「おい、何をぼーっとしている?」

「え?」


 花梨があれこれと考え事をするうちに、宿屋に着いたらしい。


宿といっても客は見当たらない。夏行によると貴族御用達のもので、巫女姫や貴族が遠征する時に利用する宿所なのだそうだ。それでも建物は古く質素な作りで、寒さを十分に凌げる場所とは言い難い。街道にあった板葺きや藁の家に比べたらましといった程度だ。


とても耐えれないと思った花梨は、他にもないかと聞いたが「野宿か妓楼になる」と言われぞっとした。夏行がいなければ、路銀のない花梨は泊る所もなく凍死していただろう──ゲームでなければの話だが。



(うう……ストーブが恋しい)


 凍えながら宿内に入ると帳場に宿主らしき男が座っていた。男は夏行を見るなり「うげっ」と声をあげると、大袈裟に頭を下げた。


「宿主よ、今宵はここで泊りたいのだが……」

「これはこれは、夏行様。では宿帳に名と、宿泊人数を」

「わかった」


(でた宿帳!! ゲームであるある、セーブアイテムじゃない!!)


 確かめようとする花梨に、夏行が「後ろで控えていろ」と目くばせを送った。だが宿帳を目前に、じっとするなど花梨にできるはずがない。夏行の後ろから、ちょろっと顔をだし、宿主と目があってしまった。宿主は一瞬驚くも、にたぁと微笑み返すと「これはこれは」と声をだし、舐めるような目で花梨を見た。


(うっ、気持ち悪い)

 

 視線から逃げるように、花梨は夏行の背後に隠れた。


「某の連れになにか?」


 夏行に鋭く言われ、宿主の視線が泳ぐ。


「いえ……まるで女子のようだな、と」

「元男娼だからな」


(男娼……)


「ほぅ、真面目な夏行様が男娼を連れ歩くとは珍しい」

「そういう相手ではない。すぐれた剣士ゆえ引き入れただけだ」

「引き入れたねぇ……剣士にしては華奢では? ぐへへへっ、わかってますよ。どうでしょう、一番良い部屋をご用意する代わりに、手前にもおこぼれをいただけま──

 

 ダン!!!!


 突如大きな音が宿主の言葉を途切れさせた。夏行が帳場に剣を突き刺したのだ。夏行の怒気に花梨は悲鳴をあげそうになり、慌てて口元を抑えた。


「ひぃっ、じょ、冗談ですよ」

「発言には気を付けろ。黄泉の怒りをかいたいか?」

「お、お許しをっ。どうかそれだけはっ」


 縮こまり命乞いをする宿主に、夏行はふんっと顔を背けると「さっさと部屋を用意しろ」と言い、刀を鞘へとしまった。その横で助六が、ほっほっほと笑っている。


「よかったのぅ、宿主。若様は気が短こうてなぁ。ぽんと突かれたら塵のように消えますぞ?」


 優し気に言う助六の目が笑っていない。もし夏行がやらねば自分が殺るといった顔だ。助六の言わんとする事を宿主は理解したらしい。さらに何やら助六に耳打ちされ、首をコクコクと縦にふると、真っ青な顔で逃げるように帳場の奥へと姿を消してしまった。

 


「助六、何を言ったのだ。これではどの部屋かわらかぬではないか」

「ほっほっほ、ちょとした忠告ですよ。あぁ、部屋ならこの廊下の一番奥です。しかも一番良い部屋を無償で提供してくださるそうですよ。さぁさぁ、まいりましょう」

「……お前」


 夏行が呆れながら先導して歩く助六に言う。この時、助六だけは怒らせまいと、花梨は心の奥で密かに誓った。


 

 

 







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