芝浜 聖剣物語
一杯の御運びありがたく御礼申し上げます。
酒の歴史なんざぁ相当古くからあるそうで聞いたところによると有史以前には既に呑まれてたそうなんですなぁ。なんてたってぇあのイエス・キリスト様の血はぶどう酒なんていうお話もありますから酒と人の縁は深いものです。
日本の神話にも酒は良く出てきますなぁ有名どころだとスサノオ伝説のヤマタノオロチの討伐だとか。まぁこっちの世界の神さまも酒好きなら異世界でも人間がいりゃあ酒も産まれるのも必然てなもんで。
王国首都のギルドにいるアーサーっていう冒険者がおりまして、腕の立つほうでギルドの格付けで金、銀、銅ってあるんですがアーサーは剣術だけしか能がねぇのに銀の上位にいる強者なんですな。
腰にぶら下げた長剣と皮の鎧と額当てを付けて颯爽とモンスターを狩るんですなぁ
その軽やかな剣でもってギルドの受付嬢のグィネビアを妻に娶ったんですなぁ
女房のグィネビアってのがおりまして受付嬢やってたもんで気立ては良いし、細やかで度胸もある。
綺麗な嫁さん貰ってゆくゆくは金の冒険者も夢じゃないって評判のアーサーなんだが一つ欠点がありまして、彼は大の酒好きなんですな。
まぁ冒険終わりの一杯が最高!なんていう飲み方なら良いだがこのアーサー冒険行く前に朝から一杯飲んでたいっていう困った性分でして、
昨日に受注したクエストの場所を確認して、道具屋行って揃えて、飯屋に行ってエネルギー補給をする。
ただ、この飯屋の時にチラつくわけですな、だいたい酒場後の翌日の朝ってのは酒の匂いが残ってるもんでしてぇ、飯が出るまでにその匂いをふぅ〜って嗅ぐと呑みたくなるもんでぇ飯が出るまでの小鉢が程よいつまみだったりするんですなぁするってぇと一杯だけ飲んじまう。その呑んだ一杯がこう胃の腑中でかあっと熱くなる。ご飯出る頃にはもう三杯も飲んじまって飯を食って呑むこうなっちまうわけですなぁ。
そのあと魔物の催眠かけられたみたいにフラフラしながら家で二度寝をする。当然クエストは達成出来ずに次の朝ってな具合でまぁ飲んじまうとてんで駄目なんですなぁまぁそれが積もり積もって段々と金が無くなっていくそして飯が質素になって他所へ飯へ行くこの悪循環が続くんですなぁ。
そうして年を越すのも苦労する頃、
「アンタっちょっと起きたくれよっ」
「なんだぁ?俺はまだ寝るぞぉ」
「もう今年は年越せるかわかりませんからどうぞ働いておくなし」
「いやっつってもよぉ今日は天気が」
「晴れてますから」
「剣の錆びが」
「もう研いで玄関に置いてあります。それにアイテムも入れた腰袋も置いてありますから頼んますからクエスト行ってくださいませ」
「わぁったよ」
…とボヤきながらクエストに行きまして。
1時間すると
「オイっ!酒を買ってくれ酒っ!」
「アンタ仕事は?」
「コレみろっこれ!!」
そう言ってパァンと財布を広げまして
「アンタコレェ!」
「いやぁ、よぉまぁクエストもかったるいんでその辺のスライムをよ枕がわりに洞窟でゴロゴロしてたらよぉ目の前に転がってきてなぁ」
「48、49、」
「めんどくせぇなっ!!70金貨だよ!」
「70!?」
「オイっ酒を買って来い!このまま遊んで暮らせるなぁ」
そのまま夜が明け
「あ〜飲んだ飲んだ」
「アンタ金が無いのに飲んだくれて」
「金なら昨日拾った金貨70があるだろが」
「知らないよ?」
「あぁ?おいおい嘘はいけねぇな」
「知らないよっ!!」
「いやでもよ、昨日はおめぇさんも数えてたぁじゃねぇか!!」
「アンタそれは夢でも見てたんだねぇ、普段から仕事もしないで酒ばっか飲んでたいって思ってたからバチが当たったんだよ!」
そう言われてサァーっと血の気が引いたアーサーが
「すまねぇっ!もう金輪際酒は飲らねぇ!だから今回の払いだけはなんとかしてくれねぇか?」
「今回だけですからね、もう酒は断つって約束してくださいよ」
「あぁっ約束する!」
そう言ってアーサーはスッパリと酒を辞めて仕事に精を出しまして
元々剣の腕は良かったんでギルドからの依頼をこなし夕暮れの頃には自警団の剣術の指南をしたりして遮二無二に働いたんですな、
そうして年断つ頃には借金も無くなり
2年断つ頃には家財や服を全部揃えて毎月金貨10枚の蓄えを残し
3年も断つ頃にはランクは上がり顧客もついて立派な装備を身につけ家の横に道場を構えられるようになった大出世でございますな
そんな年の暮れの夜。
「ただいまっ!」
「おかえり、どうだった湯の方は?」
「いやぁなかなか混んでたが良かったよ昼間にサッと浸かりゃあ良かったが何せ隣町でモンスターが出たっつんでな?あそこはジジババしかいねぇから夜眠れなかろうと思って退治してたら夕暮れの混む時間でよぉあんまり入らなかったよ」
「そうですかぁ、はいコレ」
「おうっこりゃ有難ぇズぅ〜っと美味えなぁ甘酒かい随分久しぶりに飲んだが旨いね」
「それにしてもなんか家の雰囲気が明るいねぇ?絨毯を拵えたのかい?」
「前の畳は古かったでしょう?二月前に敷物屋のケニーさんとこに頼んだら年越し前になんとか納めるって話でアンタが出掛けてる間にやっといてくれたのよ勝手しちゃったかしらねぇ?」
「いやぁこれから新しい年を迎えるんだいいじゃぁねぇか」
「そうかい?」
「それにしてもぉこうやって年を越せるとはなぁ」
「アンタが稼いでくれたおかげで貸す所はあれど借りる所は無くなったからねぇ」
「そうさなぁこの最近歳のせいかだんだん踏み込みが足りなくなってきてなぁ。この間なんか飲んでる若い奴ひっ捕まえて若いウチしか無茶出来ねぇんだから飲めな!なんて説教したら昔の俺を知ってる奴が「へ〜のんべぇアーサーが酒を飲むななんて言葉がでるとはなぁ」言われよ」
「アンタがすっかり変わってくれたおかげこうしてゆったりとした生活を送れてます本当にありがとうございます」
「おっオイ頭上げねぇか」
「さてとちょっと待っとくれ見せたい物があるんだよ」
「なんだい?そんな漬物の壺の中になんかあるのかい?」
「コレだよ」
「随分と汚い財布だねぇ?でも重たいねぇはぁ〜近頃の女はえげつないねぇやってるねぇ?」
「違うよ覚えてないのかい?その財布の中の汚い金貨」
「おおっ?んーでもなんか見覚えあるような」
「3年前の年越しの頃」
「あぁなんかすんごい飲んだ…………コレかいっ!」
「お前さんが拾って来たあの財布夢じゃなかったんだよ。私だってコレを見たときには借金は返せてもう少し楽な生活が出来る。でも、アンタは遊ぶ暮らしを言ってたから酒屋に走る前にギルド長のとこ行って相談したら「いやこんな金は手をつけちゃならねぇ、コレは私が役所に届けて来るからアンタは酒を買って旦那酔わせてコレは夢だと騙すんだよ」って言われて私は一生懸命騙しました。するとアンタ根は単純なもんだからコロっと騙されてくれてそれから一生懸命働いてくれて…去年の秋頃に持ち主が見つからないってんで役所の方からこの金が渡されて私はもう見せても良いと思ったんだけれど働いてるアンタの気を緩めちゃいけねぇと思って今日の今日まで黙ってたんだよ」
「…………」
「3年経ったしアンタの心根も変わったし今日言おうと思ってずっと家で待ってたんだよ。」
「………」
「私をぶつなり蹴るなりしてくれて構わないよでもね、アンタの為を思ってこういう事をしたんですからその後はキッパリと許しておくれ」
「頭上げとくれよ
お前さんのおかげで俺はぁ精一杯働いてこうして一流の冒険者になれたし、街から感謝状だって貰ったよコレも全部ひとえにお前さんがあの日俺を騙してくれたおかげだそんな出来た女房を蹴るなんてとんでもない有難い女神様だよ」
「アンタ……それじゃ湿っぽいのも良く無いしほらほとんど飲んでなかったお酒だよ」
「いや…俺ぁ良いよ」
「なんでだい?」
「また夢になると行けねぇから」
もっと書き込んでも良かったかもしれないと思ってます。