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猟犬と赤提灯

ヒュウゥ

と体の芯から凍えそうな風が何処かで吹いた。男はコートの襟を立てて少しでも寒さから身を守ろうとした。日はすっかり沈み、月でお餅を突くウサギさんも休む時刻。そんな時でも男は馬を使わず街道を歩く。今日も自分の仕事を終え、もはや寝るだけの住まいに戻る途中だった。


グゥ


腹の虫が鳴いた。こんな遅い時間では酒場も営業していない。早く帰ろうと足を進めると、道の裏手から光が漏れているのが見えた。


火事か?!


仕事柄に見過ごすわけにはいかない。走り、その路地を覗き込むと


いらっしゃい


移動式屋台がそこにはあった。自分が追っている星もこんな商売をしていたな。兎も角、火事でなくてよかった。


グゥゥ


腹の虫は、更に鳴く。


おや、お客さんのお連れさんはここで食べたいみたいですよ?どうですか。おまけしますよ


男は、屋台の向かいに3つばかし置いてある椅子に座り注文する。


小腹がすいたんでね っと。適当に見繕ってくれ


わかりました


店主は風変わりな髪形をし、紺色の服装をしていた。出された料理は、魚の出汁で野菜を煮込むものだった。


はふはふ、こりゃあ…美味いね っと


ありがとうございます


男はそれから、酒も少々呑みほろ酔い気分で帰っていった。次の日の夜、またその道に行ったが屋台はなかった。

男はその日も夜遅くまで仕事をしていた。あれから様々な路地を見て回ったが、あの移動式屋台には出会えなかった。のちにあの料理は、ほぼ鎖国といってもいい国で作られている【おでん】というものであると、巨体な彼の部下は調べ上げた。

ハールバーリ領内で【おでん】を出す店は少ない。大抵は【ポトフ】を出す。

だが、男は【ポトフ】では満足できなかった。あの独特な発酵臭のする酒と合う、魚の出汁で野菜を煮込んだ物が食べたいのだ。また、今日も路地裏を覗き込むと…


あの、風変わりな店があった。


やっとみつけましたよ っと

 おや、お客さん。またいらっしゃいましたね

えぇ、ここのおでんが忘れられなくてね っと

 それは嬉しいです。ですが今回はおでんは無いんですよ

おや?それはどうして

 孫に食われてしまいましてね。代わりに子鬼が仕留めた、魔牛のもつ煮込みがありますよ?

じゃあ、それを1つと…ほかにありますか っと

 ありますとも、てるてるな娘が仕留めた魔豚の角煮に、ちょいとおドジな子が見つけたモーニングバードの焼き鳥がね


男は上機嫌でそれらを注文し、酒を進めた。背後から褐色肌を持つ孫娘がよだれを垂らしているとも知らずに…

男…まずは魔牛のもつ煮込みを食べる。それは温かく味が口の中を広がっていく。走り人参、役者大根を始めとする野菜たちの優しい甘さ、グレイベットの弾力がある歯応え、ピリリと辛くさせる七色パウダー…全てが良い塩梅だ。主役である魔牛のもつは、内臓特有の臭さは少なかった。


このもつは美味いね っと。普通は臭さを誤魔化すために、ニクニンをどっさり入れるのにその臭いもない… どう処理してるんだい?

 簡単ですよ。新鮮なうちに手早く捌いてやるだけです。…そう、魔牛が死んだと感じないうちにね

おっと、これは怖いね っと。この魔牛を仕留めたのはかなりの手練だね

 それを聞いたら、喜ぶでしょうな。さぁ、次は魔豚の角煮です


魔豚…オークの祖先と言われる豚だ。野生種に近い程、味が濃く出るが肉質は硬くなる。逆に人の手が加わると、味が薄くなるが肉質は柔らかくなる。角煮とは、硬い野生種のを煮込み美味しくいただく方法だが…果たして?


…!こりゃあ、美味い!柔らかく、口の中に入れた瞬間…溶けやがった。なのに、味はしっかり濃い野生種のものだね っと

 えぇ、調理方法をてるてるな娘に言われて改良したんです

どうやったんだい?

 魔法…重力魔法を鍋にかけたんです

Gravity!か…煮込むだけでなく、全方位から圧力をかければ柔らかくなるわけか…

そうです。では最後のモーニングバードの、焼き鳥です


男は、最後の料理に手を伸ばす




『もう我慢できない!いただきます!』


あ…!

 あ…!こ、これ!お客さんのを食べたらダメだと言ったじゃないか!


『…さよなら、ばいばい!』


…お客さん、すいません。店仕舞いです

 そうかい…また開いてくれるかい?

孫を出し抜けたら


後書き

お日様がおねんねする少し前、この時間からサシミは料理の仕込みを始める。その料理は夕飯用でもあるのだが、もう1つは屋台で出す物だ。元々、料理はある程度出来るサシミはこの国の寒さで、祖国の居酒屋を思い出していた。


あぁ、こんな寒い日は熱燗とつまみで晩酌も良いものだなぁ

待てよ?自分がこう思うなら他の国の男も、そう思うんじゃないか?

だけど、深夜だと酒場は閉じてるし作ろうにも、ものぐさが勝って何もできない…なら…


という相手を思いやる気持ちで屋台を始めた。すると どうだろう。皆、心から味わってくれるではないか!そんな理由で始めた屋台。

だが、出店するには1つの難関を超えなくてはいけない。サシミ達の家はホーリードール邸の森の中にある。街へ出るにはホーリードール邸の前を通らなくてはいけないのだが…


おじちゃん、僕に隠して美味しい物持ってるでしょ〜?

 くっ…鼻が良すぎる!しかし今宵も負けぬぞ!

アハハ!ハンデでこの国の冒険者SSSクラスで相手してあげる!

 ゆくぞ!

オッケー!


必ずプルに捕まるのだ。サシミは料理を守るために真剣に闘う、プルはまた新しい美味なる料理を食うために闘う。

頑張れサシミ!君の料理を猟犬を始めとするおっさんたちが待ってるぞ!

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