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ある冥馬の闘い

まだ靄がかかる朝早い時間。その時間に錆びた風は街道を走っていた。否、己を鍛え直していたのだ。【煉獄】と比べるとこの地上は彼にとって生温いものだった。【魔界の冥馬】という二つ名があるので常に恥じない体作りをしている。

馬車に重石を載せ走る。その重石は自分にとっては軽い物だが、何も無いよりは少しはマシだった。今日も何気なく走っていたがふと、東の方角にある山が気になった。ただの山、だが惹かれたのだ。


明日はあの山に行こう


錆びた風はそう考えてホーリードール家の屋敷に戻って行った。

そして、夜になり音を出さないように駆け出し馬車を引き気になった山に行ってみた。その山は不思議な道だった。獣道でもあるしい、人為的に作られた道という感じでもあった。道幅は馬車2台分ありその端には排水用なのか溝があり、アップダウンや曲がり道・直線と、山を越えるためのようなものには思えない。


いいトレーニングが出来そうだ


馬車の四隅に魔法でランプに火を灯し走り出した。ただ直線を走るよりそれは刺激的で楽しかった。速度を出し過ぎると遠心力により馬車が崖へ落ちそうにもなるので注意が必要だ。何十回と走り帰る時間になった。


最後に1回だけ


この最後の1回が後の彼を変えることになる

最後に1回走るため気を落ち着かせる。最高のタイミングで走り出した。全体の半分を走った頃だろうか?後ろから下品に蹄の音を鳴らしながら近づいてくる1台の馬車の存在に気がついた。


直線では無いとはいえ自分が追いつかれた?そんな馬鹿な!


更に速度を上げようとするが、次は緩い左のカーブのすぐ後に苦しい右のカーブだ。減速しないと遠心力で馬車が持ってかれ谷底へ真っ逆さまになる。


おい、おい。減速しないのか⁈


しかし、前の馬車そんな事を意に返さずにカーブに突入した。途端に信じられない光景を、錆びた風は見た。ガタン!という音と共に前に出た馬車は綺麗なコーナリングをしたのだ。

錆びた風をインから抜き…スパーと完璧なコーナリングを見せた…慌てて減速し右のカーブをクリアした時、馬車はもう既に見えなかった。

・・・

・・

『あらあら風ちゃんどうちたの〜、ほらお野菜持ってきまちたよ〜』


普段は大聖女から頂けるご飯とお水が今日はすんなり喉を通らなかった。


自分の走りの何処がダメだったのだろうか?馬車だってゴルドウルフがくれた最新式で『さすぺんしょん』というのが付いていて揺れは減らせる。車輪にも鉄枠が嵌められて頑丈に出来ている。


もう一度リベンジだ


次の日から彼はあの山で走り込んだ。何日も走り込んでいるので、目を瞑ってでも走れるぐらいだ。そして再戦の時がきた。


何度も何度も山を走り込み、夢にまで見るようになるまで走り込んだ日。遂に再戦の時がきた。いつものようにスタート位置で足踏みをし気を集中させる。


来る。何故だかわからないがあいつは今日来る!


走り出す。自分の最高の走りを!上手に速度を上げていきカーブ手前でキッチリ速度を落とす。そして…あの下品な蹄の音が近づいて来た。


来た…この時を待っていた!


両者…打ち合わせをしたわけでもないのに、横に並びきっかり3秒後に全力疾走した。その速さはカマイタチを生む程であり、森の木々に傷が付いた。そして、かつて自分が敗北したカーブまで来た。


ここだ、ここで全てが決まる!


先行したのは…【錆びた風】!

速度を落とさず、カーブに突っ込む…!普通なら遠心力で馬車が持ってかれるが、そうならない方法が1つだけある。それはわざとイン側の馬車の車輪を排水用の溝に脱輪させるのだ。いわばジェットコースター!普通なら脱輪すると身動きができないが、己の脚力に自信を持ってすれば可能!そして見事に勝利を収めたのだ!


ハァハァ、勝った


後ろを振り返ると、相手はまだ余裕の表情だった。つまり自分は遊ばれていたのだ。


なかなか、いい走りだったぞ。

ーそうか、ありがとうよ。…父上

な、何を言う⁈私は貴様の父上などではない!謎の冥馬だ

ーふ、そうか…で何でこんな事をしたんだ?

冥界からお前を見てて地上で鈍ってないか、心配でな。ちょっと試したんだ。だが取り越し苦労だったみたいだな

ー結構辛かったよ

ガハハ、そうかそうか!よし私に勝ったんだ。戦利品をやろう


すると、謎の冥馬の馬車から4つの蹄鉄が出てきた。


【オリハルコン製の蹄鉄 S】


これを付ければ更にいい走りが出来るぞ。では!


そう言うと謎の冥馬は天高く飛び去った。


ありがとうよ、父上


父親を超えた事で、心が満たされた錆びた風は馬車を引いて山を降りる。その途中…


ー!お嬢さん大丈夫ですか⁉︎

あぁ、なんて素敵な方…実は足が痛くて…

ーこれはいけない、蹄鉄が割れて足とズレている。そうだ、これを使って下さい。

あ、ありがとう。…【オリハルコン製の蹄鉄 S】なんて!受け取れません!

ーいいんです。美しい貴方に使って欲しい…

そんな…美しいなんて


こうしてホーリードール家に新しい仲間『サクラ』が加わった。


~END~

ちなみにサクラは角が無いですがユニコーンという設定です。

何故角が無いかは、いずれ明かされます。

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