終わりのはじまり
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・つっかれだあああ」
サークルの2次会を乗り切った杉本白百合は帰宅するなりベッドへと飛び込んだ。
疲労困憊の身体が休息を求めるが、理性がそれを頑固として受け入れない。
着替え、化粧落とし、歯磨き、お風呂などなど。
19歳の乙女が眠りにつくにはまだやるべきことが多いのだ。
息を大きく吸い込むと温かな香りが白百合を癒す。
昨日、布団干しといて良かったなあ。
大学進学と共に一人暮らしを始めて早1年。家事のルーチンワークは疎かになる一方である。
母親のありがたさを身に染みて感じるのは常々のこと。お日さまの匂いがする布団は彼女にとっては天国と言っても過言ではない。
さすがは昨日の私、と過去の自分を褒め称えた彼女はテーブルの上の異変に気付く。
なに、この手紙。
記憶にない封筒に手を伸ばす。真っ白な便箋には宛名も書かれていなかった。
封はされていないので中身を取り出す。
部屋の電気を付ければ、惚れ惚れするような達筆で奇妙な文章が記されていた。
『
白の魔女へ
月の魔女の拝辞に伴い、最後の魔女は正当なる後継者を求めん。
故、選ばれし魔女の聖戦を此処に宣言する。
戦い抜いた者には運命の輪、限りない富、久遠の栄誉を授けん。
此れを天へと還すとき、汝、一つの戦士となるだろう。
汝の明日に加護があらんことを。
』
読み終えた白百合は思わず感心する。
「へえ、悪戯にしては凝ってるわね。小学生・・・・・・ひょっとしたら中学生かしら。男の子って本当にこういうの好きよね。まあ、分からなくもないんだけど」
魔女なんか存在しないし、私の明日に加護なんて必要ない。
便箋をくしゃりと丸める。自分の出せる全握力を使って長方形を球体へ変形させる。余計な時間を使わせた腹いせだ。下らないお遊びは身内でやって欲しい。
ただの紙の塊と化した便箋をごみ箱へ放り投げる。慣れないアルコールの影響だろうか、彼女が投げたボールは的を大きく外れて窓から夜の街へと消えて行った。
「やばっ!・・・・・・コントロールなさすぎでしょ、私」
慌てて窓から身を出す。いくら東京とは言え深夜の1時。4階から落ちた紙塊など見えるはずもなく、彼女はため息をついた。
「うーん・・・・・・まあいっか、住所も書いてなかったし。街の栄養にでもなってくださいな」
カーテンを閉めて服を脱ぐ。まずはお風呂だ。明日は1限があるし、なるべく早くベッドに潜りたい。
あくびを噛み殺しながら彼女は浴場へと向かった。