残された山
ここは小さな島だ。しかし、昔は高い山だったそうだ。そう年寄りから小さい頃からよく聞かされたが、こんな場所が高い山だったなんて今も信じられない。街から一歩でも外に出れば、そこは広い海が広がるばかりだ。
「しゅう。そろそろ出発するわよ」
「分かっている」
ここは日本という名前の人口およそ1000人の小さな街だ。小さいといっても、今のこの世界では一番人数の多い集団かもしれない。昔は1億人を越える大きな国だったと聞いているが、にわかに信じられない。
「本当に行くのか?そんな確証もない通信のために」
数日前のこと、街にある雄一の電波観測所の職員が慌てるようにして長の元に訪れた。周りからは無駄だと言われてきた雄一の外部との更新の窓口だ。開始してかここ40年の間、一切何の役にも立っていなかった施設。そのくせ施設が多くの土地を使用しているため、作物を育てるのに使いたい言った声は少なくなかった。
「「我々以外の人類よ、生きていたら訪ねてきてほしい。我々は完全な土地を手に入れた」だったかしら?方角は今の中央大陸の経度:xx緯度:xx付近らしいわ。まぁ遠いけどいってみる価値はあるんじゃない。」
「なら、なんでこっちからの問いかけに全く答えないんだ?」
さぁ?とばかりにしほは首を傾げた。俺ら2人は街の決定で派遣されることになった探索者だ。過去に5年置きぐらいに外の調査のために人を送り出している。ちなみに帰還率は20%ほどで、事実上の死刑宣告である。
「ほら、いくわよ。1分1秒がもったいないわ。こんな気温は良い時期なんて数日ないんだから、今のうちに進めるだけ進むべきよ」
半年続く夜の冬が終わりに近づき、かすかに遠くに日の光が見える季節。この夜と昼の間の数日間のみは人間が活動できる気温になる。この数日間は外に出ることが一般の人にも許され、街は軽いお祭りムードが漂っている。
そんな皆の楽しい気持ちとは裏腹に、俺は「はぁ」、と小さくため息を付き街の出口に向かって歩き出した。出口といっても、正確には地上である。磁場が弱まった地球では防護服なしでは幾日も外で活動できない。そのためこの島には島の大きさから想像ができないほど広い地下の街が形成されているのだ。
街の出口では多くの人でごった換えしていた。俺としほの姿を誰かが見つけたのか、出口までの花道が人々よって自然と出来上がっていく。出発歓迎会は昨日終わった。あとはここから出て、船に乗り込むだけ。中央大陸まではおよそ1週間の旅になる。その間は永遠と続く海だ。
「しゅう。生きて帰って来いよ」
「お土産よろしくね」
「何か見つけてきてくれ」
人々は口々に話しかけてきた。俺は軽く手を振り、黙って花道を抜けた。探索者は英雄である。街の中で1番身体能力と頭脳が高い若い男女が1人ずつ選ばれる。探索者の目的は2つ。1つは「資源のある場所を見つけること」だ。この街にはエネルギーは太陽光や波力により取っているが、鉄やその他のレアメタルと呼ばれる物質が非常に不足している。実際に、第2回の探索者派遣では、大量の電気自動車の残骸が発見され、エネルギー不足の解決に大きな成果をもたらした。そして2つ目が「生き残っている人類を探すこと」である。残念ながらこちらは今のところ人1人として見つかっていない。
今回はそれプラス謎の通信主の確認が含まれている。過去の探索者が残した地図も今回いく場所では何の役にもたたないときた。果たして帰ってこれるのだろうか?
そんな不安な俺の顔を見越してか、地上に出た俺にしほが話しかける。俺の顔を少し不安そうな顔で覗きこんだ。
「なに?不安なの?」
「じゃぁ、しほは不安じゃないのかよ?」
「不安よ。だけど、それ以上に好奇心が上をいくわ。なんのために今まで私が勉強や運動を頑張ってきたと思う?外の世界を見るためよ」
「のんきだな」
「そうね。でも、貴方だって断ることも出来たのに、こうして防護服を着てリュックを背負っているわ」
「ーーー」
「本当は、楽しみで仕方ないんじゃないの?死んだら、それはそれまで。あなたが1番やりたいことが出来たのだし満足じゃない」
そうか、そうなのだ。俺は探索者になって、この変わり果てた地球の姿を誰よりも1番に見てみたいのだ。そんな外の世界を旅することが小さい頃からの夢だった。だから、選抜で選ばれた時は、それはもうめちゃくちゃ喜んだ。
だが時間が経つにつれ、現実を考え始めてしまったのだ。そんな事のために命を無駄にしてよいのかと思うようになっていった。多くの人は歓迎したが、家族には止められた。それが大きかったのかもしれない。だけどーー
「そうだな。やりたいことをして死ぬならそれが本望だな」
「そうよ」
しほは、にこやかに答えた。それを見て俺は吹っ切れたようの振り返り、街の人達に大きく手を降りながら声をあげた。
「行ってきます!必ず帰ってきます!!」
先ほどまで悪魔のようの見えた皆の顔が、やっと笑顔で見送っているように感じることができた。俺は小さな人間だ。でも、これだけの人のために、自分の好きなことをするために、探索者としての指名をまっとうすると心に決めた。
「船を出すぞ二人とも早く乗り込め。エネルギー勿体ない」
「はーい。いくわよ。しゅう」
「分かった」
目の前には「雲丹重工」と書かれた、50mほどの船が港に停まっている。港と言っても船は4隻しかなく、うち2隻は長距離航行が出来ない。長距離航行出来るうちの1隻はである、「雲丹重工」と書かれた船は60年前の災害当日作られた船であり、観測機やレーダーなどが積んである。それだけでなく、ガソリンと太陽光のハイブリッド走行が可能であり、重油や軽油でも動く完全にエネルギー不足を計算した作りになっている。
「これが、中央大陸までいける雄一の船か」
他の船と違い、その独特な形をした船は英雄の船とか救世主船と呼ばれている。じいちゃんの世代の人は、この船を数隻使うことでここまで逃げ延びたそうだ。
「おうよ!しほ、それとしゅうだな?俺はこの雲丹重工の船長だ。中央大陸までは1週間の航行だ。気長に待てよ?」
船の上に乗り込むと、ムキムキの船長が出迎えてくれた。過去に4度も中央大陸とこの島を往復に成功させているベテランだ。しかし、そんな実績なくともこの筋肉を見るだけで、何か安心できるものを感じる。
「はい。しゅうです。よろしくお願いします」
「しほです。よろしくお願いいたします」
俺達が丁寧に挨拶をすると、船長はニコニコしながら頭をポンと叩いた。小さく「死ぬなよ?」と耳打ちをした。俺らは小さく頷くと、それを確認してか船員の向かって叫んだ。
「やろうどもいくぞ!出港だ!もたもたするなよ?本格的な昼が来る前に中央大陸につかなきゃ全員、海の上でおでんになるぞ!!」
「「「はい!船長!」」」
「出港よーい!錨を上げろ!エンジンを暖めろ!モーターの最終チェックもだ!急げ」
船長の言葉に船員が慌ただしく動き始める。俺らはその様子を横目に案内され、船の中へと移動した。船の中は温度管理と放射線をカットしてくれるようになっている。この中は比較的、自転していたころと環境が似ているらしい。しかし、維持に物凄いエネルギーを使うため、航行時しか利用されない。
「まぁ、のんびりとしてくれ。君らが頑張るのは向こうに着いてからだ」
1つの部屋に案内された。1週間2人が過ごすには勿体ないほど広い部屋だった。島でもこんなに広い部屋に住んでいるのは、長ぐらいなものだ。
「分かりました。それで、噂では船の中は防護服は、、」
「脱いでもらって大丈夫だよ。ただし、甲板に出るときは絶対忘れずにつけることだ」
「はい」
そう言って船長は部屋を出ていった。長い旅の始まりであ
る。俺達が部屋に入って直ぐに船が静かに動き出したのを感じた。部屋にあるテレビをつけると、甲板にあるカメラが島から離れていく様子映し出していた。
「いよいよね」
「そうだな」
「次に帰ってくるのはいつ頃になるのかしらね」
「まぁ、早くて半年後だろ」
船は昔の大陸だった上を進む。この海の下には人間が作り上げた文明の残骸があるのだ。少しわくわくしたような感覚が心から込み上げてくるのを感じた。




