探索者
いつからだろう
いつからなのだろうか
私達の世界がこんなに
ーーー狭くなってしまったのはーーー
よく晴れた青空が広がる日、2人の男女が横並びで、息も絶え絶えとしながら歩いていた。それはハイキングのようにも見えるが2人とも大きなリュックを背負い、また手には酸素ボンベを持っていた。ここが高所という訳ではない。彼らの周りには大きな高層ビルが立ち並んでいるのだから。
「酸素は平気か?そろそろ10時間が経つぞ」
俺は時計を確認して、しほに聞いた。ずっと平らな斜面とはいえ、コンクリートから反射する光が喉の渇きを加速させ、また酸素も通常時よりずっと減りがはやくなる。とやかくいう俺ももう残量がほとんどない。
「そうね、そろそろ限界だわ。交換もかねて休憩しましょ?」
「何処かいい所はないかーーまたそこか、、」
しほは近場にあるマンホールに手をかけた。背中にあるバールのような物を駆使して、手慣れたものだとばかりに重いマンホールの蓋を開ける。中は真っ暗であり、何も見えない。
「ライト」
「ほらよ大事に使えよ」
リュックに下げてあったライトを丁寧に渡す。それを使いしほは下を覗き込む。安全が確認できたのか、リュックを置き、ゆっくりと下へと降りていった。完全に彼女の姿が消えたあと、ゆっくりとそれに続く。
「大丈夫よ、しゅう?そのまま降りてきていいわ」
それを聞き安心した。この前は何の考えもなくマンホールから地下に降りたばかりにネズミに襲われて、大変な目に遭ったからだ。まさか、人が生活できないこんな場所に動物がまだいるなど全く想定していなかったからだ。
梯子で下まで降りた俺は、腰に下げていた装置を取り出した。ボタンを押すと、ピッピと数回の機械音がする。すると小さな画面に気温と酸素濃度が表示された。
気温:45度
酸素濃度:15%
×危険度大:防護スーツは脱がないで下さい。
「酸素濃度15%かーーギリギリといった所だな。休憩は15分が限度だな」
「了解。まったく、はやく快適な家に戻りたいわ」
しほはそう言いながら、全身に着けていた透明な何かを脱ぎ始めた。これは対遮熱防護服。透明といっても反射率が低い透明な素材で作られているだけであり、最大で外気を30度までカットすることが出来る。それにつられて俺も脱ぐ。勿論脱いで良いものではない、何せ外気は45度だ。地下でこの温度だが、地上は50度をはるかに越える。しかし、防護服を脱がないと酸素ボンベに補給が出来ないのだ。
「はいこれ、これとこれね。はやく入れちゃって。暑くて仕方がないわ」
しほから2つの薬品を受けてる。それを酸素ボンベの機械に取り付けるのだ。この2つの薬品は中で混じり、外気をフィルターを通して吸い込むことで酸素濃度を上げる仕組みだ。
「しっかし暑いな。水はまだあるのか?」
「後1週間分ぐらいね。海までもう少しだから、そこまで行けば補給ができるわ。それにあと半月で夜の季節が来るから」
「そうか、、もうそんな季節か。シェルターをたてる場所を探さないとなぁ」
そんな事を話しているうちに、手元にあるタイマーが音をたてる。15分の時間が経ったのだ。ほんの短い休憩を終わらせ、再び防護服を着て梯子を登り地上へと出た。青い空が目の前に広がる。
そんな青空を見ていると、昔に読んだ絵本を思い出す。傘を買ってもらい雨が待ち遠しいくて仕方がな女の子の話だ。結局雨は降らず、母親にホースで水をかけてもらうというオチで終わる。
「なぁ、しほ?雲って存在するのか?」
「じいちゃんの話だと、水滴が空に浮いてるものらしいわ。でも、見たことないもの。大分赤道付近まできたし、もしかしたら見えるかもしれないね」
「そうだな」
地球が時点を止めるて約60年
半年の昼と夜
赤道付近にしか降らぬ雨
海面上昇による酸素不足
大陸の水没
様々なことが起きた
それでもまだ、人類は生きながらえていた




