第7話 眠れん・・・
俺は再び洞窟の外へ出ると、燃料になりそうな柴を拾い集めた。薪になりそうな手頃な太さの倒木も手に入り、一晩ぐらいならなんとかなりそうだった。俺が燃料を集め終わるのをまっていたかのように、陽が落ちる。
俺はなるべくそれを見ないように気を付けながら、洞窟の出口と行き止まりの扉の中間あたりで焚き火を起こした。
結局背嚢には何の罠もなく、水筒を取り出し水を飲み、干し肉を炙って食べた。
途中に川があったよな。帰りに水を補給しておこう…。
あれのことも、扉の向こうのことも、夜が明けてからだ。
うん、そうしよう。
俺は焚き火の脇に寝っ転がると、眠ることにした。
農村出身の俺は、陽が暮れると直ぐに寝てしまう習慣がついていた。まあ、農民なら誰でもそんなもんだろう。俺は騎士の息子だけど、親父も百姓と変わらん生活してるしね。照明の油代バカ高いし。
「眠れん…」
普段なら直ぐに眠れるんだが、今日は昼寝したり、崖下で気絶したりしてたからなぁ…。
マイダスの街のこととか、冒険者ギルドのこととか、サルとか、鉄の扉とか、あれのこことか、思考がぐるぐると頭を駆け巡って、まったく眠れない。
「何でこんなところに扉があるんだろうな」
普通に考えれば、誰かの住居か倉庫か何かか。
この近くに村があるとか聞いたことないから、相当昔のものなのだろうか。
俺が洞窟に入った時、サルが扉へ歩く足跡しかなかった。つまりこの洞窟は熊なんかの動物のねぐらになったことがなく、人の出入りもまったくないと云うことだ。あのサルも、俺から逃げる途中、偶然洞窟の中に入り込んだと考えられる。
「あれが住んでた住居なんだろうか」
可能性は一番高いな。
あるいは元山賊のアジトとか。
山賊が隊商の娘や村娘を攫って来て、キャー!、うっふん、あっはんした場所だったりして。
いずれにしても、人通りがないと云うことは、かなり昔に放棄されたものだと云うことだ。
山賊のアジトでないとすると、こんな辺鄙な場所に住むなんて、相当の変わり者に違いない。扉が金属で出来ていること。漆黒の塗料が塗られ、金象嵌の装飾が施されていることなどから、ここを作ったのはかなりなお金持ちだろうと考えられる。
「ひょっとしたら、何か『お宝』が残っているかもしれないな」
①隠者の元住処
②山賊の元アジト
③・・・
三つ目の可能性は考えたくないな。
俺だって命は惜しいし…。
③未発見のダンジョン
ダンジョンがあるベルマッセン辺境伯領の領都であるマイダスを見れば分かるように、ダンジョンは莫大な富を生む『金の卵』だ。
ダンジョンから採取される魔獣素材、牙や角、骨、革・鱗などは武具をつくるための優秀な材料になる。魔獣の体液や内臓は薬に、核である魔石は様々な魔道具を駆動するための魔力源となる。
更にダンジョンの魔獣が稀にドロップしたり宝箱から発見される魔道具は、他では得難い製品だった。
刀身に炎を纏わせる『炎の剣』、雷撃魔法を放つ『雷の杖』、あらゆる攻撃を弾く『魔法の盾』、腕の力を何倍にも引き上げる『剛力の籠手』。いずれも人間には作成が不可能なアイテムであり、ダンジョン以外では入手困難な製品だった。
保有するダンジョンの数は国力に直結する。国境付近で発見されたダンジョンを巡って、二国間の戦争に発展したケースもあるそうだ。
どう云う理由か分からないが、ダンジョンは人里離れた辺鄙な場所で発見されることが多いらしい。ダンジョン発見にやっきになった何代か前の国王がこんなお触れを出した。
①ダンジョン発見を国に報告しなかった者は例外なく死刑とする。
②報告した者には多額の報奨金と、ダンジョンの規模に応じた爵位を与える。
本当だったら素晴らしいね。猫も杓子もダンジョン発見に奔走するに違いない。
だがこれは建前だ。
俺は知っていたんだ。新規ダンジョンの発見を報告した者は、大貴族によって秘かに殺され権利を奪われてしまうことを…。