表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第三章 地球の回復薬編
71/73

第18話 動きだした時間

「んん~…、うるさいわねぇ…」


 俺と高畑先生のとりとめのない会話は、眠り姫の少ししわがれた声によって中断された。


「まさか…本当に目覚めたのか?」


 高畑先生が慌てて彼女の枕元に駆け寄った。彼女は眩しそうに薄目を開け、瞼をパチパさせていた。


「あれ?…高畑先輩? 白衣なんか着てどうしたの?…ここは何処なの?」


 吉田紗弥香さんが半分寝ぼけているような口調で呟いた。何しろ10年ぶりの発声である。俺はよく喋れるもんだなと感心した。


「ここは病院だよ。君は長い間意識不明の状態で眠っていたんだ。事故のことは覚えているかい?」


 高畑先生が優しく尋ねた。


「ああ! 薬師岳を縦走している時に急に足元が崩れて…わたし滑落したのね…」


 紗弥香さんが慌てて上半身を起こそうとするが、重力に引き戻されベッドへ再び倒れ込む。


「あ゛…、ぁれ?…。身体が重い?」


 高畑先生は掛布団をめくると、紗弥香さんの両手を包み込むように握った。


「大丈夫。何も心配することはないよ。君は長い間眠っていたせいで、筋力が落ちているだけだ。僕が付いている。ちょっと訓練すれば、直ぐに歩けるようになるさ」


「高畑さん、ちょっと老けた? わたし、どの位眠っていたの?…」


 紗弥香さんの視線が、不安げに宙をさまよった。

 人生の最も輝いていたはずの10年間を失ってしまったのだ。ご両親も亡くなっているそうだし、真実を知らされたら、彼女はどれ程の衝撃を受けるだろうか。


「その話は後にしよう。先ずは昏睡から覚めたことを喜ぼうじゃないか」


 高畑先生が一瞬紗弥香さんから片手を離し、ナースコールのボタンを押した。


『どうされました』


 インターフォンから若い女性の声が響いた。ナースステーションに詰めている担当看護師だろう。


「高畑だ。807号室の吉田さんが目覚めた。鎮静剤〇〇〇〇〇の注射準備をしてくれ。あと、カウンセラーの飯田先生に直ぐこちらに来るよう連絡してくれ」


『えぇ!?…、わっ分かりました。直ぐに準備します』


 10年間変化の無かった患者が目覚めたのだ。看護師が驚くのも無理はないだろう。


「とにかく目覚めてくれて良かった…。本当に良かった…」


 高畑先生が紗弥香さんの手を握ったまま、両膝を床につけ跪いた。完全に涙声になっていた。


 これで俺の役目も一段落かな。

 高畑先生が治療したいもう一人の患者は、手持ちの回復薬(ポーション)ではどうにもならない病状だった。このまま二人を眺めていても仕方がない。帰るとするか…。


「それでは、俺はこれで失礼します」


 俺は一礼すると、病室から出て行こうとした。


「待ちたまえ」


 高畑先生に呼び止められたので振り返ると、先生は既に立ち上がっていた。俺の方に歩み寄り、白衣のポットを探ると、封筒を取り出した。


「回復薬の報酬だ」


 押し付けられた封筒を覗くと、分厚い一万札の束が入っていた。動揺した俺は、慌てて封筒を返そうとした。


「えっ!? こんな大金貰えませんよ!」


「受け取ってくれ。この回復薬には、それだけの価値がある。とめ吉さん、源太さん、蘭さん、そして紗弥香さんの病状は、本来ならその10倍の金額を掛けても治らないものだ。これは正当な報酬だよ。…それに」


 高畑先生が両頬に流れた涙の跡を、白衣の袖で拭った。


「ギリギリ贈与税が発生しない金額に抑えてある。もっとも、税務署(マルサ)は君の魔法の『収納(ストレージ)』の中まで査察出来ないだろうがね」


 ニヤリと笑った先生の顔は、本当に晴れ晴れとしていた。

体調不良のため、投稿が遅くなってすみません。

シリアス回はあまり面白くないかもしれませんが、ギャグ回ばかり続けるわけにはいきませんからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ