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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第三章 地球の回復薬編
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第17話 深刻な副作用

「ねえ、先生って恋人いるんですかぁ~♪」


 終了のホームルーム時間の後、吉田先生を囲んで数人の女子がガールズトークを始めた。最初に話しかけたのは女子グループのリーダーで、長い髪をポニテにした杉下久美子だ。


 本当に女子ってこの手の話が好きだよな。男にはとてもじゃないが恥ずかしくて話せない話題だが、口に出せないだけで男子も十分興味があるらしい。俺を含め帰り支度をしていた数人の男子の手がピタリと止まり、耳をそば立てる気配がした。


「え~!?、恋人はいないかな。好きな人はいるんだけどね…」


 基本的にフレンドリーでノリの良い先生である。女子共の質問へ、誤魔化さずに正直に答えてくれた。


 キャー!!と女子たちから黄色い歓声があがった。


「わたしたちの知ってる人ですか?」

「どんな男性ですか?」

「イケメンですか?」


 女子たちから次々と質問の雨が降って来る。


「あなたたちの知らない人よ。高身長、高学歴、高収入。おまけにカッコ良くで優しい人なんだけどね…」


 吉田先生が少し頬を赤らめながら苦笑いした。


「唯一の欠点は、他に好きな人がいて、わたしのことを何とも思ってないことなのよ」


 吉田先生ほどの美人を袖にするなんて、何処の王子様だよ! 俺は心の中で密かに毒づいた。

 周りを見回すと、俺と同じ感想を持った男子生徒が、何人もいることがわかった。医者か弁護士か、それとも青年実業家とか云うやつか? 派手な服装で、何人もの美女を侍らせたキザな男の姿が浮かんできた。


「おっといかん、いかん…」


 俺は変な方向に流れそうになった思考を無理やり引き戻し、帰り支度を再開した。もうすぐ高畑先生が自動車(ベンツ)で俺を迎えに来る。今日は高畑先生の眠り姫を起こすXデーなのだった。




「どうぞ…」


 この殺風景な病室に来たのは二度目になる。俺は早速収納(ストレージ)から回復薬(ポーション)の瓶をを取り出すと、まっすぐ高畑先生へ差し出した。高畑先生は、何時になく神経質になっている様子に見えた。


「何度見てもその『魔法』ってやつは慣れないもんだね。今回も目の前で見てるのに、未だに信じられないよ」


 高畑先生は受け取った回復薬の小瓶をじっくりと見つめた後、首を振りながら脇にあるテーブルの上に置いた。引き出しから小さな鋏を取り出すと、天井を見上げる。天井からは経腸栄養剤のビニールパックがぶら下がっていた。


 この眠り姫のように、口から食事が摂れない人のための保健器具である。体内の消化管に直接挿入されたチューブを通して、重力に従って栄養剤が供給される仕組みになっている。短期間の運用ならば静脈への点滴の方が一般的であるが、長期間に及ぶ場合は点滴では限界があるのだ。


 ビニールパックはほぼ空になっていた。高畑先生がおもむろにビニールの端に鋏を入れた。回復薬の栓を抜き、引き出しから漏斗を取り出すと、中身を一気に流し込んだ。毒々しい緑色をした液体が、透明なチューブの中を流れ下って行く。


「どう思う?」


 高畑先生が俺の方を振り向くと、不安そうに小声で尋ねた。


「わかりません…。俺の知る限り、10年も前のケガに対して回復薬が使われた例はありません」


 俺は正直に答えた。回復薬が使われるのは、ケガをした直後が当たり前だ。それ以外の場合は、治療院で治癒魔法を掛けて貰うのが一般的である。効くかもしれないし効かないかもしれない。何れにしても、今回が初めての使用例になるだろう。


「三人も犠牲になったからね。効いてもらわないと困るよ」


 高畑先生がぎこちない笑顔で冗談を飛ばしてきた。効果がどう出るか、不安でたまらないのだろう。


「犠牲だなんで人聞きが悪いですね。誰も死んでないじゃないですか。そう云えば、とめ吉さんたちはもう退院したんですか?」


 俺が尋ねると、高畑先生が急に渋い顔になった。


「実はあの後、回復薬(ポーション)の深刻な副作用が明らかになってね…三人ともまだ入院したままなんだ」


「えっ!? 副作用って、本当ですか?」


 カイルの世界では回復薬の副作用など聞いたこともない。俺はびっくりして聞き返した。


「残念ながら本当なんだ…。三人の歯茎から新しい歯が生えてきてね」


「は!?」


「今までしていた入れ歯が合わなくなったんだ。今は流動食しか食べられない。歯が生え揃うまで入院延長してもらってる」


 高畑先生がニヤリと悪戯っぽく笑った。


とめ吉:「ふがぁ~、ふがふがふが」(はー、腹減った)

源太:「ふが~ふ、ふがふがぁ!」(ステーキ、食いてえ!)

クララン:「ふがふが、ふがふがふが」(あらあら、どうしましょう)

この回はある古典SFへのオマージュになっています。

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