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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第三章 地球の回復薬編
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第13話 時間が止まった病室

 数日後、俺は再びA大学病院の8Fにいた。電車だと1時間以上かかるのが、高畑先生の(ベンツ)に乗せて貰ったのでそんなには時間がかからなかった。自動車って、本当に便利な発明だね。カイルの世界には馬車か歩きしかないんで、それを考えると日本って恵まれた国だなと思った。


 唯一心配だったのは、リハビリのために入院している真一先輩に見つからないかと云うことだった。もし鉢合わせしたら、『青汁』について根掘り葉掘り聞かれることが明らかだったからだ。


 高畑先生に先導されて入った病室は、幸い女性専用の棟にあったので、真一先輩に会わなくて済んだ。その部屋は真一先輩の部屋ほど広くなく、物がほとんど置かれてなかった。生活臭がまったくなく、少し寒々しく感じた。


「彼女が僕がどうしても回復させたいと願っている患者の一人、吉田紗弥香(よしださやか)さんだ。彼女は僕の恋人…いや、恋人ではないな…。恋人になって欲しかった女性(ひと)だった」


 ベッドの上に高畑先生と同年代くらいの女性が仰向けに寝かされていた。額と胸部から数本の電線が伸び、モニターらしき機械に繋がっていた。天井近くに栄養補給用のバッグがぶら下がっており、体内へ直接管が挿入されていた。


「美しい女性(ひと)ですね」


 高畑先生が恋人にしたいと云ったのが素直に肯けるほどの美人だった。俺は何処かで会ったことがあるような妙な既視感を覚えたが、明らかに初めて会う人なので、そんなはずがなかった。


「彼女は事故で脳の奥深いところを損傷していてね、10年間ずっとこのままなんだ。自立呼吸はあるし、脳波もはっきり出ているんで脳死状態ではない。ところが何をやっても目覚めない。10年間、昏睡状態が続いているんだ」


 高畑先生が、悲しげに呟いた。


 高畑先生は、彼女との馴れ初めを簡単に話してくれた。


 両親を早くに亡くした彼は、幼い頃親戚の間をたらい回しにされる苦労を味わった。幸運にもある財団の奨学金を受けることが出来た彼は、猛勉強の末この地方の旧帝大医学部へ合格することが出来た。


 1年の教養学部で、彼は加藤拓実(かとうたくみ)と云う男と知り合い友人になった。加藤に誘われてワンダーフォーゲル部に入った彼は、それなりに楽しい1年を送ることが出来た。


 2年に上がると、1年後輩に数人の女子が入部してきた。その中に吉田紗弥香がいた。美人で快活、気取ったところのない彼女に、高畑と加藤はたちまち夢中になった。気が付くと何時も三人一緒に居た。


 高畑と加藤が吉田に好意を持っていることは誰が見ても明らかだったが、二人とも抜け駆けして彼女に告白するようなことはなかった。二人共に、かなりなヘタレだったからだ。


 そんな関係に変化が訪れたのが、高畑が3年の学部生になった時だった。医学部のキャンパンは本キャンパスとは別の場所にあり、彼がワンゲル部へ顔を出す頻度がすっかり減ってしまったのだ。部員の噂によると、彼がいない間に加藤と吉田は急速に親密度を深めていると云うことだった。


 そして運命の事故が起こった。ワンゲル部の企画で南アルプスを縦走中、吉田が滑落事故を起こしたのだ。事故直後に既に意識がなく、加藤ら男性部員が交代で背負って、ヘリが着陸出来るところまで彼女を運んだ。医学部で忙しかった高畑が、参加していない場でのことだった。


 懸命な治療にも係わらず、彼女の意識が回復することはなかった。高額な治療費を工面するため、彼女の父親は自宅を売却した。それでも足らずに無理をして働いた結果、身体を壊し亡くなってしまった。ショックの余り母親も後を追うように亡くなり、高校生になったばかりの妹が一人残された。未成年の妹ではどうすることも出来ず、途方に暮れることとなった。


 当時既に医師として働き始めていた高畑は、個人的に援助を申し出た。吉田の妹は金銭的にこれを断ることが出来ず、以来、紗弥香の面倒はずっと高畑が見ている。


「は~あ、そこまで行くと、立派なストーカーですよね」


 美談かと思ったら、急に生臭い匂いがしてきたんで、俺はジト目で高畑医師をねめつけた。


「何とでも云いたまえ! 彼女が目を覚ました後プロポーズして、それでも断られたら、きっぱり諦めるさ」


 完全に開き直ってるな、この人。まあ、高畑先生とこの女性の恋愛模様がどうなろうと、俺には関係ないんだけどね。


「それで先生のライバルだった加藤さんは、現在(いま)どうしてるんですか?」


「加藤か? 加藤は大学を卒業して就職した後、さっさと別の女性と結婚して、今は二児の父親(パパ)さ」


「ドライなんですね…。いや、そっちの方が普通で、先生が普通じゃないのかもしれませんね」


 俺はそこで一旦言葉を切り、弛緩しかけた雰囲気を引き締め直した。


「まあ良いでしょう。これから俺が見せることは、俺の重大な秘密に係わることです。絶対に他言無用にしてください。もし約束を破ったら、二人目の治療には協力しませんよ」


「ああ…」


 俺が真剣な顔でそう告げると、高畑先生は良く分かっていない様子で、曖昧に肯いた。


収納開放(ストレージ・オープン)


 俺は他人の見る前では初めて唱える魔法の呪文(ワード)を唱えた。

高畑先生は実はアブナイ人だった!?

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