第12話 我が家秘伝の『青汁』です
「我が家秘伝の『青汁』?」
高畑医師の不意打ちに、俺の声が思わず裏返った。
「何故に疑問形だ!?」
高畑医師が呆れた表情で突っ込んできた。
まずい…。
俺は瓶一本分の回復薬を吸い飲みへ入れ佐野先輩へ与えたわけだが、3/4程飲み込ませた後、残りを病室へ置いて来てしまったのだ。まさか見た目『青汁』そのものの回復薬に注目する人間がいるとは思わなかった。ちゃんと回収しておくべきだった…。
「いやだなぁ、先生。先生の云い方だと、まるで『青汁』のおかげで脊髄損傷が回復したみたいに聞こえますよ。『青汁』なんかで難病が治るわけないじゃないですか」
俺は正攻法で反撃することに決め、極力馬鹿にしたようなニュアンスを込めて云い放った。
「そう聞こえたんなら、それで正しい。僕はこの『青汁』が佐野君を直したと確信しているんだ。これを見たまえ」
しかし高畑医師はまったく動じた様子もなく、冷静にタブレット端末を操作すると、新しい映像を表示して見せた。大学の研究室らしき場所で、白いネズミが映ったAVI動画だ。
「うちはこれでも大学病院だからね。伝手を頼って研究室の院生に手伝って貰った。このマウスはメスで右脚の筋と神経を切断してある。ほら、右脚を引きずってて上手く歩けないだろう? このマウスにこの『青汁』を飲ませて30分後…」
スポイトで『青汁』を飲ませる映像が映った後、元気よく走りまわる白いマウスの姿が映し出された。別のマウスの別の個所がケガされられ、『青汁』を飲まされ回復させられる。何匹も何匹も…。
「僕が確信している理由がわかっただろう? もう一度君に聞くよ…。この緑色をした液体は、いったい何なんだね?」
俺は答えることが出来ず、黙りこくってしまった。
まさかここまでやってくるとは考えもしなかった。この医師の目的は何なのだ? 俺を問い詰めて、何をしようと云うのか?
「この『青汁』の正体を知って、先生はどうするつもりですか?」
俺は辛うじて掠れた声を絞り出した。
「どうするって…」
問われた医師は、困ったような顔で即答を避けた。
「名誉ですか? どんなケガも治癒可能なノーベル賞級の薬を発見したって、発表しますか?」
「そんなつもりはないよ…」
高畑医師が、戸惑った様子で首を横に振った。
「なら金ですか? どんな深刻な故障でも即座に回復出来る薬があると知れば、億の金を積んででも欲しがるアスリートや億万長者が沢山いるでしょう」
「確かに金はある程度必要だが、金儲けを目的にする気はないよ。分を越えた金を持っても、害にしかならないからね」
高畑医師は金儲けの線をきっぱりと否定した。
「ならば医者としての使命感ですか? 目の前の病気やケガで苦しむ全ての患者を治したい。この薬があれば、今まで治療不可能だった患者の治療が可能になるかもしれません」
「そりゃあ医者としてはそれに越したことはないと思うが、何か問題でも起こるのかね?」
高畑医師の質問に、俺は肯いてみせた。
「ある理由があって、この『薬』は俺一人しか入手できません。大量に入手することも不可能です。そうするとどうなると思います?」
「まずは値段が高騰するだろうね。少ない『薬』を巡って、患者同士で奪い合いになるかもしれない。入手出来なかった患者からは、君は誹謗中傷を受けることになるだろう」
高畑医師が納得したような顔をした。
「例えばこの『薬』を大量に配備すれば、前線で負傷した兵士が即座に復帰できる『超人兵団』が誕生するかもしれません。もし何処かの国の独裁者が俺に目を付ければどうなりますかね」
俺はなるべく深刻そうに見えるように、高畑医師の目を真っ直ぐに見つめながら云った。
「なるほど、僕の好奇心は、君にとっては迷惑でしかないわけか…」
高畑医師は暫く俯いて考え込んだ後、顔を上げた。
「君がそこまで話してくれたのだから、僕も本音を話そう。他の多くの患者とか正直どうでも良い。僕にはどうしても直したい患者が二人だけいるんだ。二人とも現代医学ではどうすることも出来ない症状だ。たった二人分だけで良い…。どうか治療に協力してくれないだろうか」
高畑医師が、中学生の俺に深々と頭を下げた。
ここの部分は何だか書くのが難しかったです。




