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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第三章 地球の回復薬編
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第11話 この緑色をした『液体』はいったい何なんだ?

 俺はその男と近所の珈琲チェーン店で向かい合っていた。最近急激に店舗の数が増えている珈琲店で、モーニングサービスがウリの地方発の珈琲チェーン店だそうだ。


「改めて自己紹介させてもらおう」


 男は席に着くとサングラスを取り去り、折り畳んで胸ポケットに入れた。そうなると黒ずくめの男とはとても呼べない。スーツは黒でなくよくある濃紺だし、ネクタイは初めから緑と白の縞模様だ。そもそもメン・イン・ブラックのような黒い帽子を被っていない。ごく普通のサラリーマンにしか見えなかった。日本で全身黒ずくめの衣装と云ったら、葬式の礼服だけどね。


「僕はA大学病院の脳神経外科の医師で、高畑洋一と云う。君も知っている佐野真一君の主治医だ。君は佐野君の後輩で、小杉雄太君で間違いないね」


 高畑先生は30前後の背の高い若い医師で、自己紹介通りのことが印刷された名刺を、無造作にテーブルの上に置いてきた。こう云う名刺を初対面の相手に渡す時には、両手で持って差し出すなど作法があったはずだが、俺が中学生だったこともあり、形式にはあまりこだわっていないようだった。


「それは間違いないですけど、いったい俺に何の用なんですか?」


 俺は警戒心でハリネズミのように武装しながら高畑医師を睨みつけた。


 高畑医師の前にはブレンドコーヒーがブラックで。俺の前にはダージリンティーが砂糖入りで置かれていたが、二人ともまったく手を付けていなかった。


「佐野真一君のケガの状況については、どのくらい知っているかね?」


 高畑医師が、俺の目を真っ直ぐに見つめながら探りを入れて来た。


「一通りのことはまあ。バイク事故で全身が麻痺してしまったとか」


 俺は無難な答えで、相手の意図を計ろうとした。


「佐野君は事故で頸椎に大きな衝撃を受け、脊髄に重大な損傷を負ってしまった。その結果、脳から神経を通って流れる信号が首から下に流れなくなり、全身麻痺の状態に陥った。…これを見てくれ」


 高畑医師は高級そうなブランド物のバッグから、タブレット端末を取り出し俺に提示した。


「二ヶ月前に撮影された佐野君のCT画像だ。頸椎のこの部分が完全に破壊されている。こうなっては現代医学では治療のしようがない。将来的にはES細胞やiPS細胞による再生医療が期待されているが、10年以上先の話だ。現状で出来ることは何もなかった…」


 俺は急にグロいCT画像を見せられて顔をしかめた。


「これって、個人情報保護法違反なんじゃ…。医師の守秘義務違反ですよね」


 俺は精一杯の反撃を試みた。


「佐野君本人から許可を取っているよ。何より彼自身が、自分の身に何が起こったのか知りたがっている」


 俺の口撃はあっさり不発に終わった。


「話を戻そう。入院から三ヶ月経って、回復も見込めないということで、病院としては退院・自宅療養を勧めると云う線で話が進んでいた。直接話をするのは主治医である僕の役目で、こう云う話は何度体験しても慣れないもので、嫌なもんだよ。いよいよ明日にでも家族を呼んで話をしようと思い、今日は帰るかって考えていたところに、看護師から電話が掛かって来た。佐野君の首から下の感覚が戻って、手足も動くって云うじゃないか…。冗談かと思ったよ。常識的には考えられないことだからね。慌てて病室に駆け付けると、冗談どろこじゃなかった」


 高畑医師はそこで言葉を切ると、長い溜め息を一つ吐いた。喉を湿らせるように、手付かずだったコーヒーカップを持ち上げると、一口、口に含んだ。


「これが昨日撮影された佐野君のCT画像だ。あれだけ損傷していた頸椎部分が、まるで何事もなかったように復元している」


 高畑医師がタブレット端末を操作すると、画像が新しいものに切り替わった。素人目に見ても、ケガで損傷した痕跡がまったく見当たらなかった。


「さすがに三ヶ月間も身体が麻痺状態だったんで、筋肉が委縮してしまっていて直ぐには動けるようにならないが、佐野君は既に機能回復のためのリハビリを開始している。はっきり云ってこれは医学の常識から見て考えられない現象だよ。正に奇跡としか云いようがない事態だ」


 さて、どうやって話をはぐらかそうか。高畑医師の目的がアレ(・・)だとすると、正直ロクな事にならない気がする。


「真一先輩は高校野球で鍛えていましたからね。常識では考えられない、超人的な回復力の持ち主なのかもしれない。いや~、奇跡って本当にあるもんなんですね」


 俺は引きつった笑いを浮かべながら、頭をフル回転させていた。


「君はあくまで、シラを切るつもりなんだね…。佐野んくが云うには、君に罰ゲームと称して『青汁(・・)』を飲まされた直後、急に()と首の辺りが熱くなって、身体の感覚が戻っていることに気が付いたそうだ。この緑色をした奇妙な『液体』は、いったい何なんだね?」


 高畑医師が、ペットボトルに少量入った緑色の『液体』を俺に突き付けた。

昨日は通院のため更新できませんでした。

自分は頸椎損傷について詳しいわけではないので、作中の該当部分はかなり適当です。

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