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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第三章 地球の回復薬編
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第10話 メン・イン・ブラック

 校門を出た瞬間、俺はその違和感に気付いた。


 何処かから、誰かに監視されている感覚…。


 間違いなかった。カイルが使う魔法を、俺も使えることに気付いた時から、俺は妙に感が鋭くなったと云うか、世界に流れる『気』とか『魔力』の流れを感じ取れるようになっていた。


 俺は靴紐を結び直す振りをして、不自然にならないように立ち止り、辺りの様子を窺った。


「居た」


 中央分離帯を挟んで車線の反対側、黒塗りのベンツが不自然な位置に駐車していた。グラスに遮光フィルムを貼っているのか車内が見辛かったが、サングラスをかけダークスーツを着た男が、俺のことをじっと見つめているのがわかった。


 気味が悪いな…。


 とは云え、ずっと立ち止っているわけにはいかない。俺が歩道を家に向かって歩き始めると、突然ベンツが走り出し、中学校前の信号交差点を強引にUターンして同じ車線に入って来た。俺の後方、30メートル辺りでぴたりと止まった。


 俺が早足で歩くと、黒塗りベンツは同じペースでゆっくりと着いて来た。俺が10メートル進むと、ベンツも10メートル進む。俺が立ち止ると、ベンツも停止する。


「追跡されてるのか?」


 黒塗りの外車にダークスーツのサングラスの男…。


「まるで、メン・イン・ブラックだな」


 いや、複数人じゃなくて一人だから、マン・イン・ブラックか。


 UFOマニアの間で信じられている都市伝説の一種で、UFOに接触した人々のまわりに出没する謎の組織のことだ。UFO事件に関する口封じ行い、彼らの要求に従わない目撃者は行方不明になってしまうと云う。


「何でそんなものが、俺のまわりに現われるんだ?」


 心当たりと云えば、『収納(ストレージ)』魔法による回復薬(ポーション)の持ち込みしかない。

 一説によるとメン・イン・ブラックは、宇宙人と政府の接触を隠蔽するための秘密組織であるらしい。彼等は宇宙人との接触だけでなく、異世界との接触に関しても監視してるのだろうか? 目的は口封じなのか?


 焦った俺は、歩道を全力で駆け出した。しかし黒塗りのベンツはスピードを上げ、難なく追って来る。

 俺は咄嗟に、車が入って来れないような細い路地に逃げ込んだ。直後にベンツが急ブレーキをかける聞こえた。自動車のドアが開閉される音が聞こえ、革靴と思しき乾いた足音が俺を追って来た。


「なめんなよ! こちとら地元民だ!!」


 構わず住宅街の複雑な隘路を縫うように走り抜けた。中学二年間でかなり衰えたとは云え、少年野球で鍛えた脚力はまだ健在だった。大人の足にも負けないぜ!


 幼い頃からこの山~規模的には丘と云った方が良いか~は、俺の数少ない遊び場だった。何処にどんな建物があり、何処にどう云う抜け道があるか知り尽くしている。もちろんここ二三年、家の増減や道路の改修なんかがあったが、そんなに劇的に地形が変わるものではない。この辺は俺のテリトリーなのだ。


 見る間に追手の追跡を引き放し、何時しか革靴の音が聞こえなくなった。これで諦めてくれれば良いんだが…。


 山を頂上まで登りきると、昔からある八幡神社に出た。開発され尽くした住宅街と違って、原始の日本の自然が色濃く残っている緑地帯だ。小学生の頃は、ここによく虫取りやドングリ拾いに来たものだった。昭和の時代に建てられたと思われる小さな社には、常在している神職がおらずシンと静まりかえっていた。


 ペンキが剥げた鳥居をくぐると、参道の石段が現われた。参道の真ん中は神様の通り道だから、道の端を歩くんだよと、亡くなったおばあちゃんが教えてくれたっけ。


 神社の石段を降り切ると、中学から続くアスファルトの車道に戻った。人通りが多い大通りなんで、例の黒ずくめの連中が何かして来ることもないだろう。ここから数分も歩けば、もうすぐ住みなれた俺の自宅が見えて来るはずだ。


「これは、予想外だったな…」


 俺は言葉を失うしかなかった。


 俺の自宅の真前に、黒塗りのベンツがでんと居座り、ダークスーツにサングラスの男が立って待ち構えていたからだ。

宇宙人ジョーンズは今も楽しんで見てますよ。

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