異世界側(ダンジョンサイド) 第51話 輸出者カイルの報酬
体調不良のため、更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
何時も通りの時間、夜明け前のまだ暗い時間帯に目が覚めた。
「シンイチ先輩、回復薬が効いたのか。よかった…」
シンイチ先輩はユータと意識を共有している俺にとっても、他人とは云えない人物だった。少年野球時代の先輩は俺から見ても恰好良い人だったけど、人間ってああも劣化するもんなんだね。心が痛んだよ。
ユータの住む世界から見たら色々と遅れている俺の世界だが、回復薬の存在は大きなアドバンテージだ。ユータの世界の高度な医療技術でも治せないケガが、回復薬で簡単に直ってしまうんだから、この点だけはこの世界に生まれて来て良かったと思う。
さて、何時もならこの後、朝の日課をこなすんだが、今日は短縮メニューだな。
『収納開放』、『放出』
俺がさっきまで寝ていたベッドの上に、見慣れない物体が三つ現われた。一つは中型、二つが小型。どれも俺の世界には存在しない工業製品『ガラスの鏡』である。
「これはまた、厄介なものを送って来たな…。こんなオーパーツ売りに出したら、早晩貪欲な貴族どもに目を付けられて出所を探られるぞ」
中型の姿鏡にはステンレスの枠と足が付いており、『ダンジョンの宝箱から出たことにして売れ』と日本語で書かれた付箋が貼られていた。もう一つは100円ショップで購入したと思われるピンクに花柄の手鏡。『彼女にプレゼントして点数を稼げ』と書かれている。最後が黒いプラスチック枠の卓上鏡で、『自分用』とぞんざいに付箋が貼られていた。
そもそも俺の住む世界にはガラスの鏡と云うものが存在しない。俺の世界の鏡と云ったら、青銅の板を丹念に布で磨いたものだ。すぐに曇るし、歪んだりしてなかなか品質がよろしくない。そんな世界に歪みがなく曇らないガラス製の鏡を持ち込めばどんな大騒ぎになってしまうのだろうか…。
「結局は売らざるを得ないだろうな…。はぁ、頭痛くなって来た」
ダンジョンの入場料、部屋代、食費、週一の回復薬代。諸々含めて現在の俺の収入ではかっつかっつな状態だった。このままでは冒険者としてワンランクアップするために武器や防具を手に入れるなど不可能だ。ここは危険を冒してでもガラスの鏡を売らないと云う選択肢はないだろう。貧乏が憎い!
「さて、次は…。『放出』」
包装紙に包まれた四角い物体がゴトンと音を立てて出現した。
「A4コピー紙。500枚入りか」
正直これはありがたかった。ホームセンターなら500円もしない商品だが、俺の世界の羊皮紙の1/100以下の値段である。ガラスの鏡と同様、俺の国では植物由来の紙は出回っていないが、俺が独りで使う分には問題ないだろう。
『放出』
次に黒ボールペン10本入りが現われた。
単純な筆記具だが、ある意味これも大変なオーパーツだよな。鉛筆や万年筆なら、俺の世界の技術でもなんとか再現出来そうな気がするけど、ボールペンは完全に無理だろう。ボールペンの先の、真球に近い鋼の玉を作ることが、どう考えても不可能だからだ。
『放出』
そして『方位磁石』だよ…。
100円ショップで安価に売られてる商品だが、俺の世界ではそもそも磁石の存在自体が認知されていなかった。偉い学者や、一部の錬金術師には知られているかもしれないけど、少なくとも一般には知られていない。知っている人でも、砂鉄を引っつけるへんな鉱石がある、程度のものだと思う。軽量な磁針が、常に方位の南北を刺すなんて誰も知らないと思う。
だがダンジョンのマップを作るのに有効なことは確かだった。俺の現在のマッピングのやり方では、曲がり角の角度を正確に計っているわけじゃない。だから現実の地形とはけっこうな誤差が出ていると思う。広大なマイダス・ダンジョンで誤差が積み重なれば、最終的に無視できないことになってしまうだろう。安価で有用な道具を提供してくれたユータにGJを送りたい。
『放出』
これは『タモ網』か。
子供が昆虫採集に使うようなチャチなやつじゃなくて、魚釣りで使うやつだ。ご丁寧に柄の部分が伸縮式で、針金の口の部分が折り畳めるようになっている。
「これアレ用の道具だよな」
吸血蝙蝠対策だ。不規則な軌道でふらふらと飛行する蝙蝠は、普通の武器では捉え難いが、幅広の口を持つタモ網ならば、簡単に捕獲出来るだろう。タモ網自体は俺の世界にもあるものだが、伸縮自在機構とかプラスチック素材とか、網部分の化学繊維なんかは、とてもじゃないが他人に見せられるものじゃない。
いや、ありがたいんだけどね。少ない小遣いをやりくりして回復薬のお返しをしてくれたユータに文句つけるのもどうかと思う。でも、このオーパーツ製品のオンパレード、どうすんべ…。
どうやったら権力者に目を付けられずに活用出来るだろうか。
カイルの世界の人々からすると、100円ショップはハイテク製品の宝庫に見えるかもしれません。




