第50話 マイダス四天王の噂
「って云うことがあったんですけど、いったいどう云うことなんでしょうね」
ダンジョンから帰って来た俺は、マリーさんにグリーンスライムとの戦いの顛末を話した。マリーさんは商売用の笑顔を浮かべながら、俺の話を半分上の空で聞いていたようだったが、最後にはちょっと呆れ顔で答えてくれた。
「そりゃ、カイルはんが最初に戦ったスライムが、むっちゃ強い個体だったってことなんちゃうか? 冒険者だって駆け出しのG級と、トップレベルのA級・S級とでは実力に天と地ほどの差があるやろ。カイルはんがもしマイダス四天王の『野獣ブルーノ』あたりに戦いを挑んだら、あっと云う間に小指の先で捻り潰されてまうで。人間がそうなんやから、同じ種類の魔獣でも、強い奴弱い奴いろいろおるんやないかなぁ」
「なるほど…。確かにそうかもしれませんね」
云われてみれば、当たり前のことに思えた。
俺が同じ種類の魔獣の強さが、みんな同じようなものだと思い込んでいたのは、ユータの世界の余分な知識があったからだ。
ユータの世界の「てれびげえむ」の「あーるぴーじー」では、同じ種類の魔獣は多少の強さの上下はあるものの、何倍も強いなんてことはない。もしあったとしても、それは外見が似ている別の種類の魔獣と云うことになる。「げえむ」の世界と現実の世界では、違って当然だったのだ。
「それでその『四天王』って云うのは何ですか? 俺、田舎から出て来たばかりだから、マイダスの冒険者のことはよく知らないんですよ」
俺がそう訊ねると、マリーさんは両手を腰に添え、得意気に胸を反らした。
「ふっふーん。しゃあないなぁ。ここは情報通のマルローネ様が、教えて進ぜましょう♪」
偉そうに鼻を鳴らすマリーさん。心なしかマリーさんの鼻が高くなったように見えるが、気のせいに違いない。
「マイダスには名実ともにトップを張るAクラスのパーティーが四つ存在するんや。中でも各パーティーのリーダーを務める四人は『四天王』と云われて、化け物クラスの実力を誇っとる」
マリーさんはそこで言葉を切ると、人差し指を一本立てた。
「一人目がさっき云った『鉄獣団』のリーダー、野獣ブルーノ。この人は身体強化魔法を極めた近接戦闘のスペシャリストで、『力こそが全て』の言葉を信奉しとる肉体派冒険者や。身長2メートルを超える筋肉の塊で、愛用の金剛鉄のガントレットで、全ての敵を粉砕するそうやで」
ううっ、何故かどっかで見たスキンヘッドのおっさんが頭に浮かぶんだが…。
「ひょっとして、副ギルドマスターのゲルハルトさんの関係者だったりしません?」
「よう知っとるな。野獣ブルーノは元S級冒険者ゲルハルトの舎弟やでぇ」
頭が痛くなって来た…。
「二人目が最近急速に力をつけて四天王入りした『青の騎士団』のリーダー、『プリンス』ハーラルト。ごっついイケメンの若者で、どこぞの大貴族の御落胤やないかと噂されとる。天才的な剣士で、彼の前に立った魔獣は緋色銅の魔剣で細切れにされてまうそうや。マイダスの街娘の憧れの君やでぇ」
二本目の指を立てたマリーさんの瞳がハートマークになってうるうるしている。会ったことないけど、ハーラルトは男の敵決定だな。イケメン死すべし!
「三人目が魔道士を中心に結成された『灰色の盾』のリーダー、死神ギード。ガリガリに痩せた顔色の悪い中年男らしいけど、出自とかどんな魔法を使うのかとか、謎に包まれとる。ギードの魔法を受けた魔獣は、内部から崩れるようにグズグズなって死ぬそうや」
マリーさんが三本目の指を立てた。
『死神』とはまた嫌な通り名だね。通り名なんて世間が勝手に呼び始める物で、本人の自由になるもんじゃないだろうど、『死神』なんて呼ばれるのは御免こうむる。
「最後が一番歴史のある冒険者パーティー『蒼天の雲』のリーダー、白銀の魔女レベッカ様。ここは珍しくメンバーの半分が女性なんよね。レベッカ様は錬金の魔法の達人で、魔法銀を変形操作する攻防両面に優れた魔法使いなんや。最強の魔女の名は伊達やないんやで」
「いや、レベッカ様って、なんでベッキーおばさんだけ『様』付け?…って、はっ!、しまった!!」
反射的に突っ込んでしまった俺は、怖ろしい記憶を思い出して、思わず両手で頭を抱えしゃがみ込んだ。
「レベッカ様は全ての女性冒険者の目標やからな。『様』付けは当然なんやで。ところでカイルはん、何しとるんや?」
四本目の指を立てたマリーさんが、不思議そうにしゃがみ込んだ俺を見降ろしていた。
「ベッキーお姉さんの『地獄耳』を忘れてた。どうか聞こえてませんように! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。ベッキーお姉さんは永遠のお姉さんです…」
「何や、カイルはん、白銀の魔女レベッカ様の知り合いなんか?」
「『蒼天の雲』は俺の父さんと母さんがヤンチャしてた時に作ったパーティーなんだよ。ベッキーさんはその頃の仲間で、村までちょくちょく遊びに来てたんだ。ベッキーさんは母さんと同い歳なんだけど、『おばさん』って呼ぶと頭をこうぐりぐりっぐりぐりって…」
嗚呼、思い出すだに怖ろしい。
「よう、カイル坊、久しぶり。こっちに来ているなら、一度顔ぐらい出しなさいよね」
恐怖の余り幻聴が聞こえて来たようだ。覚えのある艶やかな声が背後から響いて来た。
俺は恐る恐る後ろを振り返った。
「ヒィッ!」
懐かしい顔の女性が、静かに微笑みを浮かべて佇んでいた。
カイルはマリーさんに対して基本『ですます調』ですが、今回は恐怖のあまり地に戻ってしまっています。
第二章はこれで終了です。次回から主舞台を地球側に移し、新章開始します。もちろん異世界側の話も随時挿入して行きますよ。




