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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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第45話 カイルの朝

 目を覚ますと、見慣れない天井が目に入った。


 まだ夜明け前で、部屋の中も薄暗い。俺は伸びをすると、跳ね上げ戸の止め具を外し、窓を開いた。早朝の冷たい外気が部屋の中へ入って来た。


「ユータに回復薬(ポーション)とられちまったな。あれ小金貨1枚もするんだぞ。どうしてくれるんだ?、ユータ!」


 それにしても魔法のない地球で、ユータが魔法を使えるようになったことには驚いた。ユータが細菌感染を恐れて、回復薬を『収納』に戻さなかったことは理解できるが、貧乏な俺にとって小金貨1枚は大金だ。もし『収納』に入った細菌が自動的に殺菌されることが確認出来たら、是非地球の物品で賠償して欲しいものだ。


 例えば食いもんが良いかもしんない。プリンとかイチゴショートとか、チョコレートパフェとか、俺の世界にない食いもんが良い。マリーさんに食べさせたら、目を丸くしてびっくりするだろうな。まあ、お楽しみは先と云うことにしておくか。


 俺は部屋を出ると、ドアに鍵を掛けた。昨日の内に背嚢の中身は箪笥にしまってあるので、短剣と小銭入れ以外は手ぶらだ。鍵が掛かるとは云え、無人になる部屋に大金を残しておくのも何なんで、大金貨2枚は『収納』の一番奥にしまっておくことにした。こう云うところはさすがに魔法、便利なもんだ。


 ワンルーム棟の裏には、冒険者たちが訓練に使えるように小さな広場が設けられていた。俺はだんだん明るくなってゆく朝焼けを眺めながら、毎日の鍛錬を開始した。スクワット、腕立て伏せ、腹筋、背筋。この辺りは少年野球をしていたユータの受け売りだ。さすがにエキスパンダーやハンドグリップはないんで、完全に一緒と云うわけにはいかない。鉄アレイぐらいは鍛冶屋に頼めば作ってくれるだろうが。


 一通り運動を終えると、武器の型の稽古に入る。もちろん今は長剣も槍も弓も持っていないので、エア稽古にならざるを得ない。早く稼いで、まともな武器を手に入れたいもんだ。


 空が完全に白んで来ると。他の冒険者たちが起き出して来た。


「おはようございます」


「おう。おはよう。お前、新入りか?」


「はい。昨日から入居しまたカイルといいます。よろしくお願いします」


 先輩の冒険者たちに挨拶して行く。こう云う細かい気使いが、対人関係には大事なんだ。多分。


 さて、走りに行くか。


 広場を周回して走ってもいいんだが、それではつまらない。景色を楽しみながら、運河沿いを走ることにした。ユータの地球と違って、俺の世界の朝は早い。既に仕事を始めている人が大勢いた。

 大通りを南に向かって走りると中央広場に至る。中央広場を通り過ぎ、少しすると運河に掛かる中央橋が見えて来た。ちなみに俺は橋の向こうに行ったことがない。ご領主さまの城があったり、騎士や裕福な市民が住まう高級住宅街なんで、さすがに気後れしてしまう。


 橋の手前で左へ折れ、東へ向かう。俺が運河で水浴びしたのがこの辺りだ。運河の上流に当たる東側は、まだ水が綺麗だ。これが西に向かうにつれ、生活排水が流れ込み汚くなって行くのだ。


 東の城壁につき当たると、180度反転し、今度は西へ向かう。中央橋を通り過ぎ、暫く走るとホテル・リバーサイドが見えて来た。ここにはあまり良い思い出がないが、サムエルさんやキンモさん、アマドさんたちは元気にやっているだろうか。


 西の城壁につき当たり再び反転。中央橋のところを北へ折れ、ワンルーム棟へ戻って来た。さすがに息が上がった。


 共同井戸で水を汲み、頭から被る。走り込みの熱が冷めて行くのが心地よい。


 今日からこれが俺の日課になるだろう。迷宮二日目の挑戦が始まる。

今回は日常編でした。次回は再び魔獣(モンスター)との戦闘になります。

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