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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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地球側(アースサイド) 第4話 小杉ななかの立腹

「あふっ」


 何時ものように目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


 今日は日曜日。休日ぐらい寝坊させて貰っても良さそうなもんだが、習慣とは怖ろしいものである。かっきり何時も起きる時間に目が覚めてしまった。


 着替え、洗顔、朝食など朝のルーティーンを一通りこなした後、自室の机に座る。一瞬パソコンの電源を入れる誘惑にかられたが、すんでのところで思い止まった。受験生に遊んでいる暇はない。


「勉強でもするか…」


 数学の問題集を開き、前回中断したところから解き始める。


 数学は暗記だ。考えるな。解き方を暗記しろ。

 塾の林田先生の言葉が頭の中で再生された。勉学を教える立場の者としては暴言に近いが、受験対策としては有効だ。彼からしたら、数学の考え方を身に付けさせるのが目的ではなく、限られた時間の中でより多くの問題を解かせるようにさせる方が重要なのだから。


 いかん…。雑念ばかり浮かんで、勉強に身が入らん。


 俺はシャーペンを机に放り出すと、天井を仰いだ。


「カイルのやつ、遂に魔法覚えやがったか。羨ましいぞ。この!」


 魔法か…。地球には魔法なんて無いもんな。


火球(ファイヤーボール)!」


 俺は掌を前に突き出しながら叫んだ。


「はぁ、中二病患者かよ、俺…」


 もちろん何も起こらない。その前に俺は中二じゃなくて中三だからね。


収納開放(ストレージ・オープン)!、なんちゃって…って、あれ!?」


 俺は口をあんぐり開けた間抜け面のまま、たっぷり三分間は固まった。


 目の前に黒い霧のような物が渦巻いていた。渦の向こうの景色が揺らめき、空間が歪んでいるのが分かった。


「魔法だ!」


 俺は両手を振り上げ、心の底から叫んだ。


「魔法だ!、魔法だ!、魔法だ!。魔法だ!!」


 ベッドに飛び乗り、両拳でベッドを交互に叩いた。


「魔法だぞ。マジかよ。俺も魔法使えるんだ…」


 そのままベッドに寝っ転がり、天井を見ながら呟いた。

 正確には、カイルが使える魔法は俺も使えると云うことだろう。

 興奮し過ぎて胸が苦しくなって来た。心臓の鼓動が、ドッドッドッと凄いとこになってる。


「お兄い、どうしたの。うるさいよ」


 部屋のドアの前から妹のななかの声が聞こえた。部屋が隣だから、今の騒ぎを聞かれてしまったか?


収納閉鎖(ストレージ・クローズ)


 黒い渦がすっと小さくなり消えた。


「いや、何でもない。ちょっと思い付いたことがあって、声が大きくなってしまっただけだ。済まなかった」


 ドアを開けると妹のななかが頬を膨らませて立っていた。厚手のクリーム色のスカートにピンク色の上着。プラスチックの丸い髪留めで髪をまとめているのがちょっと子供っぽく見える。


「またなの? 中二病なわけ? ホント信じらんない」


 小さい頃はあんなに可愛かったのに、小五になったとたんこんなに生意気になってしまって…。お兄は悲しい!!


「と云うわけだからご免な」


 ななかの目の前でドアをパタンと閉める。


「ちょっと、お兄い!、お兄いったら!!」


 妹の抗議の声を無視して、内鍵をしっかり掛けた。お兄は宇宙の神秘の探求に忙しいのだよ。生意気な妹にかかずらっているわけにはいかないのだ。


 机に座り直し、再度呪文を唱える。


収納開放(ストレージ・オープン)


 再び黒い霧が渦巻きだした。


 やった! あれは夢じゃなかったんだ!!

 そして、もしかすると…。


放出(ポップ)


 コトリと軽い音を立てて、陶製の小瓶が机の上に出現した。コルクでない、木の栓で蓋がしてある小瓶だ。


「やった! 『収納』からちゃんと取り出しも出来るぞ。これが回復薬(ポーション)か…」


 おれは小瓶を手に取ると、感慨深げに眺め回した。


 『収納』を仲介すれば、カイルのいる世界と物のやり取りが出来るのだ。これは凄いことだぞ! 異世界との交易だ。『異世界』とだぞ!! この魔法を使えば、日本の資源・エネルギー問題が、一気に解決してしまうかもしれない。俺は世界の運命が変わる歴史的瞬間に立ち会っているのかもしれなかった。


「そう、『異世界』だ。『異世界』なんだよ!…って、アレ? ちょっと待てよ」


 『異世界』ってことは、『地球』とは一度も接触がないんだよな…。


 俺の脳裏に怖ろしい光景が浮かんだ。近年世界中を不安に陥れた、『エボラ出血熱』のニュース映像だ。

ななかは妹ですので、ヒロインの一人ではありません。(笑)

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