第39話 回復薬が値上がりするって!?
俺は薬師ギルドの前に来ていた。薬師ギルドは煉瓦造り二階建ての建物で、冒険者ギルドより新しそうに見えた。一階が売店になっているんで、事務所は二階にあるんだろう。
「すみませ~ん。回復薬ありますか」
中に入ると、木製の棚に見覚えがある陶器の小瓶がぎっしりと並んでいた。解毒薬に解麻痺薬。精力剤に酔い醒ましの薬まである。
「有った。有った」
俺は回復薬の棚を見付けると、一本選んでレジまで持って行った。レジって云っても、レジスターなんて無いんだけどね。
店番は白髪交じりの中年の女性だった。身体をすっぽり隠すような、濃紺のロープを着ていた。そう云えば、隣村の薬師の婆さんも同じようなロープを着ていたな。
「これ、お願いします」
俺は店番のおばちゃんへ回復薬を渡した。
「おや、見かけない顔だねぇ。冒険者かい?」
「はい、俺はカイルって云います。先程冒険者登録したばかりで、これから初めてダンジョンに潜るつもりなんですよ」
「そうかい。あたしは薬師のベルタだよ。ダンジョンじゃ何があるか分からないからね。治療院の方が安いからって、それを当てにしていると、足をケガして動けなくなることもあるからね。冒険者に回復薬は必須だよ。小金貨1枚ね」
俺は小金貨1枚をポケットから出しベルタさんに差し出した。回復薬の代金とダンジョンの入場料は予め巾着袋から出しておいたんだ。背嚢は今『収納』の中だからね。
ベルタさんは回復薬をレジ袋に入れると、俺に手渡してくれた。
もちろん嘘だ。この世界にはレジ袋はおろか紙袋さえ存在しない。瓶のまま手渡してくれただけだ。
「もぉ~、どーすんのよ。このまま行くと回復薬の生産が減って、値上げせざるを得なくなるわよ」
二階へ上がる階段の方から、えらく怒った若い女性の声が聞こえて来た。
「そうは云ってもですなー、グリーンスライムの数自体が減ってますし、採集する下級冒険者の数も減っています。その上癒し草の生息地が上層から中層へ移ってますから、これはもうダンジョンの老化による上層部の魔素の低下のせいとしか…」
今度は中年男性の弁解する声が聞こえて来た。
何なんだ?
「そんなことは分かってるのよ。その上でどう対策するのか聞いてるのよ。あんた分かってるの? 回復薬は薬師ギルドの収益の柱なのよ!」
階段を降りて来たのは、俺と同じぐらいの歳の美少女だった。
真っ赤な燃えるような髪にアクアマリンの瞳。生意気そうな鼻に可愛らしい唇をしている。背丈は普通だったが、真黒い魔術師のロープを着ているので、体型は分からない。頭にはオヤクソクな魔女のとんがり帽子を被っていた。
「ですから手を打つことも出来ないような、八方塞がりな状況なんですわ。何かしろって云われたら、ミンデン支部から早馬で取り寄せるくらいしか手が無いですよ」
続いてバーコード頭の小男が降りて来た。身なりは大そう立派なものを着ているんだが、鼻の下のちょび髭とバーコード頭がそれを台無しにしている。俺の世界にもいたんだな…バーコード頭。
「消費期限2日の回復薬なんて売れる分けないでしょ。ミンデンからマイダスまでどれだけかかると思ってるのよ! 回復薬の消費期限を延ばす方法でも有るっ云うの!?」
美少女、激おこだ。薬師ギルドの扉を蹴破るようにして出て行く。
「あっ、お待ちください、ヒルダ様! ヒルデガルド様!!」
バーコード男が、慌てて追いかけて行った。
「何なんです?、あれ!?」
あっけに取られた俺は、店番のベルタさんに訊ねた。
「上部団体の錬金術ギルドから派遣されて来た理事のヒルデガルド様さ。男の方はうちのギルドマスターのロペルトだね」
ベルタさんが苦笑いしながら答えてくれた。
「理事って、あの娘、俺と同い年ぐらいに見えましたよ」
「そうなんだよ。ヒルダ様はこの国始まって以来の天才で、最年少の錬金術師なんだよ。なんでも中級回復薬の効能を上級回復薬に迫るまで引き上げる方法を発見したとかで、一時期、薬師の間で話題になったもんだよ。多少天狗になるのも、仕方ないかねぇ」
「上級回復薬って、竜の血とか世界樹の葉とか必要なやつですよね。失った手足が生えてきたりとか、20歳ぐらい年齢が若返ったりするとか聞きましたよ」
さすがの俺も驚くほかない。
「レシピは伝わってるけど、竜の血なんて手に入らないからねぇ。本当なのかどうかは分からないよ。何処かの国の王様が、若返ろうとして上級回復薬を求めて国が滅んだって話が伝わってるぐらいさ」
ベルタさんはうろんげだ。
「それにしても、回復薬の値段が上がるって本当なんですか? 俺たち冒険者は困ってしまいますよ」
「そうさねぇ。今のままでは、そうなるだろうね」
ベルタさんが難しい顔で云った。
天才美少女錬金術師ヒルデガルド様、降臨!?
明日から一日一回12:00投稿のペースに戻します。




