第38話 魔法を覚えた!
読者様からお二人目の評価を頂きました。本当にありがとうございました。励みになります。
アルマさんに教えられた通りギルドの裏庭に回ると、大きな井戸があった。冒険者ギルドの職員はもちろん、冒険者も使える共用井戸だそうで、今も数人の冒険者たちが武具の手入れをしていた。井戸自体は何処にでもあるもので、珍しいところはない。
「失礼します」
俺は先輩冒険者たちに軽く挨拶すると、井戸へ釣瓶を落とした。直ぐに引き上げるが、水が入った釣瓶桶は結構重い。滑車があったら便利だろうなと思うんだけど、あれもオーバーテクノロジーに入るんだろうか? 腕力自慢の冒険者には不要だろうけどね。
ギルドの軒下に重ねて置いてあった木桶へ汲んだ水を移す。柄杓で井戸水を掬って飲む。
「うん、美味い!」
って、水を飲みに来たんじゃなかった。(汗)
ポケットから『収納の魔晶石』を取り出しす。改めて見ると、透明で虹が走る宝石のような魔晶石は美しい。俺の周りに何時の間にか先輩の冒険者たちが集まって来た。
「おいボウズ、それ魔晶石か?」
30歳ぐらいの髭面の冒険者が声を掛けて来る。
「ええ、Lv.1の最下級のやつですけどね。これから初めて魔法を覚えるんです」
「最下級でも羨ましいよ。俺も昔『火の魔晶石』を見付けたことがあったけど、生活のために売っちまったんだ。あん時魔法を覚えていれば、今頃稼ぎまくってるのにな」
別の冒険者が悔しそうに云った。
それから冒険者たちの魔法談義が始まった。
俺はそれを聞き流しながら、地べたへ直接座ると、井戸水で魔晶石を丹念に洗った。そのまま口に含み、柄杓の水で一気に飲み下す。つるんとした感触の硬い物が喉を通っていった。
「ん、何も起こらないな…。直ぐにどうこうなる分けないか」
やがて冒険者たちが散って行く。
俺は背嚢から砥石を取り出すと、木桶の水を掛け、短剣を研ぎ始めた。
兄貴のお下がりだけど、かなり鈍らになってんだな。
まず目の粗い砥石で砥いでから、目の細かい砥石で仕上げて行く。これでスライム戦の時のようなことはないはずだ。
急に胃の辺りが熱くなって来た。ポーションを飲んだ時と同じような感じだ。同時に頭痛がして来る。風邪を引いた時のように、頭がふわふわくらくらする。
「身体の中に何か感じる。何かが流れているような…」
これが魔力なのか。
魔力は人間なら誰でも持っているそうだ。しかし生まれ付き魔法が使えるやつはいない。魔力量の個人による多寡もほとんどない。
俺の両親は二人とも魔法が使えるが、兄貴も俺も魔法は使えない。魔力は遺伝しない。魔法を覚えるには『魔晶石』を使うしか方法がないのだ。もし世界からダンジョンがなくなったら、魔法を使える者は誰もいなくなるだろう。
「収納開放!」
アルマさんが云っていた、本能的に分かるってこう云うことか。
俺の身体らから魔力が流れ出し、目の前の空間で渦を巻いた。何故か空間が歪んでいるのが理解出来た。
「収容」
背嚢に右手で触れ呪文を唱えると、渦が移動して背嚢がすっと吸い込まれた。
「収容、収容」
目の粗い砥石が、次いで目の細かい砥石が吸い込まれる。
「ハハハ。やった! これで今日から俺も魔法使いだ!」
自然と笑みがこぼれて来た。攻撃魔法じゃないけど、収納の魔法があればダンジョンからより多くの魔獣素材を持って帰ることが出来る。他の冒険者より有利に立てるのだ。
「それで収納から物を出すには、放出、放出、放出」
目の細かい砥石が渦から放出される。次いで、目の粗い砥石、見慣れた俺の背嚢が出て来る。
「入れた順番とは逆順に出て来るんだな…」
これはかなり使い勝手が悪い。中に何が収納されているかも忘れてしまいそうだ。
アルマさんによると、レベルアップするとこの辺りを改善する選択肢が選べるそうだが、容量を取るか使い勝手を取るか、なかり悩ましいことになりそうだ。
俺は二つの砥石を背嚢にしまうと、再び『収納』へ放り込んだ。
「収納閉鎖」を唱えると、渦が小さくなり消えた。
「何だか、ちょっと疲れたな」
これが魔力を使うと云うことなんだろう。魔力切れを起こすと命に係わることもあるそうだから、十分気を付けなければいけない。
「さてと、どうするか…」
俺は短剣を腰の鞘に刺すと立ち上がった。
現在は昼を少し過ぎたぐらいの時刻だ。ダンジョンへ入るにはちょっと遅い時間帯だが、今日の内に少しでもダンジョンを見ておきたかった。
「その前にあれを買わないとな」
ようやく魔法を覚えたカイル。でも攻撃魔法じゃないから、戦闘シーンが盛り上がりませんよね~。




