第37話 マイダス支部の裏事情
「それで…その…、魔法を覚えるには、魔晶石を呑み込むとか聞きましたが、本当なんでしょうか?」
俺がそう訪ねると、アルマさんは嫌なことを思い出したような渋い顔をした。
「本当です。わたしもギルドマスターから強制されて、30年間退職出来ないことを条件に、無理矢理『鑑定の魔晶石』を呑まされたんですよね。…ああ、なんであんな話受けちゃったんだろ」
えっ!?、無理矢理ってそんなことあるのか?
「そりゃまたなんで?」
「3年前にギーゼキング伯爵領で新しいダンジョンが発見されたでしょう? あそこのギルド支部に、前任の鑑定士が引き抜かれちゃったのよ。受付も何人か引き抜かれて、まあそっちは急遽新人入れてなんとかしたんだけど、鑑定士はどにうにもならないでしょ。それでただの受付職員に過ぎなかったわたしが、ギルドマスター命令で支部保有の『鑑定の魔晶石』を呑まされることになったのよ」
何とさっきの受付嬢が不慣れな様子で態度が悪かったのは、そんな事情があったのか。まあ、事情があったからって云って、二度とあの娘の前には並ばないけどね。
「思い出したらだんだん腹が立って来た。クッソー! あのグータラ・ババア、いつかギャフンと云わせてやるんだから!!」
あの、アルマさん。目が怖いんですけど…。
「あっ、ご免ご免。魔晶石の話だったわね。わたしの体験からすると、呑んで30分から1時間くらいで身体に吸収されて魔法が使えるようになりました。後は出来るだけ魔法を使って、レベルアップさせて行くの」
「あのー、魔晶石を呑んだとして、魔法の具体的な使い方とかは、どうやって覚えるんですか?」
「基本的なところは、本能的に使えるようになりますよ。でもそれじゃ分からない細かいノウハウもあるから、試行錯誤するしかないですね。同じ魔法使いの先輩に訊くって云う手もあるけど、基本そう云うのは個々人の財産ですからね。只では教えて貰えない。後は専門の魔道書を調べるか…」
魔道書だって!? そんなものがあるのか。少なくともアルムス村にはなかった。
「魔道書なんか高くて手が出ませんよ」
この世界の本は全部手書き筆写の一品物だから、非常に高価だ。俺にそんな高価なものが手に入れられるとは思えない。
「そうねー、それなら南西地区の図書館に行ってみると良いわ。入館料が小銀貨3枚だったかしら。ベルマッセン辺境伯様が、ダンジョンで得た莫大な金にあかせて作ったらしいのよね」
げっ、ダンジョンってそんなに儲かるのか。大貴族が人を殺してでも奪おうとするのが、分かる気がする。
「鑑定どうもありがとうございました」
俺は鑑定料の大銀貨3を差し出して席を立った。
他にも外国だか古銭だか良く分からない金貨・銀貨があるんだけど、一件当たり大銀貨3枚の鑑定料じゃとても見て貰う分けにはいかない。
「あっそうだ…」
帰りがけにふと思い出した。
「冒険者ギルド直営の宿があるって聞いたんですけど、何処にあるんですか?」
「ああ、あそこね。でもあそこは一時滞在者向けの宿泊施設だから、ダンジョンへ長期に挑むつもりなら、ギルド直営のワンルームの方が使い勝手が良いですね。確か週大銀貨7枚ぐらいだったはず。北東地区にあるから、管理人にギルドカードを見せれば貸してくれるわよ」
「ありがとうございます。助かりました。ダンジョンの情報もこれぐらい簡単に教えてくれたら助かるんですがね」
俺が残念そうに呟くと、アルマさんが怪訝な顔をした。
「いえね、さっき受付のローゼって娘に訊ねたら、『冒険者じゃないから分からない!』ってキレられたんですよ。ハハハ…」
「もう、あの娘ったら…。ご免なさいね。今度〆とくから許してね。マイダス・ダンジョンの特徴は…」
その後アルマさんが、マイダス・ダンジョンの特徴について一通り解説してくれた。
ダンジョンがベルマッセン辺境伯の管轄で大銀貨3枚の入場料が掛かること。1層から5層には罠がないこと。1層に出没する魔獣が、グリーンスライム、ジャイアントピルバグ、ジャイアントラット、吸血蝙蝠であること等々、正直めちゃくちゃ助かった。神様、仏様、アルマ様だよ、まったく。
さて、いよいよ初めての魔法を覚えるぞ!
アルマさんは受付嬢を5年間やっていたので、ダンジョンのことについても結構詳しいのでした。先輩に〆られることになったローゼの運命やいかに!?




