第3話 忍者のように忍びよれ
俺は難っくきサルを見付けると、直ぐに林の中に引っ込んだ。
向こうからは暗い林の中が見えないはずだ。
俺はしばし考え込み、作戦を立てた。
サルは大木を背に毛繕いをしている。俺の背嚢をベンチ代わりに尻に敷いてやがる。
たぶん俺には気付いていない。
木の裏側からそっと近付けば、死角から不意打ち出来るかもしれない。
俺は手にした短剣に目を落とした。
使いこまれて細かい傷が無数にあり、鈍色に光っている。もともと兄貴が使っていたもので、出立する俺に餞別としてくれたものだ。
素手で掴みかかるなんて、まったく俺もどうかしていたもんだ。
魔獣でないとは云え、相手は野生の猿。下手をすれば、指の二三本食い千切られていたかもしれなかった。
木を盾に忍び寄り、背後から短剣でプスリと殺る!
一撃では死なないかもしれないが、致命傷になるだろう。後は奴が弱るのを待って、嬲り殺しだ。
(完璧だね!!)
俺はほくそ笑むと、林の中を大木の裏側へ回り込んだ。
もたもたしていると、サルが毛繕いを終え、何処かへ行ってしまう。気付かれないよう、しかし素早く移動するのだ。
ブーツが落ち葉を踏みしめるカサリカサリと云う音が気になるが、サルの位置までは距離がある。
風で葉っぱが擦れる音、鳥の鳴き声、何だか分からない獣のうめき声。森は意外と騒音に満ちている。きっと気付かれないに違いない。
ようやく大木の真裏に辿りついた。
移動中サルから目を離さないようにしていたが、木に隠れてからは流石に分からない。左右に逃げれば見えるので、多分今もあの位置にいるだろう。
唯一可能性があるとすれば、大木に隠れるようにして脱出する方法がある。だが俺が追い掛けて来る方向に戻ることになるので、可能性は薄いだろう。
俺は意を決して空地へ足を踏み出した。
大木が忌避物質を出しているのだろう。羊歯や笹などの丈の高い下草がなく、短いイネ科らしき雑草が生えているだけだ。
風で吹き飛ばされてしまうらしく、落ち葉もほとんど落ちていない。足音もしない。
幸いなことに陽は正面にあり、影で俺の位置がバレることもない。
俺は極力気配を絶ち、抜き足差し足で大木へ近付いた。まるで忍者のように。
アルムス村では気配絶ちなど、子供は息を吸うように全員出来きた。
俺たちの世界には『地球』のように豊富なおもちゃはない。テレビゲームなんてもちろん存在しない。
村の子供たちの数少ない遊びが、野生のハトやウサギを捕まえることだった。背後からそっと忍びより、生きたまま素手で捕まえる。夕飯のおかずゲットだぜぃ! 趣味と実益を兼ね備えた娯楽なのだ。
やがて大木の根元に辿り着いた。この真後ろにサルがいるはずだ。
雪辱の時まであとわずか。逸るな、俺。
(3・2・1…いけ!)
俺は心の中でタイミングを計ると、短剣を逆手に持ち、奴に向け跳びかかった。