第35話 冒険者になった!
冒険者ギルドは石造り二階建ての大きな建物だ。建てられてから100年以上経っていて、一種風格のような雰囲気が感じられた。壁が所々苔むし、蔦植物が壁を覆っていた。
出入り口の扉は開放されている。外からでも中の様子をうかがい知ることが出来たが、ゲルハルトさんの忠告に従って時間帯をずらしたんで、比較的空いているようだ。
「あー、いかん。胸がドキドキしてきた」
ここから俺の冒険者としての一歩が始まるのだと思うと、なかなか足を踏み出せなかった。
「えーい、ままよ」
俺は一度深呼吸をすると、建物の中へ入った。
中は割と広々としていた。受付カウンターがあり、数人の受付嬢が冒険者の対応をしていた。右手壁は依頼書のコーナーになっていた。小さな紙片が無数に壁に貼られており、それを剥がして受付へ持って行くシステムなのだろう。話に聞いたような、酒場が併設されたタイプのギルドではないようだ。
俺は一ヶ所だけ空いていた受付へ、何も考えずに進んでしまった。後で後悔することになるんだが、初めてなんだからしょうがないよね。
「あの、冒険者登録をお願いしたいんですけど」
俺は受付の女性へ声をかけた。俺とあまり変わらないぐらいの年齢で、眠そうな目をしている。胸のネームプレートには『ローゼ』とあった。くすんだ金髪のショートで、天然のパーマがかかっている。生意気そうな鼻と唇。眉間にはソバカスが目立った。
「身分証明はありますか」
受付嬢さんが、気の無い様子で訊いて来た。
俺は慌てて背嚢から証明書を取り出した。街に入る時にも兵士に怒られたのに、反省しないやつだな、俺って。
「えーと、カイル・ペーターゼンさん。ペーターゼン騎士領アルムス村出身」
ペーターゼン騎士領にはアルムス村一つしかないんだけどね。
「えーと、攻撃魔法はちゅか、使えますか」
あ、噛んだ。大丈夫かこの娘?
「使えません」
「武器は使えますか」
「剣と槍、弓が一通り使えます。徒手格闘も多少出来ます」
事務的なやりとりが続いた。
俺の答えを、受付嬢さんが羊皮紙に記入してゆく。
「えーと、これが冒険者カードになります。冒険者カードは身分証明になりますので、常に携帯してください。紛失した場合の再発行は有料になりますので、注意してください。ここの魔石のところへ血を垂らして」
あー、マニュアルを棒読みしてるよ。ド新人の受付嬢だったか。対応もなってない。冒険者カードと出血用の針をぞんざいに渡して来る。止血用のガーゼとかないのか?
冒険者カードはプラスチックみたいな何だか良く分からない素材で出来ていた。まさかこの世界にプラスチックが有るわけないんで、迷宮素材か何かだろうか。若草色をしていて、中央に薄切りにされた黒い魔石がはめ込まれていた。俺の名前が鉄筆で彫り込まれ、インクが入れられているが、この受付嬢さん、字があまり綺麗じゃないな…。
針で指先を刺すと血がぷくっと出て来る。それをカードの魔石へ擦り付けると、カードが一瞬眩い光を放った。
「カイルさんは攻撃魔法が使えないんでGランクからの登録になります。Gランクは狩猟や薬草の採取ぐらいしか受けられません」
「Fランクに昇格するにはどうしたら良いんですか?」
俺が質問すると、受付嬢さんは慌ててマニュアルをめくりだした。
何かもたもたしているんで、ちょっとイラつく。
「えーと、各依頼にはポイントが付いてまして、ポイント数は依頼によって異なります。昇格には300ポイント必要です。攻撃魔法を覚えれば直ぐにEランクへ昇格出来ましゅ」
あ、また噛んだ。
「俺はダンジョンを中心に活動したいんですが、その場合はポイントが付かないんですか?」
「依頼以外の場合は、魔獣素材を商店に売却した時に討伐証明書を書いてくれますから、ここの受付に提出してください。但し、依頼より獲得ポイントが低くなります」
なるほど、次に来る時は、この娘以外の窓口に行こう。どうりでこの娘の窓口だけ空いてたわけだ。
ここでは魔獣素材のギルドでの買取はやっていないんだな。俺、商人と直接価格交渉する自信ないよ。
「俺、これからダンジョンへ潜ろうと思ってるんですが、一層にはどんな魔獣がいますか?」
俺が訪ねると、受付嬢さんが『えっ』と云った表情をした。
「知りません…」
「知らないって、ここ、冒険者ギルドですよね」
「あたし、冒険者じゃないんで、ダンジョンに入ったことなんか一度もないもん」
受付嬢さんがふてくされた顔で横を向いた。敬語も外れてるよ。駄目だこりゃ…。
「この宝石、多分魔晶石だと思うんですが、何か分かりますか?」
駄目もとで例のお骨から回収した宝石を差し出した。
「あたしに分かるわけないじゃん。奥の『鑑定窓口』行ってよね!」
逆ギレされた。
冒険者ギルドは本来冒険者の互助組織なんですが、時を経た末にお役所みたいになって来ました。農家を顧みない農協みたいんなもんですね。




