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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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第33話 黒が白になる

読者のかたから、初めての文章評価とストーリー評価を頂き、本当に励みになりました。

ありがとうございました。

 そうこうしている内に、ヴェルネリが連行されて来た。受付のところにいた髪の薄い目がギョロっとした男だ。キンモさんとアマドさんに両腕を掴まれ、逃げようともがいているが、肉体労働を生業としている屈強な男たちに、ひ弱な受付男が敵うはずもない。


「騒ぎを聞きつけて、こいつトンズラしようとしてましたぜ」


 キンモさんが苦笑いしながらサムエルさんに報告した。


「放せ、俺は関係ない。そんな男は見た事もない。放せバカ者。この貧民どもめが! こんなことをして唯で済むと思っているのか!?」


 ヴェルネリが汚い言葉で住人たちを罵った。


「黙れ、ヴェルネリ。雇われ管理人のくせにいつも威張りくさりやがって。新入りが入って来てから、3号室から出て行った奴は誰もいねえ。部屋名主の俺が云うんだから間違いねえ。金持ってそうな新入りが何処へ泊まったか外へ報せられるのはてめえしかいねえんだよ!」


「そうだ、俺はヴェルネリに(そそのか)されただけなんだ。つい出来心でやっちまったんだよ。どうか見逃してくれよ~」


 実行犯のテッポが見苦しく命乞いを始める。それを聞いてヴェルネリが怒り始めた。


「テッポ、お前自分だけ助かろうとしやがって! 良いカモがいねえかって、話を持ちかけて来たのはお前じゃねえか!!」


「語るに落ちたな、ヴェルネリ。てめえらがグルだってことは、はなから分かってるんだ。いい加減に観念しやがれ!」


 サムエルさんが一喝するも、二人は罵りあいを止めなかった。結局ヴェルネリも縛り上げられ、二人とも猿轡を噛まされ床へ転がされることになった。


「サムエルの旦那、去年4号室で殺されてたピオももしかしてこいつらが…」


 キンモさんが悲しそうに云うと、猿轡を噛まされたテッポが唸りながら必死に首を横に振り否定した。


「ああ、道で大金入りの財布を拾ったとか、嬉しそうに吹聴してたその日の夜だったよな。同部屋の奴に殺されたんじゃねーかと思ってたが、結局宿泊人の誰からも金は出て来なかった」


「畜生! ビオと俺は同郷で仲が良かったんだ。畜生!、畜生!!」


 キンモさんがテッポとヴェルネリを交互に蹴り付ける。


「ボウズ、マイダスに来た早々災難だったな。危うく殺されて、荷物を奪われるところだったんだぜ」


 サムエルさんが脅すように云った。


「ありがとうございます。助かりました。その二人は、明日役人に突き出すんですか?」


 俺が訪ねると、サムエルさんは物凄い笑みを浮かべた。


「ボウズ、覚えておけ。マイダスのドヤ街にはドヤ街なりの掟があるんだ。役人は当てになんねえ。ボウズ、盗みをした人間がどんな罰を与えられるか知ってるか?」


「確か効き腕を切り落とされるはずです。二度やったら、縛り首だとか」


「このテッポは、何年も前から腕利きのスリとして知られている。ところが役人に捕まった試しがねえ。何故だか分かるか?」


 サムエルさんの問いに俺は首を横に振った。


「役人に分け前を渡して、目こぼしして貰ってんだよ。テッポもヴェルネリも街の役人も、皆グルだ。奴を下手に役人に突き出せば、捕まるのはこっちの方だ。適当な罪をでっち上げられて処刑されてちまう。世の中、偉い奴は黒でも白にしちまうんだよ」


 腐ってる…。役人も貴族も国も、腐ってる。

 俺は幼馴染の三人の顔を思い出していた。


「さてと、行くぞ!」


 サムエルさんが床からテッポを担ぎ上げた。肩と腕の筋肉がムキッと膨らむ。さすが本職の荷役夫だ。手慣れている。テッポが必死になってもがいたがどうにもならない。

 続いてキンモさんとアマドさんが受付の男を脇に抱える。


「その二人をどうするんですか?」


「子供は知らなくて良いことさ。おめえはそこに居な」


「俺、成人過ぎてますから、子供じゃありません。一緒に行きます」


「いいからここに居ろ。子供に大人の汚ねえところを見せたくないんだ」


 サムエルさんが、怖い顔で俺を睨み付けた。髭面でアル中で最底辺の日雇い労働者だけど、この時のサムエルさんは本当に恰好良かった。


 サムエルさんたちと一緒に、十人程の男たちが一緒に出て行った。彼等は一時間ぐらいしてから、手ぶらで帰って来た。俺は夜が白み始めるまで、まんじりとも出来なかった。

実はカイルの真の危機は、この後訪れます。

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