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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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第31話 部屋名主サムエル

「あの、部屋名主のサムエルさんと云うかたはいらっしゃいますか」


 俺がおずおずと尋ねると、壁際右奥、三段ベッドの一番下の男がむくりと身体を起こした。


「サムエルは俺だ。ボウズ、新入りか?」


 大柄だが痩せ気味で、髪はボサボサ、そして髭面。鼻が潰れており、赤ら顔で酒臭い。汚いシャツ一枚に粗末なズボン。特徴的なのは上半身の筋肉が意外と発達していることだ。典型的な壮年の肉体労働者に見えた。


「はい、アルムス村から冒険者になるため出て来たカイルと云います。今晩一晩お世話になります」


「ふうん。駆け出し冒険者か。結構良い身なりしてるじゃねえか」


 サムエルさんは値踏みするように俺を見て来た。他の同部屋の男たちの視線が一斉に俺に集まった。皆、サムエルさんと同じような、痩せぎすだが筋肉質な身体をしていた。


「いえ、マイダスに来る途中で魔獣に襲われてケガしたんで、治療院に行くため一張羅に着替えたんですよ。田舎ではいつも野良着姿でしたから」


 貧しい日雇い労働者からしたら、みすぼらしい俺の衣服さえ金持ちに見えるらしい。トラブルにならなければ良いんだが…。


「ほお、治療院に行けるほど金持ってるやつが、こんな場末の安宿に来るのか?」


 サムエルさんは明らかに俺を不審に思っている。

 俺は警戒感を一段階引き上げた。


「治療費を払ったからすっからかんになったんでじゃないですか。大ケガしたまんまじゃ、冒険者になれませんからね。ここに俺みたいな駆け出しが泊まるのは珍しいんですか?」


「いや、おめえの前にそこへ泊まった奴も田舎から出て来たばかりの冒険者だったさ」


 サムエルさんがおれが寝る予定の場所、『9』の数字が付いた三段ベッドの一番上を指差した。


「確か西の方のドゥーゼ準男爵領の村出身とか云ってたな」


「へえ、冒険者になって、もっと良い宿に移ったんですね」


「いや、何日か前にダンジョンに潜ったきり、帰って来なかったのさ。おめえも無理して深い階層へ潜るんじゃねえぞ…」


 サムエルさんがニヤリと笑った。俺は引きつった笑いしか返せなかった。


「それよりおめえ、アレ持ってねえか、アレ」


 突然妙なことを云いだすサムエルさん。アレっていったい何だ? 俺は首を傾げた。


「は?、アレって何ですか?」


「アレは、アレだよ。ほれ、大人の元気の元だよ。呑むとカー!!って来る奴だ」


「はぁ、酒ですか…。さすがに成人になったばかりなんで、酒なんて呑んだことありませんよ。村でも大人が酒が呑めるのは、祭りの時だけでしたし」


 俺は呆れて首を横に振った。妙に赤ら顔だとおもったら、アル中かよ、この親父。


「なんでぇ、気の利かねえ奴だな。前の駆け出しは手土産に麦酒持って来てくれたぞ。おい、おめえら、一人ずつ自己紹介しろ」


 それっきり、サムエルさんは興味を失ったように、ぷいと寝床へ寝っ転がった。


「俺はキンモだ」

「俺はアマドだ」

「俺は…」


 次々と同部屋の男たちが名前を云って来るが、皆、成同じ様な髭面で、同じ様な体格の者たちばかりなので、正直区別が付かなかった。


 俺はぐったりして自分の寝台へ梯子を上った。

 ベッドは剥き出しの簀板で、寝ると背中が痛くなりそうだった。背嚢から毛布を出して広げる。


 既に陽が傾きかけており、部屋の中は薄暗かった。俺の世界に透明なガラスなど無く、唯一の窓は撥ね戸が付いた唯の開口である。季節は春とは云え、冷たい外気が侵入しつつあった。


 妙な胸騒ぎがした。俺の危険センサーが、ビンビン反応している。唯の杞憂なら良いんだが。


(はあ、このまま眠り込んで大丈夫なんだろうか? ちょっと保険をかけておくか…)


 俺はガサガサと、背嚢の底を漁った。

何処にでもいるアル中おやじ。会社帰りに道で目が据わったアル中に絡まれた時はちょっとヒビった。

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