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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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第30話 ホテル・リバーサイド

「治療代が大銀貨6枚になります。冒険者登録すると割引がありますから、早めに済ませてくださいね」


 リリアさんがにっこり笑って治療費を請求して来た。確かにポーション一本より安いんだけど、その前にマリーさんから購入した痛み止めや運賃のことを考えると大赤字だ。

 俺は泣く泣く巾着から小金貨1枚を渡した。お釣りの大銀貨4枚が帰って来る。


「これからだと、冒険者たちがダンジョンから帰って来る時間帯だな。少年、かなり混雑するだろうから、冒険者登録は明日の午前中にした方が良いだろう。朝開始直後も混むから、その時間帯も外した方が良いな。今夜泊まる場所は決めているのか?」


 ゲルハルトさんが律義に忠告してくれた。見た目ヤ○ザそのものの怖ろしいおっさんだが、後輩への面倒見は良いようだ。


「いえ、これから探しますけど…」


 本当に何も考えてなかったので、俺は首を横に振った。


「おい、ガキ。お前、金持ってんのかよ」


 ドロテオがニヤニヤ笑いながら意地悪く訊いて来た。


「うっ…、そんなには…」


 直視したくない現実だった。


「おい、サントス。マイダスで一番安い宿はどこだ?」


 ドロテオが仲間に訊ねた。


「ホテル・リバーサイドでさぁ」


 小太りの槍使いがサントスと云う名前らしい。ドロテオと同じようなニヤニヤ笑いを浮かべながら答えた。それにしても、ホテル・リバーサイドって、ユータの世界じゃまんまその手のホテルによくある名前じゃねーか。


「おいっ! リバーサイドって」


 ゲルハルトさんが顔色を変えて止めようとした。


「一番安いのがあそこなのは間違いないでしょう。どのみちこのガキは冒険者ギルド直営の宿にはまだ泊まれねーんだ。嫌なら別の宿を探せば良い。自己責任ってやつでさ」


 ドロテオが澄まし顔で反論する。


「ホテル・リバーサイドは西地区の川沿いだ。ガキ…いや、カイルだっけか? せいぜい死なねーように冒険者稼業頑張れよ」


 ドロテオは最後の最後でようやく俺の名前を覚えてくれたようだ。尤も、俺もその場にいる人の半分の名前も知らないんだが…。


 治療院を出ると目の前は中央市場だ。マリーさんの露店がどの辺か分からなかったが、どのみち今日は営業しないと云っていたな。


 途中の屋台で軽食を買って食べた。小銀貨3枚と銅貨2枚。葉野菜と薄切り肉にタレをかけて丸パンで挟んだものだが、ロスマイセン王国版のハンバーガーと云ったところだうか。いやサンドイッチか。はっきり云って値段の割に結構しょぼい。


 ホテル・リバーサイドは割合あっさり見つかった。


「何がホテルだよ。木賃宿じゃないか…」


 おれはその建物のボロさに閉口した。木造平屋建てで、建てられてから少なくとも50年は経っているだろう。木肌は朽ちかけてボロボロであり、無残に黒ずんでいた。方々にゴルフボール大の穴が開いており、粗末な板切れで補修がしてあった。


「あの、初めてなんですけど、一晩泊まりたいんですが…」


 俺はフロント…と云うよりただの受付だな…に座る男へおずおずと声をかけた。痩せて目がギョロリとした初老の男で、頭髪が随分淋しくなっている。


 男は俺を観察するように、ジロジロと無遠慮な視線を向けて来た。


「先払いで一晩小銀貨5枚だ。共同便所(トイレ)は、ほれそこだ」


 男は俺の背後を指差した。うす汚れたドアから強烈な臭気が漏れていた。


「メシはねえ。毛布なんかの寝具は持ち込みだ。裏庭に供用の井戸があるから、汚さんように使いな。朝からは夜勤の連中が泊まりに来るから、それまでに出て行ってくれ」


 男がどうするんだ?…っ表情で、俺の方を見て来た。


「それでお願いします」


 俺は背嚢から巾着袋を取り出した。小銀貨が一枚も無かったので、大銀貨を一枚渡す。

 男はニセ金でも調べるように銀貨をためつすがめつした後、小銀貨5枚を返して来た。

 一緒に『3-9』と書かれた木札を渡して来る。


「お前の寝床は3号室の9番だ。壁際の一番上だよ。ベッドに番号が書いてあるから直ぐ分かるはずだ。3号室の部屋名主はサムエルだな。ちゃんと挨拶しろよ」


 部屋名主って何だよ? 牢名主の木賃宿版か!?


 俺が入り口でまごまごしていると、受付の男が早く行けとばかりに顎をしゃくった。どうやら部屋まで案内してくれるつもりはないらしい。


 宿の廊下はうぐいす張りで、歩くとキイキイ鳴き声を立てた。本当はうぐいす張りなんて洒落たもんじゃないんだが、そうとでも思わないとやってられない…。


 俺は『3』と書かれた大部屋の入り口から中を覗き込んだ。部屋に扉はなく、開けっ広げだった。


 中からむわっとした湿気と汗のきつい臭いが襲って来た。俺は早速この宿に泊まることにしたことを、後悔し始めていた。

カイルが怪しげな安宿へ泊まることになりました。

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