第28話 漆黒の覇者ドロテオ
ゲルハルトさんが俺の二本目の肋骨へ治癒魔法を当てている時、冒険者の一団がガヤガヤと治療院に入って来た。30代ぐらいの男性三人組だ。全員黒い革鎧を着込み、ダンジョンから出て来たばかりのようで、全身血で汚れていた。
「リリアちゅわ~ん、俺っちまたケガしちゃった。見ておくれ♪」
中肉中背の男が軽いノリで叫んだ。目が細く釣り目気味。左腰に鉄剣を吊るしているので剣士だろう。右の二の腕に包帯が巻かれ、血が滲んでいた。
この軽薄な声。本当に冒険者か? なんか俺のイメージと違う。
「ん? 『漆黒の覇者』の連中じゃねーか。どうしたんだ?」
ゲルハルトさんが怪訝そうに三人を見やった。
しかし、パーティー名が『漆黒の覇者』って、中二病かよ!
「げっ!!、肉ダ…じゃなかった、副ギルドマスター。ゲルハルトさんが何でこんなところに?」
「「チィース! ゲルハルトさん」」
残りの二人が『きをつけ』の状態から腰を折り礼をする。体育会系か!?
一人は背が低く痩せ形の髭男。髪を肩まで伸ばしている。背に弓を背負い、左右の両腰に一本づつ短剣を指している。
もう一人は小太りで片手に槍を持っている。左太腿に包帯が巻かれ、びっこをひいていた。
「この少年の骨折治療だよ。骨折はリリアにはまだ荷が重いからな。それよりドロテオ、ポーションを持って行かなかったのか?」
どうやら右腕にケガをしているのがドロテオらしい。ダンジョンに潜る冒険者はポーション所持が普通だってマリーさんが云ってた。『漆黒の覇者』とか云う中二病集団は、ポーションを買えないくらい貧乏なんだろうか。
「いやそれがね、うっかり消費期限を過ぎちまいやしてね。ほら、ここ最近、夏みたいに暑かったじゃないですか」
「ドロテオ、ポーションの有効期限管理もリーダーの役目だぞ。そんなことだから、お前んところはC級から上に上がれんのだ」
溜め息をついたゲルハルトさんの顔は、副ギルドマスターのものだった。彼としても、30過ぎの中堅パーティーが、C級あたりでうろうろしているのに、忸怩たる思いがあるのだろう。
それにしても、ここでもポーションの有効期限の短さが問題なのか。原料がスライムゼリーと癒し草と云う生ものとは云え、小金貨1枚で1週間しか保たないのは短か過ぎる。
容器を煮沸殺菌するだけでも随分違うと思うんだが、この世界には細菌とか腐敗とかの知識が全く無いもんな。そう云えばユータがインターネットで、保存料の作り方を調べていた。俺の世界でも簡単に手に入る材料で作れるんで、ちょっとびっくりした覚えが有る。
「ポーションを1ヵ月持たせるぐらい簡単なのに…」
ケガを直して貰って気が緩んでいたのか、俺はポロリと漏らしてしまった。
「おい、ガキ。今、何て云った」
ドロテオが物凄い形相で食い付いて来た。
「ポーションを長持ちさせる方法を知ってるとか何とか」
小太りの男が補足する。
「嫌だなぁ~、聞き間違いですよ。俺ってば、ポーションも手に入らない田舎から最近出て来たばかりですよ。そんな方法知ってるわけないじゃないですか」
俺は冷や汗を浮かべながら誤魔化した。
「何でえ、しょーもねぇ。本当ならひと儲け出来るのによ」
「少年、本当に知らんのか?」
ゲルハルトさんが、真剣な表情で俺の顔を覗き込んだ。
「本当ですってば」
俺は首を横に振る。
「ふむ。知らなくて幸いだな。もしそんな方法があれば、ポーションが一気に売れなくなる。スライムや薬草を採取して生活している下級冒険者も大きな打撃を受けるだろう。薬師ギルドから暗殺者が送られるな」
ゲルハルトさんがガハハと豪快に笑った。
レシピを売ったら暗殺。保存方法を広めたら暗殺。薬師ギルドって、どんなマフィアだよ!!
でも本当にそうなんだろうか? 俺の村でも、ターデント以外の途中の村でも、ポーションなんて置いてなかった。俺の村のように、魔法治療師がいるなんて例外中の例外のはずだ。
農村では農作業中や狩猟中にケガをするなんて日常茶飯事なのだ。高価なポーションでも、もし数ヶ月保つとしたら大きな潜在需要が見込めるのではないだろうか…。まあ、薬師でも錬金術師でもない俺には関係ない話なんだけどね。
カイルの世界にも中二病患者がいたんですね。




