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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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第27話 副ギルドマスター・ゲルハルト

 リリアさんは5分程で『骨折に詳しい者』とやらを連れて帰って来た。


 その男は身長2メートル。全身筋肉の塊のような人物で、二の腕が俺の胴周りぐらいの太さがあった。首も太く殆ど頭と同じぐらいある。分厚い胸板が衣服からはちきれそうだった。服の上からでも、腹筋が割れているのが見えた。浅黒く日焼けした肌。頭部は剃り上げたスキンヘッドで、眉は太く、左のこめかみに古い傷跡が残っていた。


「あら、わたくしとしたことが。こんなに長居してしまって。お代はいつもと一緒でよろしいかしら。お釣りはいらなくてよ。おほほほほ」


 男の顔を見たとたん、となりのおばさんが引きつった顔で慌てて去って行った。ほっとした表情を浮かべるイケメン治療師。


「君が骨折患者かね。わたしはマイダスの冒険者ギルド副マスター、ゲルハルトだ。現役の頃からケガには縁が深くてね、こう見えても治癒魔法も得意なんだよ。どれ、見せてごらん」


 この人が副ギルドマスターなのか。ギルド幹部は大概引退した実力のある冒険者がなるもんだが、これで『副』マスターなら、『正』はどんなバケモノなんだ!?


「ふむ。右利きだな…。この筋肉の付き方はなかなか。君は剣士かね…」


「あっ、あの…」


「なる程。掌を見せてごらん。槍タコに矢タコ。満遍なく鍛えているな。そして二の腕の筋肉、背筋の付き方も素晴らしい。しかし何と云ってもこの腹筋だな。剣や槍の威力に直結しない筋肉を鍛える者はそういないぞ。感心感心」


 大男が俺の控え目に割れた腹筋を嬉しそうに撫でた。ぞわりと背筋に悪寒が走る。何だこのおっさんは!?


「ゲルハルトさん! 観賞は後にして、ちゃんと治療してください!!」


 見かねたリリアさんが大男に注意した。


「すまんすまん。久々に良い素材を見て、つい興奮してしまった。少年、すまなかったな」


 ゲルハルトさんがしまったと云う表情で、禿げ頭を掻いた。


「それで骨折したのは5日前だと云ったな。間違いないね?」


「はい、間違いありません」


 俺が肯く。


「そうか、どれ…」


「グギャ!」


 突然ゲルハルトさんが俺の折れた腕に力を入れて来た。たまらず悲鳴を上げる俺。


「ふむ。やっぱりだ。既に癒着が始まっている。このままでは骨が正常にくっ付かず、元通りにならないな。だが心配するな、少年よ。わしがちゃんと折り直してやる」


「えっ?、えっ? 折り直すってどう云う…」


「骨折個所を折ってから、正常な位置に着け直すんだ。なに、心配いらん。綺麗にすっぱり折ってやるから、あまり痛くないぞ。ふんぬっ!」


 ゲルハルトさんの上腕二頭筋肉と上腕三頭筋が膨れ上がる。


「あのちょっと待って、待てってば! ンギャーー!!」


 俺の尺骨と橈骨がへし折れる鈍い音がした。

 俺の悲鳴が治療院の中に響き渡る…。


治癒(ヒール)!」


 ゲルハルトさんののグローブのような大きな手から、薄緑色のオーラが湧き出し患部を包み込んだ。同時に折られた骨の周囲が熱くなる。崖から落ちた後、ポーションを飲んだときと同じ感覚だ。


 内出血で黒ずんだ患部がみるみる正常な色に戻って行く。母さんの治癒魔法は優しかったが、ゲルハルトさんの治癒魔法は男性的で力強い。


 治癒魔法って、患者も結構体力奪われるんだな。身体の芯にずんと痺れるような重さを感じる。骨を折られたショックと熱で、俺は息も絶え絶えだ。


「よし、これで終わりだ。よく頑張ったな、少年」


 ゲルハルトさんがニヤリと笑った。


「は、はい。ありがとうございます」


「なに、気にするな。次は肋骨だな」


「えっ!? ちょっと待って、待って…」


 俺の悲鳴が再び治療院に響き渡った。

ゲルハルトさんは心優しきマッチョマンです。

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