第2話 追いかけて、追いかけて
何でサルが俺の大事な背嚢を持っているんだ!?
俺から奪えるわけが無いのだ。
俺がうたた寝していた場所は、アルムス村とダンジョンの街マイダスを結ぶ街道。(直通道路ではない) その傍らに設けられた退避用の広場だ。
アルムスからマイダスまでは馬車でも一週間以上掛かる。
途中に幾つかの村や町があるが、一日では辿り着けない距離の場合は、途中に野営用の避難所が設けられていた。
何台もの馬車が停められる、けっこうな広さがある。
野生動物や魔獣が入って来ると危険なため、行商人たちが金を出し合って、人間以外が入れないように魔法結界が張ってあった。
夏場にやぶ蚊が入って来れないので安全&安眠地帯。本当、アルムス村の自宅にも欲しかったよ、魔法結界。
そうゆう理由で、魔法結界の外からサルが俺の荷物を奪えるはずがないのだった。
にも係わらず、俺の背嚢を背負ったサルが、俺に向かってあかんべえをしながら、お尻ぺんぺんしている。
ムッカッー! ムカつく!!
頭に血が上った俺は、サルに向かって躍りかかった。
サルがひらりと俺のタックルをかわす。
「ケッ」
バカにしたようにサルが嘲笑った。
更に激怒した俺は、再度サルへタックルを噛ます。
ひらり、ひらりと、サルはまるで武術の達人のように俺のタックルをかわし続ける。
俺とのやり取りに飽きたのか、サルは突然背を向けると、街道を挟んで避難所と反対側の藪へ飛び込んだ。俺は躊躇なくヤツの後を追った。
あの時の俺はどうかしていたに違いない。
どんな魔獣が出るか分からない山中へ、身一つで分け入るなど、はっきり云って自殺行為だ。
それぐらい俺は頭に血が上っていたのだ。
人の手のほとんど入っていない原生林とは云え照葉樹林。
広葉樹の隙間から木漏れ日が十分差し込んでいるため、笹や羊歯などの下草が密に生い茂っていた。
サルはそこを野生生物特有の慣れでスイスイと進んで行く。
俺は腰に刺した短剣を山刀代わりに振り回し、小枝や下草を切り払いながら、必死に奴の後を追った。
直ぐに奴の後ろ姿を見失い、草が倒れた移動跡を追い掛ける状態になってしまった。
さすがにもうダメかもしれない。
引き返そうか…。
そう思い諦めかけた時、唐突に視界が開けた。
林の中にぽっかりと、直径20メートルぐらいの草地が広がっていた。
中心には見上げる様な高さの大木が生えていて、根元に例のサルが座っているのが見えた。
腹が立つことに、呑気に毛繕いをしているではないか。