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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第二章 マイダス迷宮編
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第26話 治療師リリア

「初めての方ですね」


 若い治療師のお姉さんが笑顔で迎えてくれた。職業的笑顔であることは分かっているけど、妙齢の女性がほほ笑んでくれるのは男として素直に嬉しい。


 栗色の巻き毛のショートカット。上下は先程も云った通り赤黒い色の上着とスカートである。若い女性に適当と云えない服の色は、日常的に触れる血液の色を目立たなくするためだろう。地球の場合は逆に汚れが目立つように白衣を着るのだから、思想が真逆である。

 ソバカスやシミのない白い肌は、屋内作業が主である職業であることを示している。比較的小柄で整った顔立ち。イヤリングなどの装飾品は一切付けていない。


「はい、ついさっきマイダスに着いたばかりです」


「ギルドカードはお持ちですか? 冒険者の場合は、治療費が割引になります」


 お姉さんが事務的口調で訊ねた。


「いえ、冒険者になるために故郷からマイダスへ出て来たんで、まだ登録してません」


 俺は首を横に振った。


「では一般扱いになりますね。わたしは治療を担当させていただきますリリアと申します。それで、どうされましたか?」


 リリアさんて云うのか。マイダス到着早々、こんな美人に会えるなんて、ラッキーな俺。

 リリアさんの笑顔に、俺の頬が自然に赤くなった。


「あ、はい。俺はカイルと云います。よろしくお願いします。 故郷のアルムスからマイダスへ来る途中で魔獣に襲われました。最初の体当たりで肋骨を痛めまして、二発目はギリギリかわしたんですが脇腹に擦過傷を負いました。その後右手に巻き付かれまして、骨をこうポキリと…」


「あっ~はぁ~ん。そこっ、もうちょっと右。あぁ~ん、そこっ、そこっ!」


 何だが隣がうるさいな。


「それは災難でしたね。まず、上着を脱いで、脇腹を見せてください」


 右手が添え木で固定されているので、俺は苦労して上着を脱いだ。


「脇腹の擦り傷はもう直りかけていますね。これは痛いですか?」


 リリアさんが俺の肋骨を軽く二三度圧迫した。


「い、痛いです。うっ、ぐ…」


「あぁ気持ち良い~。あっ。あっ。うふ~ん」


 だからおばさん、うるさいんだってば!


「肋骨にヒビが入っているみたいですね。次はそちらの右手を見せてください」


 俺が右腕を差し出すと、縛ってあった麻紐を器用に解いて行く。固定用の木切れを外し、最後に膏薬をペリペリと剥がす。何日も貼りっ放しだったんで、膏薬が熱で赤黒く変色している。


「紫色…強烈な圧迫痕、内出血していますね。大蛇か何かに巻き付かれたんですか? 骨折したのは何日前ですか?」


「昨日お庭をお散歩していたら、庭に落ちていたロープが足に絡まって巻き付いてしまったんですのよ。転んで腰を打ってしまって、ひょっとしたら、骨折しいるかも知れませんの」


「そう、昨日…って、違います! 5日前です」


「5日前だともう癒着が始まってるかもしれませんね。ちょっとわたしの手には負えないかもしれません」


 リリアさんが難しい顔をして考え込んだ。


「えっ? えっ!?」


「カイルさん…でしたっけ? こう云う骨折に詳しい者を呼んで来ますから、ちょっと待っていてくださいね」


 そして30代の女性治療師へ声をかける。


「先輩、わたしゲルハルトさん呼んで来ますから、後よろしくお願いします」


 そう云うと、リリアさんは小走りに出て行ってしまった。


 独り取り残される俺…。どうなってるんだ!?

おばさんは無敵です。

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