第17話 疑惑のダンジョン
人物が増えてきましたので、登場人物紹介を先頭へ追加しました。
「そんなバカな話がありますか? ギーゼキング伯爵がヨハンの手柄を横取りして大金を手に入れたのは明らかじゃないですか。 ヨハンたちはまだ何処かに捕まっているかもしれない。国へ訴えるべきでしょう」
ヴィリーが怒りを堪えるように静かに云った。
「俺が伯爵なら、証人を生かしておくような間抜けな真似はしないな。残念だがダミアンたちは今頃冷たい沼の下だろう。それに訴えても、国は俺たちの味方をしてくれんぞ」
ハンスが冷たく云い放った。
「何故です? 証拠だって、ダミアンの手紙がある。証人もイグナーツがいる」
ヴィリーが食い下がった。
「手紙など偽造だと云われればそれまでだ。うちがダンジョンの利権欲しさに横槍を入れたと国に思われかねん。イグナーツを証人に立てるって云ったって、彼はただの行商人にすぎん。一介の行商人と大貴族、どちらの証言が信用されると思う? それに一人旅する行商人など、途中で簡単に消されてしまうぞ。お前はイグナーツを殺したいのか?」
「あの、父さん。ちょっとよろしいでしょうか」
クラウスがおずおずと手を上げた。
「父さんは国が伯爵の味方をすると確信しておられるようですが、根拠はあるんでしょうか」
「根拠ならある。そのそのために俺とアルバンは王都まで行って来たんだ」
「「「王都ですって(だって)!?」」」
皆が驚きの声を上げた。
「ああ、王都で過去のダンジョン発見について調べて来た。ダンジョン発見についての王令が出されてから発見された新しいダンジョンは三つある。今回のヘルガー・ダンジョン。10年前のブラーハ・ダンジョン。29年前のリンデンベルガー・ダンジョンだ。ブラーハ・ダンジョンの発見者が誰か知っている者はいるか?」
ハンスが皆を見回した。
「名前の通り、ブラーハ男爵じゃないですか。何でも元商人だったとか何とか…」
オットーが自信なさげに答えた。
「その通りだ。マレク・ブラーハは元商人だが、ただの商人じゃない。王家や大貴族に出入りする御用商人だった。所謂豪商って奴だ。そのマレクが隊商を率いる旅の途中、道に迷い偶然ダンジョンを発見したことになっている。王都にある王立図書館の『読み売り』に書いてあった。間違いない」
『読み売り』とは新聞と週刊誌の中間の様な形態の読み物で、週一回貴族や商人などの上流階級に届けられる木版画の印刷物だ。王立図書館には、このバックナンバーがストックされているらしい。
「しかしおかしいとは思わんか? 駆け出しの頃ならともかく、大商人の会頭自ら隊商を率いて、しかも街道でもない人里離れた山中で道に迷うなんて。ブラーハ・ダンジョンがある場所は元ラインペック辺境伯領の僻地で、当時は小さな村が二三あっただけだ。ブラーハ商会の商圏でさえなかった」
そこで言葉を切ると、ハンスは再びコップの水で口を湿らせた。
「ブラーハ・ダンジョン発見より三週間前の『読み売り』にこんな記事があった。王都に住むラデクと云う名の行商人の家が夜盗に襲われ、主人、妻、二人の男児が皆殺しになった。ラデクはラインペック辺境伯領から行商から帰ったばかりだったと云う」
「それって、まさか…」
ヴィリーが声を震わせながら云った。
「証拠はない。だが未発見のダンジョンを見付けた行商人が、顔見知りの大店の会頭に相談してもおかしくはない…」
過去回想が続いて盛り上がりに欠けるかもしれませんが、カイルがダンジョンを国に報告しない決心をする動機となる重要な話です。もう少しお付き合いください。




