第16話 湿原に消えた三人
大騒ぎになった。
特にダミアンやテオ、ヨハンの親父たちは怒り狂った。
「ダミアンたちが見付けたダンジョンを、ギーゼキング伯爵とヘルガー騎士団長が横取りしたってことですかい!? 本来ならダミアンは貴族に取り立てられるはずでしょう? いったいどうしたら、こんなことになるんだ!?」
「落ち付け、アルバン。ダミアンの勘違いと云うこともあるかもしれんだろう。例えばヘルガー団長が見付けた後にダンジョンを見付けたつもりになったとか」
激高するダミアンの父親をハンスがたしなめた。
「まずは、手紙を持って来たイグナーツから話を聞こうじゃないか」
まだ村内に滞在していた行商のおじさんが呼びにやられた。
イグナーツおじさんの話によると、ギーゼキング伯爵領の領都ミンデンの街へ入った直ぐのところで、ダミアンたち三人に会ったのだと云う。
湿地帯から帰って来たばかりのようで、皆薄汚れていたそうだ。
三人とも酷く興奮した様子ではしゃいでいた。
イグナーツがこれから街を出立するところだと告げると、手紙を届けるよう頼まれた。ダミアンはその場で短い手紙を書きあげると、イグナーツに託した。手紙の配達を頼まれるのはいつものことだったので、特に不審を感じなかったそうだ。
イグナーツおじさんの話を聞いたハンスは、難しい顔をして考え込んだ。
「イグナーツ、ダミアンから手紙を預かったことは、これから一切しゃべるな。誰かに聞かれても、知らぬ存ぜぬで通すんだ。それから命が惜しかったら、暫くミンデンには近付かない方が良い」
そう云うと、ハンスは数枚の小金貨をイグナーツおじさんに握らせた。
イグナーツおじさんは、蒼くなって小さく頷いた。
「とにかくダミアンたちから直接話を聞くしかないだろう。俺とアルバンとでミンデンへ行って来る。万一俺たちが戻らなかった時は、クラウス、お前がペーターゼン家を継ぐんだ。そしてダミアンたちに関することは全て忘れろ」
「そんな、父さん。何を云ってるんだ!?」
兄貴が不安そうに叫んだ。
「あくまで万一の場合だよ。万一の。なあに、ちゃんと無事に帰って来るさ」
父ハンスとダミアンの父アルバンは、村に数頭しかいない軍馬に跨りギーゼキング伯爵領ミンデンへ旅立って行った。
俺も付いて行きたかったのだが、当時の俺は12歳の子供。不安に苛まれながら待つことしか出来なかった。
親父たちが帰って来たのは、予定の一ヶ月を遥かに超え、二ヶ月目を越えようかと云った頃だった。
俺たちは親父たちの姿を見て驚いた。二人ともげっそりとやつれていたからだ。頬がこけ、目が落ち窪み、隈が出来ていた。
ハンスは到着したその日の内に関係者を集めて報告を行った。兄クラウス、俺、ダミアンの父親アルバン、テオの父親オットー、ヨハンの父親ヴィリーである。
「まずミンデンの冒険者ギルドを訊ねた。ダミアンたち三人は、素材の採取依頼で大湿原へ向かったそうだ。しかし一ヶ月以上たった今も帰還していない」
親父の言葉に場がざわめいた。
「冒険者ギルドでは行方不明扱いになっている。恐らく沼地の魔獣に襲われ命を落としたんだろうって云うのがギルドの見解だ」
親父はコップの水を一口飲み、口を湿らせた。
「次にミンデンの門番に三人の入出記録について問い合わせた。街を出た記録はあるが、戻って来た記録が無いそうだ」
「バカな! それじゃあ行商のイグナーツは誰に会ったって云うんですかい!? 街の中に入ってから手紙を渡されたのに、街に入った記録が無いなんておかしいじゃないですか!」
オットーが怒りの声を上げた。
「つまりはそう云うことだよ。この件には、街の入出記録を改竄出来る権力者が関わってるってことだ」
アルバンが悔しそうに吐き捨てた。
「ダミアン、テオ、ヨハンの三人は、採取依頼中に魔獣に襲われ行方不明になった。これをアルムス村としての公式見解とする。これは領主としての決定である」
親父の言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。




