第15話 カイル回想
「少し休もう…」
疲れ切った俺は、街道の道端、木の陰になったところで仰向けになった。右手首は相変わらず痺れたように痛んだが、どうしようもない。
ズボンは何時の間にか乾いていた。ブーツはズボズボしたまんまだ。気持ち悪い…。
幾ら考えまいとしても、気が付くとあの洞窟のことを考えていた。
洞窟…と云うか、間違いなくあれはダンジョンだよな。本来ならダンジョン発見を、直ちに国へ届け出なければいけないのだが。
だけど俺はそんな気になれなかった。
「ダミアン、テオ、ヨハン…」
懐かしい幼馴染たちの顔を思い出す。
ダミアンは従士の次男坊で俺より四歳年上。リーダーシップに長け、同い歳の農民の息子であるテオとヨハンをいつも子分のように従えていた。これに俺を加えた四人が、アルムス村の悪ガキ四人組だった。
森の中に秘密基地を作り、アクアスライムと戦い、ホーンラビットを狩った。
親の手伝いが無い時、訓練が無い時など、俺たちは日がな一日冒険者ゴッコに明け暮れた。
ダミアンは剣が、テオは槍が、ヨハンは弓が得意な得物だった。年上のダミアンは俺よりはるかに強く、剣では一度も勝てなかった。憧れの兄貴だった。
そんなダミアンたちが、四年前本物の冒険者になるために村を出て行った時、俺は置いて行かれたような気がして悲しかった。
成人を迎えた俺が、こうして冒険者になるべくマイダス・ダンジョンへ旅しているのも、間違いなく彼らの影響だ。
まめなダミアンは、月に一度俺に手紙を書いてくれた。
行商のおっちゃんに託すので、一ケ月遅れになってしまうのが難だったが、俺はダミアンの手紙を毎月心待ちにし、届くと貪るように何度も読んだ。
ダミアンたちはギーゼキング伯爵領を拠点に、素材の採取とゴブリンなどの討伐を中心に活動するつもりとのことだった。
山野を駆け巡る過酷な仕事だが、駆け出しにしては身入りが良いらしい。
ダミアンの手紙には、野営地を魔狼の群れに囲まれ戦ったことや、滅多に見つからない高級素材『月下の瞳』の群落を見付けたことなどが、面白おかしく書かれていた。
俺は冒険者の生活に対して期待に胸を膨らませていった。
しかしそんな俺の思いを、粉々に打ち砕く出来事が起こったんだ。
ダミアンたちが冒険者になって半年後、ギーゼキング伯爵領からビッグニュースが飛び込んで来た。領内の半分を占める大湿原の内部に、新しいダンジョンが発見されたと云うのだ。
発見したのはギーゼキング伯爵の私設騎士団団長ヘルガー。魔獣を警戒するために湿地を警邏していたところ、たまたま入口を発見したのだと云う。
ヘルガー団長は新ダンジョン発見の功により、男爵に叙せられた。発見したのが業務中の騎士団員だったため、ダンジョンはギーゼキング伯爵の所有となった。
国中が、10年ぶりの新ダンジョン発見に湧いた。村でもその話題で持ち切りだった。
そんな時にあの手紙が届いたんだ。
『やったぜ!!、カイル。聞いて驚け! ギーゼキング湿原のど真ん中で、俺たちゃ新しいダンジョンを見付けたんだ! まだ誰も知らない。ギルドの皆にも知らせて無いからな。これから伯爵様に報告に行くところだ。待ってろ、カイル。報奨金が入ったら、お前を従士に取り立ててやるからな。俺たちゃこれからお貴族さまだぜぃ…』
余程興奮していたのだろう、踊るような筆跡で自慢と喜びが入り混じった文章が、長々と書き綴られていた。
俺は困惑した。ダミアンたちがダンジョンを発見しただって? ヘルガー団長が発見したんじゃないのか!? どう云うことだ??
俺は親父のハンスとダミアンたちの父親を呼ぶと、ダミアンから送られて来た手紙を見せたんだ。




