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処女迷宮 -ヴァージン・ダンジョン-  作者: 如月青河
第一章 処女迷宮発見編
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第12話 グリーンスライムとの死闘

 フェイントに対応するにはスライムが身を沈めた時では早過ぎる。実際に動き出してからタイミングを見極め攻撃を回避する必要があった。そのため大きく逃げることは出来ない。必要最低限の動きで敵の攻撃をかわさなければならないのだ。


 グリーンスライムが身を沈める。まだだ…。

 グリーンスライムがソロバンの珠の形になる。まだ動くな…。

 ソロバンの珠が戻り始める。今だ!


 俺は冷静にタイミングを見極めると、左へ一歩ずれた。

 スライムの砲弾が脇腹横を(かす)めて行く。さっきよりずっと近い。結構ギリギリだ。

 更に一歩左へずれる。後ろの鉄扉に跳ね返ったスライムが、俺の膝の横10センチあたりを戻って行く。


 間髪を入れず、俺はスライムのホームポジション目がけ駆け出した。スライムが攻撃を仕掛けた直後。そこが一番(すき)が出来るはずだ。

 スライムが地面にべちゃっと広がり、ソンブレロみたいな形になっている。この体制からの反撃は、多分ない。

 俺は手にした短剣で、ソンブレロの頭の部分を切り付けた。


「!?」


 分厚いゴムタイヤを切り付けたような感触。


 俺の世界にはタイヤなんてないし、ユージだって短剣でタイヤを切り付けた経験なんてない。でもそうとしか表現のしようがない感触で短剣の刃が跳ね返された。

 スライムの体表が刃に沿ってグニュリと凹んだだけで、切れていない。スライムの被膜なんて、薄そうに見えるんだが、俺の短剣が(なまく)らなのか?


 俺は急いで鉄扉の前まで戻った。


 グリーンスライムが体当たりする。

 俺がギリギリでかわし、短剣で切り付ける。

 これを三度繰り返す。

 完全な膠着状態だ。


 グリーンスライムの攻撃が止まった。このままでは埒が明かないと気付いたのだろう。

 その場でポーンポーンとタイミングを計るように上下に跳ね始める。

 往年のカンフー映画スターのあの動きだ。


 ポーン、ポポーンー、ポヨョ~ン。

 弾む度に高さが次第に高くなって行く。スーパーボールが弾む様子を逆再生したみたいだ。遂には天井にまで届く。運動エネルギーを蓄積しているのだ。


 あんなのに当たったらひとたまりも無い…。俺は青くなった。


 ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポ、ポッ!!


 スライムは次第に加速し、天井、床、洞窟の壁面へランダムにぶつかり跳ね返る。生きているピンボール状態だ。こんなの軌道の予測のしようがない。


「あっ、あれ!? 当たんないぞ」


 俺は鉄扉の脇、隅っこの床へ避難した。確かにスピードは凄いし、攻撃の予測も出来ないが、相手も軌道のコントロールが出来ないようだ。


「ふっ。当たらなければ、どうと云うことはないのさ」


 俺はスライムに対してカッコ付けて云い放った。スライムには耳が無いけど…。


 こんなデタラメな攻撃がいつまでも続くわけがない。とうとうピンボール攻撃が停止する時がきた。スライムが力尽きたようにべっちゃっと云った感じで床に広がる。


 チャンスだ!


 あの、薄く広がった状態なら短剣の刃が通るかもしれない。俺はスライムへ向け躍りかかった。だがそれがスライムの仕掛けた罠だったのだ。

 地面にだらしなく広がっていたグリーンスライムが、一瞬にして円錐形に変形する。しかも螺旋型に渦を巻いて。


 スライムの砲弾が、強烈な回転エネルギーを加えて射出される。

 俺は咄嗟に身体を捻り、半身になった。


「ガッ!」


 避け切れず、俺の右脇腹の上着が千切れ飛んだ。皮膚が裂け、血が流れ出る。

 振り返り、見上げると、斜め上の天井にクレーターが出来ていた。中心に槍の穂先のようなグリーンスライムがめり込んでいるのが見えた。砕けた岩屑が、天井からパラパラと落ちてくる。

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