第11話 スライムには目が無いんですけど
俺は腹部を守るように右手に短剣を構えた。
「油断した…」
俺は冒険者稼業を甘く見ていたんだと思う。最弱魔獣でさえこれだけ手強いのだ。引退するまでに半数の冒険者が死ぬか不具になると云う現実を、俺はこの時初めて実感した。冒険者になって魔獣と戦うと云うことは、文字通り死と隣り合わせなのだ。
俺はグリーンスライムをしっかりと観察しながら近付いた。同時に父ハンスとの剣の鍛錬を思い出す。
俺は農村の生まれだけど、農家の息子じゃない。
跡を継げないことは分かっていたが、兄貴に万一のことがあった場合のスペアとして、騎士の戦闘訓練を受けていたのだ。
5歳の時から毎日木剣を振り続けて来た。先を丸めた槍を突き、盾を構えた。
父は鬼のように強く、鍛練の度に叩きのめされた。
『カイル、相手の目を良く見ろ』
父さん、スライムに目なんか無いんですけど…。
『そして相手の動きを予想するんだ』
丸い大福のようになったスライムが、左右にゆっくりと揺れている。右に振れた時には右側を警戒すればよいのか? それとも反対側か?
父さん、スライムの動きが読めません。
スライムが僅かに身を屈めるように沈み込んだ。
俺はヤマ勘で左へ身をかわした。
一瞬前まで俺のいた場所を、グリーンスライムが砲弾のように掠めて行く。
鉄扉にぶち当ったスライムが、ドーンと云う凄まじい音を響かせて跳ね返った。
今度はボールみたいに弾まず、床にべちゃっと広がり急ブレーキをかける。
不定形生物の面目躍如である。スライムに面も目も無いけど…。
スライムは元居た場所と寸分違わぬ場所へ戻った。まるでテニスのホームポジションである。
再び丸まり、ぐいと姿勢を落とす。
今度は右へ体をかわす。
再びスライムが横を掠めて行く。
右へ左へスライムの『ぶちかまし』を連続してかわし続ける俺。
「なんか、掴めて来たかも」
スライムが沈み込む。
左へ体をかわす俺。ところが…
「アレッ?、来ない!?」
一拍遅れて、スライムが突進して来た。
慌てた俺はエビ反りの姿勢に仰け反り、そのまま後方へ倒れ込んだ。
鼻先数センチ上をスライムが通過して行く。
「スライムがフェイントですと!?」
嫌な予感がして、俺はそのまま右へ転がる。
バシン!!
さっきまで俺が倒れていたところへ、後方の鉄扉から跳ね返ったスライムが勢い良くぶつかりバウンドする。スライムのバックアタックだ!
「間違いない。スライムが進化してやがる」
俺と戦闘を始めた僅かな時間で、奴は俺の対応に合わせて、戦い方を変えて来たのだ。
恐るべきスライムである。
俺はあたふたと立ち上がると、バックアタックされないよう、扉付近まで下がった。
奴は鉄扉にぶつかった瞬間、俺の背中に向けて反射角度を調整している。扉に近付き俺との角度が急になれば、調整し切れないはずだ。
俺が下がると同時に、奴もニョロニョロと体液を流動させて間合いを詰めて来る。
戦いが始まってから、俺は相手に対し全然反撃出来ていなかった。一方的にやられてばかりだ。いい加減反撃しないとジリ貧になる。
『カイル、フェイントに引っ掛かるな。逆に視線で相手の防御の意識を誘導するんだ。防御の意識が薄い部分へ攻撃を叩き込め』
父さん、だからスライムには目がなんいだってば!!




