普通の変態偽魔王
「な、なんだ⁉︎えっと、ゲームやっててバグって勇者来て…あぁ訳わからん‼︎」
その場で混乱する俺を、勇者は何故か凄く眉間にしわを寄せ睨むように見ていた。
怒られる様な事は全くしてないが、何故彼女があんな顔をしているのかはすぐに検討はついた。理由はたぶん二つだ。
「魔王…何を企んでる…」
まず一つ、俺の顔だ。俺の顔はあのゲームに出てくる魔王そっくりなんだよ。そんで今の状況でいったらかなりまずい状況。だって相手剣持ってるし殺されかねない‼︎かも自分で強化したからめっちゃ強いし‼︎
それともう一つの理由は…
「それになんなのそのふざけた格好は‼︎」
あぁーやっぱりか。俺の今の姿は彼女の装備よりかなり軽装備だ。胸元に『家畜』の二文字が入ったTシャツにパンツ一丁と、なんとも身軽な装備なのである。
「あぁ〜、えぇーっと。一ついい?」
「何よ。ここまできて今更命乞い?」
一応話はできそうだが、彼女は左手に持った剣に右手を添えたまま離そうとはしなかった。
「俺…魔王じゃないんですけど…」
「…もっとまともな命乞いはできないの?」
やっぱり信じないかぁ。でもただで斬り殺される訳にもいかない。
「いやだからぁ…ってファァァァァァ⁉︎」
俺はいきなり声をあげた。いやこれは俺以外でも男子なら誰でもあげるだろ‼︎だって…服が消えはじめてるんですもの‼︎
「ァア…ッチラ。ファァァァア‼︎」
「さっきからなんなの‼︎命乞いは終わったってこと?ならば…」
気付いてないのか‼︎今スッポンポンだぞ‼︎
「そうじゃなくて下‼︎服だって服‼︎」
「服?鎧がなに…ッ⁉︎」
あ、気付いた。と同時に嫌な予感。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」
彼女の剣は鞘から抜かれる事はなかったものの、そのまま俺の顔面めがけてフルスイングされた。
「ブゲラァ理不尽‼︎」
俺はそのままぶっ飛ばされ、段ボールの山に突っ込み気を失った。そして次に目覚めた時は彼女に膝枕されていた。しかも生だ。
「生膝‼︎じゃないなんで⁉︎てか服‼︎…あれ?着てる」
俺は飛び跳ねて正座をした。彼女が着ていたのは俺が持っていた『嫁命』と書いてあるTシャツだ。
「あの…その…」
「?」
なんだ?そんなもじもじして…もしかしてトイレか⁉︎
「ごめんなさい‼︎」
「へ?」
これは思ってもない言葉が出てきた。俺が気絶してる間になにが。そして彼女はそのまま頭を下げて土下座の体制になった。
「私が勘違いをしていた‼︎君は魔王ではなかった。本当にごめんなさい‼︎」
や…やめろぉぉ‼︎いくら俺が悪くないとはいえ女性に土下座までさせてしまっては俺の男としてのプライドが…
「よ…よせよ‼︎謝るのは裸を見た俺だろ‼︎それになんで俺が魔王じゃないって?」
「そ、それは…魔王にしては魔力を全く感じなかったから。あと…えっと…さっきの私の一撃で倒れる程魔王はその…弱くない…の」
あ、成る程ね。確かに魔族を従える王が裸を見られた女子のフルスイングでやられるなら勇者じゃなくても村人A辺りでいいからな。でもさすがに弱いと断言されると男として凹むなぁ…あ‼︎いや弱いと言ってもそれはもちろん魔王と比べてだから‼︎そんなの当たり前だから‼︎
「そ、そっか‼︎そうだよな‼︎魔王がこんな弱い奴じゃないよな‼︎それは誤解が解けて良かったようん‼︎…それじゃあ俺が魔王じゃないってわかったって事でこっから聞きたかった事なんだけどさ、あんたはどっから来たんだ?」
「そう言えばまだ名前も言っていませんでしたね。私の名前はクランシア。そして私はこことは別の国『アリアスカ』と言う国から魔王を追ってゲートをくぐりここまできました」
「それで飛んできた先に似た顔の俺がいた…ってこと?」
「はい、そうなります」
ふむやっぱりそうか…わかってはいたものの本当に実際にあるものなのか異世界って奴は。
それにゲームとここまで一致しているなんて…いやまて、一致しているってことは…。
「じゃあそのゲートで帰ることができるんじゃ?」
「それが…魔王が作り出したゲートは私がこちらに来た後すぐに消えてしまい、私にはゲートを作る能力はないのです。それにこちらに来たとたん私自身の魔力も残りカス程度しかなくなってしまい、そのため先程魔力で作られた装備や衣服が消えたのかと…」
成る程そうきたか。ゲームの中以外では魔力は出せないのかもな…にしてもこれからどうしようか。
「安心してください。私もこの場所に居座るつもりはありませんから」
俺が困った顔をしていたからなのか彼女はこの部屋から出て行こうとしている。
「ま、待って‼︎居座るつもりはないって…国には帰れないんだろ⁉︎どうするつもりなんだよ‼︎」
「そうですね…とりあえずここを後にしたら寝床をさがします。寝れさえすれば私はどこでも大丈夫ですから」
「いやいやいやいや⁉︎」
ほんといやいやいやいやである。このご時世にこんな美人を外で寝させる⁉︎馬鹿言うな‼︎ここには宿屋なんてないんだぞ?それに悪い大人がこんな綺麗な子に手を出さないわけがない‼︎後今この場から出て行かれたら俺がTシャツ姿の女性を外に追い出したみたいじゃないか‼︎鬼畜か俺は‼︎
「いいから‼︎ここに住んでいいから‼︎だからそんなホームレスみたいな真似すんな‼︎」
「ほーむ?…何か知りませんが本当にいいのですか?」
「いいよ全然いい‼︎むしろ出て行かれた方が困るし。それに実を言うと君のことは最初から知ってたし」
「?、私のことを知っていたとはどう言う事ですか?」
それから俺はクランシアに知っていること全て、ありのままを伝えた。
「…つまり私はその箱の様なものを使ったゲームの世界の物語の勇者、つまり主人公であったと。そして貴方は私を動かしていた…王様役と言ったところでしょうか?」
「信じてもらえないだろうけどだいたいあってるよ」
「いえ信じます。なにせ私がまだ話してもいない事を知っていましたし、それに貴方は嘘をつくような人には見えません」
そんな初対面の俺をそこまで信用するなんて…いい人なんだろうけど悪い奴に騙されたりしないか心配だな?
「そんな、俺は嘘をつくこともありますしそんな大した奴じゃ…」
俺が言い終える前にクランシアは人差し指で俺の口を押さえた。
「えっと…貴方は…」
あぁ、そう言えばまだ名乗ってなかったな。
「真王…佐藤真王。普通の名前だろ?」
「そんな事ないです。それと真王はどうして自分をそんなに落とすような言いかたをするの?よくないよ」
「いやそれは…」
「真王…」
クランシアはそのまま黙って俺の目を見ている…昔から俺はこんな性格だったけど確かに、女の前で言うような事じゃねーわな。かっこ悪い。
「わかった。なんか気つかわせてわるかった」
「うん。…っとついでに言っておくけどそろそろその格好をどうにかして欲しいかな」
「それはお前も一緒だろーが」
クランシアは思い出したと言わんばかりの顔をして服で下着を隠した。なんだろう、そっちのがエロく感じるぞ。
「…っふふ」
最初にクランシア。
「…っぶ」
つられて俺。
「「あっははははは‼︎」」
俺とクランシアは顔を見合わせて二人で大笑いした。そういやこんだけ笑うの久しぶりな気がする。これもこいつのおかげなのかな。
「あぁーお腹いって、なんでこんなに笑えるんだ?」
「私もわからないわ…ふふ」
それから一息ついて時計を見た。
「さて、今日はもうおそい。これからのことはまた明日考えるか」
「そうね。私も今日は少しだけ疲れたわ」
俺はいつも自分が寝ているベッドをクランシアにゆずり自分は客用の布団を敷いて眠ることにした。
こう言うのなんてんだ?レディーファースト?まぁ俺馬鹿だからわかんないけど、この小さな優しさの積み重ねが重要なんだよな、男として。なんて考えながら長い1日を終えた。