6.ヴィオリラ様は『先生』
リーナは妖しい微笑を浮かべながら俺に近づくと…
「ねえ、ソファーのほうに座ってくれないかい?少し、話がしたいんだ。いいかな?」
「話って?立ったままではダメか?」
ちょ、押さないでください。仕方ないな、座るか。おお、柔らかいな。そして、リーナも続くように隣に腰を下ろす。
「それなりのソファーだから座り心地がいいだろう?タケルはボクが見ている間一度も座ろうとしなかったからね、気になっていたよ。」
「ん?そうか、確かにあまり座ってなかったな。でも、気にするようなことではないだろう?」
俺が応えると…
「流石に気になるよ?お茶を飲みながら一息つこうって時にも腰を下ろそうとしなかったからね。」
「あっちに居る時は立ち仕事が主だし、長時間立ちっぱなしには慣れていたさ。」
苦笑い気味に応えた俺に、急に笑みを消したリーナが真面目な顔で…
「タケル。いいのかい?こんなことをボクが言うのはアレかもしれないけど…流れに身を任せ、このまま魔王として担ぎ上げられる。そんな生活で構わないのかい?ボクは…そのことが心配なんだ。タケルはこの世界の人間じゃない。そんなキミに、重責を載せていいものかと…思うんだ。」
「今更だな。だが、その言い方からすると一般人って路線もありなのかね?」
陽気に応えると、リーナは俯き、肩を振るわせ始める。
「わからない。でも、タケルはどこか諦めているような部分があるようなきがするんだ。それが心配で、心配なんだ。気付いているんだろう?あっちの世界では死んだ、と。ボクはね、この国の民ではない。でも、魔族の国の歴史を教えてくれる先生が色々と教えてくれたんだ。勇者のことも…。彼女自身、過去に勇者の友がいて、そして本人から色々と聞いたらしい。」
「…。」
「その勇者が言うには、王ははじめにこういうらしい。お前はもうあの世界では死んでしまったのだと。だが、私たちがその魂を救ってやった。だから、国のために尽力しろと。でもその勇者は断り、旅に出たらしい。そこでであったのが先生でね。意気投合して友達になったんだって。」
王の話、断れたのか?そして、先生はいくつだよ?不老とかかね。
「でも、終わりは突然に来たんだって。先生が住んでいた場所に巨大な魔物が現れて暴れまわったらしいんだ。それを、勇者と協力して倒したんだけど…。そのタイミングを見計らったかのように…勇者の、人間国の軍が攻め込んできたんだ。」
雲行きが怪しくなってきたな。
「軍は、その魔物は先生の所為で現れたと。声高々に宣言して、悪を滅ぼすと言いながら無力な民を、老人や子供も分け隔てなく殺し始めたそうだよ。この国に住まう者達は悪だと言いながら、笑いながら、歓喜しながらっ!奪いながらっ!うっ、ううう…。」
憤りを感じ、悲しみに嗚咽を漏らす。
「人間国の兵達を先生と一緒に必死になって無力化していた勇者だったけどね、急に変わったんだ。無表情になりながら、涙を流しだしてね。庇っていた筈の民に剣を…そう、彼女は王の駒だった。泳がされていたんだ。旅に出たつもりだったのに、結局は鎖に繋がれたままだったんだ。」
…っ。なんだって。
「地獄だよ。勇者に心許していたはずの民達はその勇者に虐殺された。そのまま暴走した勇者は人間国の兵すら皆殺しにしたらしい。残ったのは先生と…勇者、そして屍の山。勇者はね、友に終わらせてほしいと、懇願したんだ。先生に切っ先を向けないように、必死に王からの命令に抗いながら、初めてできた友達に…お願いしたんだ。」
それがどれほどの事だったのかは俺にはわからない。
「先生は泣きながら勇者の首を斬り落としたらしい。そして、その首を抱きかかえながら延々と泣き続けたんだって。涙が枯れる頃には、彼女は勇者殺しの魔王として歴史に名を残すことになっていた。望んでもいないのにね。悪名を背負いながら歴史の表から消え去った。」
「その場所はどうなったんだ?」
「人間国は呪われた土地として流石に侵攻しなかったらしいよ。先生のこともその場に封印されているとか、勇者がその命を賭けて弱体化させることに成功させてその地から出られないようにしたとか、都合のいいようなでっち上げ話が残っている。ボク自身その話を絵本で読んだことがあって、勇者に憧れを抱いていた時があったんだ。その絵本のこともあったからかな、外の世界を知りたくなったのは。商人から聞かされる話は小さな部族暮らしのボクには眩しすぎた。多くの歴史を知ることができるこの国で、歴史の生き証人と出会えた時は驚いたよ。まあ、勇者の真実を知って二三日はまともに食事が取れなくなっちゃったけどね。」
顔を上げると力なく微笑むリーナ。
「その話を俺にするということは、俺にどうしてほしいんだ?」
ぽろぽろと涙が零れ始めた。え、俺なんか不味いこと言った?
「タケル。キミには、何事も無く生きていてほしいと思ったんだ。これは、ボクのワガママでもある。待ち受けているであろうこの国の不幸は、はっきり言ってキミには関係ない世界の出来事だ。強制する隷属魔法もかかっていない自由なタケルが巻き込まれなくてもいい不幸なんだよ?わかるかい?平凡なままでもいいんだよ?ねえ、見て見ぬふりでも良かったんだよ?ボクたちのことなんか…」
俺は目元を真っ赤にするリーナの両肩に手を置くと、その涙に揺れる瞳を見据える。
「それは無理だな。どの道巻き込まれるだろう。なぜなら、前王バグパスも言っていたが…俺だけが呼ばれたとは限らない。他にも勇者が現れる可能性が拭いきれないんだ。それこそ、リーナたちの世界に俺達が迷惑をかけるのと同義だ。見過ごせるわけが無い。」
「それはタケルの所為じゃないじゃないかっ!!!」
リーナは吼える。抑えきれない気持ちと共に…
「ボクはキミのことが好きだ!大好きなんだよ!そう思った、初めて思えた相手に平凡に生きていてほしいということがダメなのかい!?タケル!ボクの気持ちは…んむっ??んんっ!?」
こんな夜中に騒ぐなんて、何てけしからん唇だ。
ふはははっ!奪ってやったぞ!塞いでやったぞ!
てか、こんなに言葉に出して好意を伝えてくるとは思わなかった…。俺の顔も真っ赤だろうな。
「…んっむ。はっぁ…な、ななな…なんてことをっ!ボクは真面目な話をしていたんだよ!これじゃあ…強く言えないじゃないか…バカ。」
「そうは言ってもな、言葉に行動で応えたんだがな、ふぅっ!?」
勢いよく抱きつかれた。頭突きに近かったことだけはここに記す。
なんだかなあ、異世界に来て泣かれてばっかりだ。胸元が温かい。
しがみ付いて顔を上げようとしないリーナの髪を、その背をゆっくりと撫でる。
「リーナだって言ってくれただろう?俺はリーナの勇者様で、魔王様。この勇魔族という種族からして、俺に平凡なのは無縁だろう。なら、やれるだけやってみるさ。国を失うような、住まう場所を失うようなことは決して起こさせやしない。もしも、未然に防げなかったとしてもだな、最小限に済ましてみせる。怪我人が出ればすぐに飛んでいって傷や痛みを消してみせるよ。」
「…。タケルならできちゃうんだろうね。そう思ってしまう、感じてしまうボクがいるのは確かだ。でも、タケルは一人だ。」
呟くリーナに俺は…
「いいや、一人じゃないさ。そして、独りじゃない。傍に居てくれるんだろう?そう言ってくれたのはどこの誰だったかな?」
「なんだい?ボクを口説くつもりかい?」
「なんだよそりゃ、先にその気にさせたのはリーナだろう?俺だって、あの時リーンを抱えてこの部屋に入ってきて、リーナが顔を上げた時からな…魅力を感じていたんだぞ?俺の世界じゃそうそういないような美人さんだからな。」
「っ…へへっ、まさか同じタイミングとはね。ボクも流石にあの時は息が止まったよ。ボクに色恋は無縁だと、訪れないのだと、この歳になって思うことがあったからね。」
いや、まだリーナ20代半ばじゃないか。俺がそう思っていると、顔を上げ至近距離で俺の表情をのぞくリーナ。
「?この世界じゃ特に決まりがあるわけじゃないけど、種族や部族によっては10を越えたあたりで、とか…早い所や、寿命が短いからとか、成長が早いからとか色々な理由で若年結婚は珍しくないんだよ。」
異世界だからとは限らんがな。元いた世界でも早い所は早いし、事実日本も結婚の許される年齢はそれなりに早かったりする。
「ボクの居た部族も15からオッケーみたいな感じでさ、でも男共はプライドばかり高いヤツばかりだったから嫌気がさしてね、15を迎える前には出て行ったのさ。ボクよりも狩の成果が低いのに、女は男が狩ってきた獲物を捌いて調理しとけばいいんだとか、まぐれだとか、調子に乗るなと釘を刺しにきたり酷い有り様だったよ。一人ならまだしも、何人も居たね。」
うわ~なにそのダメ男共。流石にイヤになるよな…そんなやつらばかりの集落なんて、居たくないよそりゃ。
「多くの獲物を獲った時はね皮や羽を加工したりして、旅の行商人に売ったりしてお金を貯めていたんだ。絵本はそんな時に物々交換だったけど手に入れてね。ボクは狭い世界から出る準備をし始めていた。だからね、子供っぽい生活も無ければ、殺伐としていたんだ。」
凄いな、中学生くらいの子供が旅をするために狩して加工して、それを売ってお金貯めてただなんて。
俺なにしてたかなその頃…うん。バカだったな。その頃は両親も居たし、ただ変わり栄えのしない毎日を送っていた気がする。
「この国に来てからは、ダークエルフということもあってね、まずはこの王城に呼ばれたんだよ。ただ安宿探してうろついてただけなのにね。大げさだったよ。ふふっ…」
当時の出来事を思い出したらしく可笑しそうに笑う。
「ヴィオロン陛下と王宮魔法使いバグパス、後は将軍達が集まってる所は流石に居辛かったね。息が詰まりそうだったよ。でも、ボクが部族からのはぐれ者だと知ってもらったらね、今度は陛下が直々にボクの前で頭を下げてきたんだよ。孫娘のことをお願いしたいって。」
そりゃ何でだ?それに、ダークエルフは扱いが違うのかね?
「タケルの疑問は何となくわかるよ。エルフは普通、集落や部族からは離れないんだ、よっぽどな事が無い限り、ね。だから、何かあったのかと慌てられたんだよ。ローブとかで耳や顔隠しておけばよかったかな…。陛下がわざわざ頼んだのはね、その頃のヴィオリーン姫は自室に引き篭もることが多かったし、同年代の友人なんて呼べる子も居なかったんだ。魔王の孫娘という肩書きが常に付きまとっていたからってのもあるけど、無口で会話もあまりしたがらない子だったのも原因かな。」
今ではツンツンしてるが、昔は気難しい子だったんだな。無口って、想像しにくいな…。
「表向きは外部からの家庭教師、中身は一緒に勉強をする姉妹みたいな関係だった。時が経てば、いつの間にやらボクは研究部屋持ちの研究者だよ。いや~この国でのボクの10年、長いようで短かった。石ころと一日中にらめっこするような日もざらにあったからね。」
「ん?なあ、その先生とやらはいつ知り合ったんだい?」
ふと疑問に思った。歴史の先生が出てこないぞ?
「ん?先生はね、満月の夜にしか現れないんだ。だから、今日みたいに月が出てないときはまず会えない。気難しいおかただよ。すぐに拗ねちゃうから…。それでも、綺麗な満月の日の夜に屋上の塔の側で何度か話をしているうちに歴史を教えてくれたんだ。ボクが絵本の話をしたときはすごい形相をされたけど、結局それがあったから勇者の話を聞けてね…。」
寂しい表情をする。部族を飛び出すきっかけにもなった勇者の物語は、人間国に都合のいい様に作り変えられた、本来は悲しい出来事だったと。
「そう、か。この世界にも月は出るんだな。なら、太陽も普通に昇るのか?」
「当たり前じゃないか。ふふっ、面白いこと言うね。なんなら、異世界での初めての朝日、ボクと一緒に屋上で見よっか?」
「ほら、俺は一人じゃねーよな。傍に居てくれるじゃねーか。よくも一人と言ってくれたな?」
何となくくすぐりたくなった。他意はない。湿っぽい感じを吹き飛ばしたいと思いはしたが…。
「ぷ…ふふっ!よ、よしてくれ!ふふっ、に、苦手なんだっ!あ、あははは…」
少しして笑い疲れたのか静かになった。
「ヒドイじゃないかタケル。罰として添い寝してね?」
罰でいいのでしょうか?
「どの道、タケルの部屋はまだ無いんだ。このソファーで我慢してくれないかい。」
ソファーの側面をリーナがカチャカチャといわせると、背もたれが倒れた。おお~ハイテク!ソファー・ベッドってやつか。
「どうだい?お手製なんだ。中に稼動するように色々細工が詰まってるのさ!」
「すごいな。」
「あまり驚かないんだね?」
「まあ、普通に売ってあるからね。」
ホームセンターや、お値段以上なお店で。
「な、なんだって…。そんなぁ、…この異世界人めっ!」
異世界人でごめんなさい。でも、魔法があるからこっちの世界の方が凄いのか?
でも、科学技術のほうが凄いのかね?
どっちがいいだろうか…。
いじけるリーナ、仕方ないよね。異世界だもん。
「むー。これじゃボクが自慢できることはすくなさそうだね。タケルの驚く顔が少しでも見たかったのに。」
「驚く顔って…。俺、今、顔の上半分は仮面で隠れてるからあんまり分からないんじゃないか?」
俺がそう言うと、ジーっと俺の顔を見てくる。
「そうでもないさ、タケルは口元に出やすいからね。これは近くで見ているから言えることだけどね…ふふっ♪」
「なんだそりゃ、驚く顔とはいえないじゃないか…。」
「それだけでいいんだよ。ボクが満足できればね。」
満足するならそれでいいのか?
…ぬ、これは、どうしたものか…。
「どうしたんだいタケル?悪いものでも食べた?」
いや、この世界に来てまだ何も食べてません。水分をとっただけです。でも、その水分が問題なのですよ。
「なあ、こんなことを聞くのは何だが…トイレとかはどうしてるんだい?も、もちろん変な意味ではないぞ?」
「…へ?そりゃあトイレで済ませるに…いや、忙しい時はオムツで済ませるよ。」
大胆発言。オムツで済ませることもあるんですね…。あ、でも、トイレは普通にあるのか、それとも絶対数が少ないとか?
「そうか、で、だな、トイレどこ?」
「あ、あ~。タケルはこの城の間取りとか知らないんだね。仕方ないなあ、ボクが連れて行ってあげるよ?」
恥ずかしいな、その言い方じゃまるで夜中に一人でトイレに行けない子供に仕方なく付いて行ってあげる親のような感じを受ける。
「道順だとか教えてくれれば…」
「なんだい、付いてきて欲しくないのかい?行き帰りに迷ったらどうするつもりだい?」
それは勘弁願いたいな。その時は見回りしてる兵に聞くしか…
「ボクの厚意を無碍にするのかい?」
ぐ、ずるいなその言い方と表情。強く出れない、相手は確かに優しさでできている。
俺の独りよがりに過ぎない。
「…お願いします。」
「ふふっ、素直でよろしい。さあ、行こうか?」
リーナはソファーから立ち上がると、こちらに向けて手を差し出す。
だが俺は一人で立ち上がる。
しかし、手は差し出されたまま。…どうしろと?
「もちろん、はぐれないように手を握るんだよ?…ダメかい?」
愛らしく首を傾けた。
俺は無言で包み込むように握った。
部屋を出て手をつなぎながら廊下を歩く。
「なあ、ちなみにトイレはどういう仕組みなんだ?」
俺は少し心配になってきた。和式・洋式以外の可能性を。
俺の心配に視線を握り合う手元に向けていたリーナは…
「仕組み?そりゃ~スライムが入ってるから、そこで済ませるんだよ?」
は!?ファンタジー世界到来。
スライムにトイレするんですか?
ついていけないぜ、その文化。
「こんなことで驚かれるとは…」
「いや、スライムは魔物、モンスターだろう?」
お決まりだよね!お兄さん的にはお決まりなんだけど。キミ達はどうだい?
「なにを言い出すんだい?スライムは植物だよ?魔物なわけないじゃないか。それとも、タケルの世界では魔物なのかい?」
ああ、そうだな。どっかの不思議でワンダーなランドでは最初に仲間になるぜ?
後は、戦闘のチュートリアルで犠牲になるゲームも…
「実際に存在しているスライムは洗濯のりとホウ砂でできるんだがな。(理化の実験で作ったことがあったりする。)同じ名称だが、ゲームや小説なんかでは空想上の産物ではあるが、モンスター・魔物として扱われていたりするんだよ。」
俺が説明すると「ふ~ん。」などと言って少し考え込む。
「作れるってのは気になるけど…。空想上の産物か。なるほど、でも…植物だよ。スライムは。」
なるほどね・でもしょくぶつだ・すらいむは。
「その植物なスライムはどこに入っているんだ?」
「トイレの個室。」
「…。」
お聞きしたでしょうか?個室にスライムと一緒…。
「?個室に設置してある木箱の中にだよ。まあ、外や簡易な場所だったら縦穴を掘ってスライムの種を植えた簡単なつくりになってはいるけどね。」
和式に近いのか?それとも、木箱とやらで洋式に近いのか?スライムの種ときたか…。
「まだ説明が必要なのかい?スライムが老廃物を分解・吸収するんだよ?簡単だろう?」
「…。ああ、簡単だな。スライムの種とやらはどういうことか説明求む。」
「そのまんまの意味だよ。スライムは種の中に本体が入っているんだ。他の生物の老廃物を摂取して生きている。サイズは種類によって選べるからね。ちなみに、オムツは一番小さい種類のヤツが布の間にはさんであるんだ。一番小さいやつでも布が汚れる心配はないし、手軽に処分も可能なんだ。長時間の作業なんかでは重宝するよ。」
オムツの中にスライム!
おい、そこのキミ。へんな事考えただろう?…俺もだ。
リーナで想像してしまった。ごめんよ…強く言えない。
キーン
<幻術をレジストに成功した!>
<幻術耐性を手に入れた。>
<幻術耐性が上がった。>
「なんじゃと!我の幻術が効いておらぬのか?バカなっ!ええい、もういっちょっ!」
キイイイィーン
<幻術をレジストに成功した!>
<勇者様は幸運でも持ってるのかしら?>
<二連続でレジストとか…ズルクナイ?>
<幻術耐性が上がった。>
<幻術耐性が上がった。>
<幻術耐性が上がった。>
<幻術耐性がMAXになりました。>
俺何かしたかな?幻術といわれてもな…我とかどこの誰さんだよ…。
あと、この感じ、バグパス(カエル魔王)とのやり取りを思い出すのだが?
「タケル?どうしたん…だい?」
リーナの表情がおかしい。熱っぽいのか?
「『レジスト!』『ヒール!』」
リーナを光が優しく包む。
「なんと!我の幻術をレジストするのかっ!」
アナタが何かしらの幻術を使っていたのですか。お嬢ちゃん?
「貴様!我のリーナとおててをつなぐばかりか我を…我を子供扱いしおるな?幻術は止めじゃ!これでどうだ!…うっふっ~ん♪」
お嬢さん、そのポーズはどうかと思いますよ?
ここでなびくのは変態さんのみだ!
俺にはリーナがいる。
堕ちるわけが無い!
<魅了耐性が上がった。>
<ふっ。魅了されてますよ?>
<ね~ね~、魅了されちゃってますよ?>
うぐ…。だって、一瞬だがオトナな女性に見えたんだよ。
金髪のナイスバディーな感じに。
今ではただの幼女だが…バルちゃんとドッコイドッコイ位か?
「き、きき…貴様ぁ~バル子と同じだとか考えなかったか?…魅了も効かないとは…貴様っ!何者?名を名乗れ。」
偉そうだな。
「俺の名はトライ・タケル。魔王だ!名乗ったんだから、お嬢ちゃんも名乗ったらどうだい?」
「は?魔王?ふ、ふふ…馬鹿にするでない!『シャドースピア!』」
ザンッ! がしっ!
「…は?」
呆けてる所悪いが…今度はアコーのシーンの焼き増しか?
芸の無いことで…
「芸が無いな。他に技とかないのかね?それに、リーナに当たったらどうするつもりだ?」
グッ! パシュン!
俺がシャドースピアとやらを握りつぶすと、リーナが…
「危ないじゃないか、お嬢さん?おや?どこかで見たことあるような気が…」
その発言に金髪幼女は即座に顔を逸らした。おや?おやおや?
「まさか、せ「わ~わ~!ごめんなさ~い、おに~ちゃん!」」
リーナが何か言おうとした途端にわ~わ~言い出しながら顔の前で両手をパタパタ、そのまま…リーナの視線から隠れるように走り、俺の左手を掴んでくる。
『おい、トライとやら…言うなよ?』
頭の中に直接声が届く。
『これは珍妙な…混ざっているな、お主?本当に魔王なのか?』
悪かったな、勇魔族って言う聞いたことない種族らしいからな。片角だしよ。
『勇…まさかな、カエルの小僧が言っていた勇者召喚か!?』
その通りでございます。せ、ん、せ、い、さん?
『言うなよ…ゼッタイ言うなよ。リーナには満月の夜の姿しか見られたことが無いんだよ。こんな姿な我を知られたら威厳が無くなる。それだけはイヤじゃ。』
なるほど。だから満月の夜しか現れないと言っていたのか。でも、リーナ曰く気難しくて、すぐに拗ねちゃうような先生だと言っていたぞ?その時点で威厳も何も無い気がするよ。
見てくれ(みかけ)さえ良ければ良いのか、勇者殺しの魔王よ。
『ぐ、ぐううううぅ~それだけは言うな。それだけはな。トライ、貴様を殺してくれようか?あ?リーナの想い人か何か知らんが、それは言うなよ?我とアヤツの日々を愚弄することだけは許さん。…て、リーナの想い人なのか!?』
顔を真っ赤にする先生。大丈夫だろうか?にしても想い人ね…。
光栄だよ。
教え子の春だ、祝福してくれよ?先生。
『なんじゃ、先生、先生と貴様にそう呼ばれる筋合いは無い。ヴィオリラ様と、そう我を呼ぶが良い。カワイイ教え子につく虫は払ってやろうか?子ども扱いしおってからにっ!幻術も魅了もダメとかチートじゃろっ!満月の夜ならフルパワーでけちょんけちょんにしてやれるというのにっ!このナイスガイ仮面めっ!我にも来い、春よっ!なぜいつもいつも教え子の結婚式にだけ参加せねばならんのじゃ…。我もウエディングアイルを歩きたいのぅ…。』
表情がころころと変わる愛らしい顔だな、早口でまくし立てられたが…
ねえ、知ってる?
ヴァージンロードって日本人が作った言葉なんだよ?
だから他所では通じないから、間違えないようにね!
今、ヴィオリラ先生が言ったウエディングアイルもしくはウエディングロードが本来の呼び名です。
てか、ヴィオリラ先生はチートとかけちょんけちょんとか、なんだろうか…幼い。
『ぐぎぎぎ…だからのうっ!気安く先生と呼ぶな!様じゃ!様!ヴィオリラ様!オーケー?それに、幼稚じゃとっ!これだから最近の若いモンは…』
年寄りぶるなよ、婚期を逃すぜ?若作りじゃなくて若いんだからさ、もったいないよ?
『う、くうぅ~。お主みたいな男、他におらんかね?それとも、ハーレム目指すか?のう?ほれ、ほれ、我の魅力の虜にならんか?な~な~ならんか?』
俺の左手にむぎゅむぎゅしてくる幼女。
姿は豪奢で白が多めなゴシックドレス。スカート丈が短い気がする。
フリフリフリル…。
「む~、なんだい、さっきから二人でイイ感じな雰囲気出して…アイコンタクトとか…実に面白くない。」
リーナの機嫌が悪くなってしまった。
「ごめんよ。謝る声が小さくてな、ちゃんと反省しているか目を見て確認していたんだ。この子は大丈夫、もう悪いことはしないさ。な?」
ばれたくないんだろう?何か考えておけよ?俺はそれなりに合わせれるが、これからのことを考えておくんだな。その姿で見かかってもフツーに教え子と会話や行動ができる言い訳を。
『ぐ…心遣い感謝する。だがの~そういうのが苦手じゃから隠れてコソコソしておったんじゃ。それが、それがのう…今宵リーナとトライが幸せそうにおてて繋いで歩いておった所を見てしまい、いてもたってもいられず行動してしもうたのじゃ。』
何だかごめんなさい。だが、リーナが手を繋いでほしいと言ってきたんだよ。
「そうなの~、おね~ちゃん。ごめんなの~。」
何だその言い方はっ!違和感が無い!大丈夫かオトナな先生よ。
「そうなのかい…でもボクの名前知ってたよね?ボクは初めて、いや似たような顔をどこかで…まさかっ!」
ヴィオリラの顔を近くでじっくりと見るリーナ。柔らかい膨らみが俺の右腕に押し当てられているのは…わざとかい?でも、あまり気にしてる感じが無いな…。集中すると周りがあまり気にならないのか?
『や、やばいのじゃ!バレるっ!てか、ずるいの~リーナの膨らみを味わうとは…けしからん。我にもその柔らかい感触を分けておくれ!我も堪能したい!』
ピンクな先生だな…よく嫌われずに済んできたものだ。
女性の柔肌を求めるなんて、自分の方がぷにぷにだろうに…。
『我と他者とではやはり感覚が違うの、これでも表情や行動に出さないように気をつけて接してきたの。先生が教え子に手を出すなんて、社会的にダメじゃろう?おぬしの世界でも、おまわりさんこっちです。って言われるのがオチじゃ!』
詳しいな。この世界にもおまわりさんはいるのかね…素朴な疑問。
でも、兵がいるから問題ないのか?
何かに辿り着いたらしいリーナは嬉々として語りだす。
「先生のお子さん!?ご結婚なされていたんですね…先生。それに、お子さんも…バルちゃんくらいの背丈まで成長されてるのに、一度もお目にかかれなかったとは。」
先生のお子さんだそうです。
ご結婚なされていたんですね?
ねっ?
『ぐうっ…トライ、貴様っ!うう、だから満月の夜以外で遭いとう無かった!生娘なのに~!子とか!娘とか!うわわ~んっ!!!』
涙を浮かべながら…えらいこと言うな、凄い生々しい情報だ。
「そうなの~おね~ちゃんはママから聞いたの~。でね、知らないおに~ちゃんと一緒にいたから、助けてあげようと思って魔法を使ったの~。」
幼稚な喋り方は心が痛む。リーナにかけていた幻術を解いてごめんなさい。
『同情のようなことするなら、婿になれ!』
どっかでか聞いたフレーズに似ている。
「そっか、それは悪かったね。タケルはやさしいからアコーの時みたいに許しちゃうんだろうけど…。お名前は?なんて言うのかな?」
「リラだよ~。」
「へ~先生の名前を短くしたような名前だね~リラちゃんよろしくね~。」
無言でコクコクと頷くリラ(ヴィオリラ先生)はとても複雑そうな顔をしていた。
◆ヴィオリラ【---】
・吸血鬼
・金髪、碧眼
・古の魔王(勇者殺し)