◆叔母とタケル
リビングのソファーで呆けるのは兄さんの一人息子のタケル。
そう、アタシの甥っ子である。
「ねえ、タケル?タケル?」
声をかけるが…
「父さん?母さん?」
アタシの声に反応せず、電源の入っていないテレビの画面を見ながら呟く。
いや、まさかね。
仕方ないので甥っ子の肩に手を置き前後に揺する。
あら?
この子…こんなに筋肉質だったかしら?
「っ!?え、あ…こんにちは。」
やっとアタシに気づいたのか、挨拶してくる。
「もう夜中よ。近所のかたから渡来さんの家が数日電気がつかないから心配になって実家のほうに電話してきたのよ?」
アタシとも面識がある近所のかたからの電話。
車も駐車場に停まったままで、出かけた様子も一切無いのに数日もの間静かな所為か心配になったのだと。
「父さん?母さん?…」
またである。
この子に何が起きたのか…
いや、心当たりはある。
「そう、そうなのね。兄さんと義姉さんは…旅に出たのね?」
「旅?」
アタシの言葉に首をかしげた後…
「多分そうだと思います。旅行に…旅行に…。」
ああ、この子にまで『アタシ達』の『家系』は、『血』は、荷を背負わすのね。
同じ言葉を繰り返す甥っ子の姿を見て、忌々しげにアタシは下唇をかんだ。
世界め。
甥っ子の身に起きてしまったことはどうやら『無かったこと』にされたらしい。
だが、記憶や出来事は消せても…
鍛え上げられた肉体までは無かったことにはされなかったらしい。
良くも悪くもだが、ね。
既に常人の域を超えた<ステータス>を持っている可能性がある。
普通の生活に問題が無ければ良いのだが。
多分、兄さんはタケルだけを帰せたのだろう。
だから、遠いどこかに居る。
もしかしたら、義姉さんの世界に住むことになった?
まあ、どの道知ることはできない。
そう書き換えられただろうから…
甥っ子をこのままにもしておけないし、アタシが傍に居てあげたほうが何か問題が起きたときにも対処できるだろう。
「待っていても帰ってこないと思うからさ…。今日からよろしく、タケル。」
「…はい。」
まずは夏休みのうちにまともな状態に戻さなければ…