3.逞しい背中に『計三回』
いや、兵器ってそりゃないでしょ!
「勇者が魔王や魔族を殺すのは王族のかける隷属魔法の所為なのよ。」
あ、カエルも隷属魔法を~って言っていたな。
それじゃあ、本来の勇者は魔族を襲うようなことはまずないわけだ。
「それじゃあ、俺は大丈夫なのか?」
「そうでもないわね、戦闘狂や殺戮者だったら、何をしでかすことやら。」
そんな恐ろしいやつらと一緒しないでほしいな。
「そんな顔しないでよ、トライオス。アナタがどんな人間なのかを知らない私たちからすれば恐怖の存在なのよ?」
そんな言葉をかけつつ、腕を組み、胸を強調してくるヴィオリーンよ、強かだな…
「タケルはそんなひどいやつじゃないよね?ボクたちに回復魔法をつかってくれたし、リーンのことも大事そうにしていたじゃないか?
見ず知らずの赤の他人が倒れただけで必死になるような男だからね。
ボクを幸せにしてくれるはずだ!!!」
へ?いや、確かにそうだが…
さり気なく「ボクを幸せ…」て付け足さなかったか?
「トライオス陛下…。」
な、何だその眼差しは!
ふと、カエルの魔王が言っていた言葉を思いだす。隷属の術式を背に描くだったか…
そうだよな、俺自身それが描かれていたら今頃やばかったかもな。
アレの駒で過ごすとかどんな罰ゲームより恐ろしい!!
ん?まてよ…
「なあ、そんなに心配なら…魔王の間にある魔法陣とやらで確認してみるか?」
お!?今エルフ耳が反応したぞ!
ついでにネコミミも…
後、強調されている胸も跳ねた。
「そうね、そうよね。私自ら見届けてあげるわ。」
「ボクも、知りたいね。」
「じ、自分がついていってもよろしいので?」
いや、今更だろうレベック?
今までずっと参加していたのにのけ者はやだろう。
「それじゃあ、行こうか♪あ、ボクは閉じまりするから最後に出るよ。」
そういわれたので、ヴィオリーン、俺、レベックと部屋から出る。
すると、先ほどの鎧三人組が廊下で敬礼していた。
「レベック、陛下のお付き頼んだぞ。見回りはこちらでするから気にするな。では、いくぞ。」
「「失礼します。」」
ちなみに、レベックは兜を被りなおしている。そして、今の言葉に敬礼で答えていた。まあ、仕事中だから兜を付けなおしたのか?
「それじゃあ、行きましょうか。」
「『ロック!』よし、今鍵をかけたから大丈夫だよ。」
廊下の明かりに目を向ける。
駆けていったから気に留めていなかったが、この光っているのは松明とかじゃないんだな。
光る石ころが詰めてある。
「それはね、魔光石と魔石が詰めてあるんだよ。
光の強さも調節ができる優れものさ!
昔は松明を利用してたらしいけど、今ではどこの国でも似たようなものさ。」
「というと、人間国や魔族国以外にもいくつかあるんだな?」
「そうだね~ボクが知っているだけでもこの大陸にはかなりなもんさ。
王がいて、国と主張する所が10ヶ所くらいかな…。
後は遊牧民や森の中から出ない部族、少数部族なんかもあわせたら100じゃ足りないよ。」
は~色々あるもんだな。
「現時点で他の国との戦争とかはないのか?」
「いい質問だね。答えはNOだよ。今のところだけどね。
ノータッチや、交易をしてくれるところ、共同開発なんかや、まあ国ごとにさまざまだね。」
「そんなんで戦争が起こったら?」
「助けてくれるかどうかは分からないね。
ほとんどの国は不干渉かな。
まあ、自国に火の粉が降りかからないための仕方ないことだろうけど。」
ですよね~。
国同士強い絆を作ったり連合国的なものを目指せば可能か?
「トライオス、その話はまた詳しくしリーナとしてなさい。
私は勉強したくないわ、頭が痛くなっちゃうのよ。」
まてよ、これが勉強って…
どうやって国を支えるつもりでいたんだこのお嬢さん。
「諦めるべきだよ。リーンはこういう子だからね。
そのための協力者って言っただろう?
それに、ボクとしてもタケルと2人っきりで深く話し込みたいからちょうどいいさ♪」
話しながら移動していると、俺が召喚された部屋の前に着く。
そして、ヴィオリーンが扉を開くと…
「『許さんぞおおお~』」
半透明で足の消えてる『元魔王が襲ってきた!』
ゴスッ!
<ゆうしゃ は まおうのぼうれい を たおした!>
<レベルがアップしました。>
<最大HPが上がった。>
<最大MPが上がった。>
<攻撃力は上がりませんでした。なぜでしょうか?>
<防御力が上がった。>
<素早さが上がった。>
「凄い執念だったね。でも、タケル。
ゴーストに物理が効いていいのかい?」
いや、俺に聞かないで欲しいんだが。
ヴィオリーンが危ないと思ってとっさに拳を出したら殴れた。そして、消えてしまった。
それにしても、攻撃力がどうしたんだ?<なぜでしょうか?>って言われても知らないんだが。
「私としては何が何だか…でも、ありがとうトライオス。」
「無事で何よりだよ。」
俺がそう応えるとそっぽを向いてしまった。
「(その笑顔が見れて私幸せ!)」
「む。その魔法陣とやらの上にボクのアイテムが…」
そうだったな…試しに使ってみるか。
覚えたばかりの
「『レジストフィールド!』」
その言葉と共に魔王の間が白い光に塗りつぶされた!
「「まっ、眩しい!!!」」
レベックは兜のおかげで効かないものかと思っていたが隙間から光なら差し込むか。
リーナはサングラスのようなものを白衣のポケットから取り出し、いつの間にかかけていた。
「ん?これかい?密林に出てくる虫型の魔物『オオクロバネカゲロウ』の羽を加工したものだよ。
眩しい時は重宝してるんだ♪」
やっぱりサングラスみたいなものか。
俺もほしいな…
だって俺も眩しいんだもんっ!
そして、光が収まると石ころが消えて、砂のようなものが残っている。
「それで、この魔法はなんだい?特殊魔法なんて使えたのかい?」
「いや、さっき覚えたばかりのレジストフィールドって言うレジスト系の魔法だが?」
俺の発言に呆けたように口を開く…
「なんだろう…回復魔法で相手を倒せそうな気さえし始めたよ…。」
「俺に言うな。まさかこれほど眩しくなるとは思わなかった。
熟練度が上がるって威力も上がるんだろうかね?」
「まあ、そうなるよ。でも、規格外だね!流石、ボクの勇者様だよ!」
リーナよ、なぜ君が偉そうなんだい?
「「…。」」
残りの二名様がすごいジトッとした視線をリーナに向ける。
だが、気にした様子は無い。
「さて、ボクの結界石も完全に無効化っと言いますか…
砂になってる。さっきまで石のカタチしてたよね?」
「それも聞かないでくれ。」
四人で魔法陣の側に寄る。
俺は、背中に何かあると思い、ローブを脱ぐ。
「「「…ん、ごくり。」」」
三人そろって生唾を飲み込んだ。
「おーい、何か描かれてたりするか?なあ、返事してくれないか?」
「あ、ああそうだね。ローブの所為でわからなかったけど、これほどとは…筋肉質なんだねタケル。
とても広くて、逞しいよ。」
「いや、背中の感想はいいからさ…。」
三人に背を向ける形をしているからどのようなことをしているのか分からない。
うおっ!つめたいっ!
だれだ!背筋をなぞってるのは、くすぐったい。
「これは、古代文字かしら?」
「ん~ボクにはちょっと分からないかな。」
「自分、読めそうです。」
読めるのかレベックよ。
リーナもヴィオリーンも分からないといっていたのに。
「こしょこしょこしょ…」
そこはなぜ俺に聞こえないように…気になるじゃないか!
「「なっ、なんだって!」」
お二人さんの驚く声だけが部屋に響いた。
「実に興味深い。丁度ここには三人だ、一人一つとしよう。」
「じ、自分もよろしいので?」
「レベック。私だっておんなじ気持ちよ?いいの、リーナ?」
「ああ、ボクだって独り占めするつもりはないよ。
タケルは勇者で魔王な勇魔族。
多分、この世界に初めての存在で、唯一となる者だ。」
「歴史的な魔王ね。
私が魔王するよりこの国のためになってくれるならそれでいいわ。
私は支えるだけ。
でも、そんなトライオスを支えれる一人に私がなれるのね。」
なんだなんだ…会議し始めちゃったぞ。
「タケル。もう少し待っていてくれ。今からちょっとした事をするからね。
これで、タケルは隷属魔法をかけられなくなるはずだから。」
そう言われると待つしかないよな。下手すれば兵器になりうるといわれちゃあしょうがない。
「それじゃあ、レベック。いいね、ボク達三人の秘密でもあるんだよ?」
「わ、わかっています。陛下をお支えできるのであればそれで…」
「は、恥ずかしいわね。」
腰の上辺りに柔らかい何かが押し当てられた。計三回。
それが終わると足元の魔法陣が淡く青く光った。
「なあ、なんだったんだあれ?柔らかい何かが当たったきがするんだが?計三回。」
「「「…。」」」
返事が無い。
仕方ないのでローブを着なおす。
「私としては、これでトライオスが魔族の国にとって危険な存在ではなくなったと思いたいわ。」
「ぷしゅ~、な、な、なぉ~ん。」
レベック、一番問題がありそうだ。いつの間にか兜外してるし、顔が真っ赤だ。
それに、声が少し違うような…
おかしいなぁ、男っぽい声してたはずなのに中性的に思えて仕方がない。
「レベック!声、いいのかい?」
「へっ、にゃっ!あ、あ、あ~。戻りましゅたか?」
噛んだ。そして、最初の頃の声に戻った。
なんなんだ?いったい…
「タケルは今は気にしなくていいよ。これはレベック自身の問題だ。」
はあ~そうですか。わからんことや教えてもらえないことばっかりだな。
「で、この後はどうするんだ?俺としてはサッパリなんだが…」
「そうだね、ボクの部屋に戻ろうか?ハーブティー位は用意するよ。」
それはありがたい。のどが渇いてきたところだったからね。
そうして魔王の間を後にする。
行ったり来たりだな。
「『アンロック』よし、開いたよ~。ど~ぞ~中へ、散らかってるかもしれないけど。」
「いや、さっきもここ居ただろ?俺は気にならなかったが…。」
「タケルが気にならないならそれでいいさ、それじゃ用意するよ。」
そう言って部屋の隅の石造りの台へと移動しポットやら乾燥させた葉っぱ(ハーブかな?)を準備していく。
「タケルには、魔石や精霊石なんかははじめてだろう?見てみるかい?」
お呼びのようだな。
ヴィオリーンは寝ていたソファーに、隣りには兜を外したレベックも座っている。
俺は、部屋の物を少し見て歩いていたが、リーナの横に並ぶ。
「ああ、知らないな。御教授願おうか?」
「ふふっ、いいよ。ボクの横に来てくれないかい?」
これは台所みたいなものか?
コンロやHIヒーターのようなものは見当たらないが、まあ異世界だからな、代わりの品があるのだろう。
「これがね、あたためるための台だよ!ここに自分の魔力を流すとね…
ほらっ!こんな感じに赤くなるんだ。
これは、内蔵された赤の精霊石の力を使用しているんだ。
燃料が自分の魔力!すごいだろ~」
エコだね!精霊石とやらは凄いな。
「すごいな。精霊石ってやつは…」
「んふふ…でしょ?でも、いつかは中の石の力が弱くなっていって、なくなっちゃうから交換しないといけないけどね。」
電池みたいだな。
『コトコトコト…』
お湯沸くの早いなぁ。もう少しリーナに寄り添って居たかったのだが…
「そろそろだね。それじゃあタケル、そこの棚からカップを用意してくれないかい?」
「リーナは自分用とか持ち合わせてたりするのか?」
俺は人数分のカップを木製のトレイにのせながら聞いてみた。
「いや、そんなこだわりは持ち合わせていないね。あったほうがいいかな?」
「そうだな、個性が出て分かりやすいしな。他の人のと取り間違えもしないですむ。」
俺がそう答えると、考え込む…が
「そうだね、機会があればマイカップを用意しよう。でも、タケルと間接キスならボクは大歓迎だよ?」
自分で言っといて顔を真っ赤にするリーナ。
これはどうしたものかね…俺も頬が赤くなってるな。うん。
そう思っていると、後ろのソファーのほうから
「くか~!くか~!…むにゃむにゃ。くか~!」
誰だよ!こんなイビキしやがるのはっ、…ヴィオリーンでした。
隣に座っているレベックも俺の視線の先に流石に苦笑いしている。
「しかたないさ、いつもなら寝てるんだろうし。いろいろ起きすぎたんだろうからね。
そっとしといてあげよう。冷めちゃうけど、その時は誰かがおかわりすれば良いや。」
すでに四つのカップにハーブティーを注ぎ終わったリーナがそう言った。
だよな、色々とありすぎた。
俺も…
「タケル。遠い目をするのは良いけど、これからなんだよ?」
「それは分かっている。この世界に召喚されて、勇者になってこの国を滅ぼしていた可能性もあったんだよな。それに比べれば、魔王のほうが断然いい。」
机の上にトレイを置きながらそんな事を話す。
「ボクと運命的な出会いもできたし、兵器にもならずに済んだわけだもんね。」
「運命ね。なら、カエルの魔王に感謝するか?」
「は、ははは…そうなっちゃうかな。まあ、さっきタケルが倒しちゃったからもう本人には感謝の言葉を言えないけどね。」
カップをレベックに渡そうとすると…
「じ、自分は冷ましてから飲みます。舌がひりひりするんですよね。」
猫舌でした。それならしょうがないか…そう思い、手に持つカップは自分のとして飲んだ。
ハーブだが、少し甘さがあるな。
熱くて飲めないことはないようだ、匂いはリンゴに近いかな?
「どうだい?少し甘く思えるかもしれないけど、ボクは好きなんだ。
ラーベルに頼んで用意してもらったんだ。」
「ラーベル?用意してくれたということは、商人か何かかな?」
「あ~明日、いやもう今日か…会わせるよ。城の庭師?まあ、植物の手入れをしてくれているアルラウネだよ。ボクより昔から居るみたいでね、色々と頼んだら植物を用意してくれたり、育ててくれたりするんだ。」
アルラウネね、マンドレイクに人間の血を与えると生まれるとかそう言うのを聞いたことがあった気が…。
「ん?どうしたんだい。アルラウネという種族が気になるのかい?ボクの知識では彼女達は植物のマンドラゴラが年月を経て妖精化したとされているんだ。種族的には妖精だよ?」
妖精化ときたか…本人様を見てみないことにはわからんがな。
「自分は、あの場所の匂いは色々と混じってて長い時間はキツイです。」
「それは仕方ないと思うよ。レベックは獣魔族で身体強化だってするじゃないか。
ボクが思うに鼻が少し良すぎるだけさ。」
ネコミミがくにゃっなってる!
くにゃってへにゃってる…。
自分で思っといて何が言いたいんだ俺は。
「へ、へへ…おじ~さま。りーんはまおうになたですよ~。なでなで~。」
幼い喋り方だな。両親は…
「タケル。その子の両親とか思っただろう?」
「そりゃあ、お祖父さんの事しか出てこないからな、気にはなる。」
「ボクも、教えてもらえてないんだ。ボクがこの国に住んでもうすぐ十年になろうとしてるかな。
ボクは、狩なんかよりも多くを学びたかった。だから、親や部族の皆から離れて、様々な者達が暮らすこの国に訪れたんだ。
その時には、すでにリーンは独りだった。」
これは聞くべきではないな。
「こんな事を聞くのはアレだけど…タケルの、元の世界に家族は?」
あ~そうくるよな。
「い、言えないなら…」
「居ない。いないんだ…16になったあの日から、帰ってくることはなかった。だが、叔母なら一緒に住んでいたよ。元気にしているかな?いや、まだ半日も経ってないか…」
「ごめんよ。この話はお仕舞いでいいかな。」
そして、無言になる。
しばらくの間静まり返るが…
「あ、あの~そろそろ、お願いできますか?」
いや、ソファーから動けないのは知ってるよ、ヴィオリーンが膝を枕にしだしたもんな…
「ぬるいくらいだが大丈夫か?」
「それくらいで大丈夫です。ありがとうございます。」
両手で受け取るとちょびちょびと舐めるように飲み始める。
これはこれでいいものだ…。
すっかりネコミミに毒されているな、俺。
すると、自分の椅子に腰掛けていたリーナが立ちあがるとハンカチ?ガーゼ?まあ、白い布を取り出してソファーに近づく。
そしてヴィオリーンのよだれを拭い始めた。
「困ったものだよ、この子にはね。さっきの話になるけど、この国に来てすぐに城のほうに招かれて、色々と話し合いに参加してね。
いつの間にか、リーンの家庭教師さ!
勉強しながらでも合間に教えてくれればいいからってたのまれちゃったんだ…ヴィオロン陛下に。
とても名誉なことなんだろうけどさ、勉強嫌い過ぎてね…
教えるボクは頭を抱える日が続いたよ。」
「やっぱり家庭教師とかしてたのか…」
「ん?なんだい、タケルには想像できてたのかい?」
「ああ、今度は俺の家庭教師になるのかね?」
俺の言葉に目を細めると、よだれを拭いた布をポケットに大事そうに入れた。
そしてゆっくり歩きながら机の前、いや、俺の横に来ると…
「家庭教師がいいのかい?もっと違う形もアリだと思うんだけど?」
仕草が色っぽいんだよな、オトナな感じがする。
「例えば?」
「それは、ボクの口からは言えないかな~♪」
教えてくれないことばかりだな…リーナ先生殿よ。
「それにしても、タケル裸足だよね?足の裏痛くない?」
今更か…足の裏はどうやら丈夫らしい。
確認してみたが、少し汚れていただけだった。
でも、ずっと裸足でいるわけにもいかないよなぁ。
「今の時間帯でも動ける子に用意させるかな。」
リーナはそう言うと机の上の綺麗な石を握り、指で弾いた。
少しすると駆け音とともに扉が勢い良く開かれる。
「失礼しマースッ!!!」
ゴスッ!
大声を上げながら入って来た人物の顔面にその握っていた石を投げつけた!